ジンクス
挨拶まわりもあと少し頑張ります
超ご機嫌のグラントと昼食を頂きグラントは仕事に戻り、私は第1の女性騎士の皆さんの元へ挨拶に向かう。
今日の護衛ガイさんとジュードさんに連れられ女性騎士さんが待つ広間に着いた。任務中の方を除き10名弱の騎士さんが集まってくれた。
隊長のジャンヌ様がハグしてくれ皆さんと暫し歓談をする。やはり女性と話すのは楽しい。ここでジャンヌ様からプチ情報があった。
「モーブルは女性騎士がいないそうです。ですから侍女が訓練を受け騎士が側にいない時は侍女がお守りするそうです。侍女がどの程度の実力か分かりませんが、出来るだけ騎士を側においてご自分の身を大切になさって下さい」
「そうなんですね。知らなかったです。ありがとうございます。まぁ…私を襲っても意味無いと思うんですがね」
「多恵様。ご自分が何度危ない目に合われたかお忘れですか⁉」
そう苦言を呈するのは誘拐事件の時に護衛に就いていたミリアさんだった。
「えっと…そんな事もありましたね。すみません…気を付けます」
あと気になったのは女性騎士さんが口をそろえてモーブルの男は必要以上に過保護で自由にさせてくれないという。
「今時、女性に何もさせない何て馬鹿にしているわ」とみんな嫌な顔をする。
「私も少し聞いた事がありますがそれほどですか?」
「女性に頼られないと男じゃないって考えみたいですよ。だから女性騎士がいないんです」
「ふ…ん」
この話を聞いてシリウスさんを思い出した。そんな感じだった。明日のお迎えシリウスさんだったなぁ…
「多恵様?」
「ごめんなさい。ぼんやりしていました」
ミリアさんが手招きするので近づくと前は何度聞いても教えてくれなかった恋人を教えてくれた。
「えっ!!マジで!」
人差し指を口の前に立ててウィンクするミリアさん!意外な人に口を開けてしまう。小声で
「お幸せに!」と言うと頬を染め微笑んでくれた。
心がほんわりした所で女性騎士さんに改めてお礼を述べ、昨日行けなかった針子さんの所へ向かう。責任者のケイトさんをはじめ皆さんに迎えられ話に花が咲く。一番ベテランの針子さんがもじもじしながら控えめに質問してきた
「多恵様…あの…グラント様とご婚約されたのは本当ですか?」
「ええ…皆さん情報が早いですね」
「わぁ!おめでとうございます!お似合いだと思っていたので嬉しいです。失礼な質問なのですが…キース様とはなさらないのですか?」
「ん…1人では出来ないのでお答えできないですね」
すると一番若い針子さんが
「私はグラント様も素敵ですがキース様の方が多恵様にお似合いだと思います!是非婚約して下さい!!」
どうやら針子さん達は“推し”がいるらしい。グラント派は喜んでいて、キース派は何故婚約しないのかと詰め寄る。
「では!キース様から申し込まれたらするのですか?」
「えっと…」
あまりの迫力にたじろいでいると針子の責任者のケイトさんが針子達を窘める。
「いくら多恵様が親しく接して下さるとはいえ度が過ぎます。これは不敬の域です。多恵様申し訳ありません」
針子の皆さんが一斉に頭を下げる。
「いえ、気にしていません。楽しいガールズトークだと思っていますから」
護衛の騎士さんも険しい顔をして場の空気が悪くなる。
「キース様との事はご縁があれば前向きに考えますね」
と茶を濁し挨拶を終えた。
この後一旦部屋に戻り休憩しながら大好きなチーズスフレをおやつに頂く。まったりしていたら誰かが部屋に来たようだ。サリナさんが対応してくれる。
「多恵さん。キース様がお見えですが如何なさいますか?」
「へ?今来てるの?」
「はい。扉前でお待ちです」
何故このタイミングなの⁈さっきの針子さん達の会話は前兆だったの?
