プロポーズ
挨拶まわりに出かけます。
陛下との食事の帰り中庭横の通路を歩いていると前からグラント様が来た。目が合うと駆け寄りいきなり両手で両頬を持ちあげる。突然の事に私もエスコートしてくれているレオさんも声もでない。
「何かありましたか?」
「へっ?」
「涙の痕が…」
「あ!陛下と食事をして話していたらちょっとナーバスになって泣いちゃいました」
「…」
結局ここからはグラント様にエスコートしてもらい部屋に戻った。部屋に戻ると何かを察したケイティさんが扉を少し開けて退室する。
2人きりになるとグラント様は抱きしめ口付けする。激しいのを覚悟したが優しい口付けだ。グラント様の腕の中はいつも通り暖かくて安心する。
「やはり…モーブルに移るのが不安ですか?」
「う…ん不安というより寂しいかなぁ…きっとモーブルもアルディアみたいにいい人達なのは頭では分かっているけど…」
「出来るなら私も同行しお傍にいたいが…」
「きっと楽天家の私は行ったらすぐ慣れると思うんですがね…今はちょっと弱ってます」
「ならば貴女の傍に貴女を慕う者はおかない方がいいですね」
「何故?」
「弱っている貴女にアプローチする可能性があります。さっきのレオ殿の様に」
何でレオさんなのかよく分からないが確かに今優しくされたら弱いかもしれない。
「ところでグラント様。用向きは?」
「ケイティ嬢から預かった挨拶の順を持ってきました。効率よく回れるようにしてあります。夕刻には終わる様に早めに始めてください」
「ありがとうございます。またアルディアには戻って来るけと何時戻れるか分からないから、お世話になったお礼は言っておきたくて」
「貴女らしいですね。多恵様…夜訪問してもいいですか?」
「遅くで無ければ」
「ありがとうございます」
また口付けて微笑み外に控えるケイティさんを呼んだ。お仕事がまだあるグラント様と別れて早速挨拶回りに向かう。
グラント様はやはり仕事が出来る。まわる順番は無駄がなくあっという間にまわる事が出来た。部屋に戻る頃には6刻になり丁度夕飯時間となった。
挨拶に行く先々でまずチョコのお礼を言われる。チョコは高級品らしく下働きの人達は中々口にする事が出来ない。初めての人も多く感動された。
何にせよ喜んでくれたのとお礼を言え満足だ。
はぁ…今日は営業終了で後はゆっくりします…じゃなかった!グラント様が来るんだった。
本当は湯浴みを早く済めせて寝室でてん君と戯れたいけど約束したから仕方ないなぁ…そして夕食後6刻半にグラント様が来た。
「へ?」
正装をし両手に抱えきれない程の薄紫の薔薇を抱えての登場に固まる。すると夕刻から就いてくれているサリナさんが気が付くと退室している。
グラント様は目の前の来ると跪いて薔薇を差し出した。これって…
「貴女がアルディアに帰ってからと思っていましたが…やはり待てない。候補ではなく私と婚約しアルディアに戻られたら私の妻になって下さい」
「えっと…プロポーズ⁈」
そう、正式にグラント様からプロポーズを受けた。
「えっと…」
「婚約はモーブルで虫が着かないようにする為のもので、貴方を束縛するものではありません。貴女は思うままに過ごせばいい。そして女神リリス役目を終えて私を受け入れてくれるなら妻になってほしい」
“いずれはプロポーズされるかも”と思っていたが実際されると密かに嬉しい。でも…婚約って口約束でいいの?何か書面に残したりどこかに届出とかするの?正直そんな時間無いんだけど…
「あの…明後日にはモーブルに行くのに婚約とかって手続きが大変で無理なのでは?」
「書面にサインするだけで紙きれ1枚のものです。そこはあまり重要視していません。貴女の婚約者という肩書が欲しいのです。婚約者ならば大手を振って貴女に会いに行ける」
急に言われ口籠ったが正直嬉しい。受けていいのだろうか⁈悩んでいたら
『たえ グラント だいじょうぶ リリス だめ いわない』
『本当に?』
『てん いう ほんとう』
てん君に後押ししてもらい
「えっと…よろしくお願いします。あっ!でも離れている間に…」
「多恵様!それ以上は言わないで下さい。私の命か尽きるまでそれは絶対ない!貴女の悪い癖だ。しかしそれはご自分に自信がない所からきているのをちゃんと理解してますよ」
「ありがとう…」
グラント様は少し潤んだ瞳で花束を渡してくれた。花束は大きくて重く長くは持ってそうにない!花束を見つめてどうしようか考えていたら、ふと花束の中心に小さい箱があるに気付く。する時グラント様が花束を持ってくれて、視線で箱を開封する様に促してきた。
『やっヤバイ!ドキドキして来た!これって…』
平然を装っているが口から心臓が飛び出しそうだ!
箱を開けたらプラスに小さなアメジストがはめられた指輪だった。
「以前貴女がケイティ嬢達と貴女の世界の婚約の作法の話をしていたと聞きました。ケイティ嬢にその時の話を聞き用意しました。アルディアにはその様な習慣がないので一から職人に作らせこの箱庭に一つしかありません」
「嬉しい…」
グラント様は花束をテーブルに置き指輪を手に私の手