「多恵さん?」
お待たせするわけにいかず許可を出すと綺麗な青い薔薇を両手いっぱいに抱えてキース様の登場。すぐにキース様はサリナさんに退室するように指示しキース様と2人っきりになる
「キース様?」
「急に訪問し申し訳ございません。その…」
キース様は正装をされていて用件を聞かなくても“求婚”だって分かる。慌てて声が上ずる。
「本当は多恵様がリリスの役目を終えたら求婚をしようと考えていました。しかし、先日グラント殿とモーブルに移られる貴女の為にモーブルに交代で会いに行く事を決めた時にグラント殿が婚約者の方が面会しやすくなるので、婚約をした方がいいと言われまして…」
「はぁ…」
キース様は目の前で跪いて青薔薇を差し出して真剣な面持ちで
「貴女の生涯に寄り添う権利を頂きた。お傍で護り苦楽を共にしたい」
心の何処かでグラントから求婚されたからもしかして…と心算していたが、実際されたら素直に嬉しい。キース様は私の性格をよく理解してくれている。本当は箱庭の問題が全て終わってから結婚を考えたい。でも確かに2人が言う様に婚約者の方がモーブルに来易いだろう…会いに来てくれるのは非常に心強いし!断る理由はない
「不束者ですがよろしくお願いします」
一瞬驚いた顔をして破顔するキース様。いつもクールなキース様のその笑顔は眩し過ぎて目が潰れそう!
花束を私の腕からテーブルに移動し優しく抱きしめて幸せな口付けをくれる。荒々しくないけどドキドキが止まらない…
耳元で「世界一幸せにします」と囁かれ身震いした私を更に強く抱きしめるキース様。
すると腕を緩めたキース様はポケットから小さい箱を取りだし目の前で開けた。グラントやフィラから貰ったのと同じ感じの指輪だった。
プラスに臙脂色の宝石の指輪⁈
キース様はゆっくり左手薬指に指輪を嵌めてくれる。私の指に3本のリングが光る。
私はキース様を見上げて
「婚約したから“多恵”と呼んで下さい。距離が縮まる様に…私は“キース”とお呼びしていいですか?」
「多恵…」低音イケボで囁かれまた口付けを頂く。
抱きしめられながらテーブルにある青薔薇が目に入る。『なぜ青なの?グラントは自分の瞳の色の薄紫だったよ』疑問に思い聞いてみる事にした。
「キース?なぜ青い薔薇なんですか?」
「多恵が侍女の婚姻祝いを買い求めた時に幸せになるジンクスの話をしていたのを思い出したのです。貴女には幸せな花嫁になって欲しくて青い薔薇にしました」
他愛もない会話を覚えてくれていたと思うと感極まって自分からキスをしてしまう。キースは驚きながらも受け入れてくれる。
「今日は城下に泊り明日の出発の儀に出席します。明日ほんの少しでいいので時間を下さい」
「えっと…サリナさんに相談してみます」
そして最後の挨拶に行く時間が来てサリナさんが入室許可を求めて来た。キースは最後に軽く口付けし退室していった。私の手を見てサリナさんが微笑み
「キース様の求婚もお受けになったのですね」
「うん…」
「おめでとうございます」
「ありがとう?」
こうして婚約者が3人になり侍女控室に最後の挨拶に向かった。侍女の控室に行くとお世話になった侍女さん達にお礼を述べると、何故か皆んなにお祝いを言われる。どうやら私が婚約したのを知っているようだ。
「どこで聞いたんですか?」
「多恵様。正装した殿方が両手いっぱいの花束を持って歩いていたら求婚以外にありませんわ」
どうやらグラントもキースも超級の美丈夫でその上正装に花束だ。目立つに決まっている。
お礼を言いに来たのに質問攻めに合いタジタジになってしまった。何処でも恋話は女性の大好物の様だ。エスカレートする質問に静観していたケイティさんが怒りやっと終わりホッとする。
最後にお礼を言い控室を後にした。後は陛下達との夕食と泣いちゃうのが分かっているからサリナさん、ケイティさん、マリカさんは就寝前に挨拶する事にした。さぁ!夕食に行ってきます。
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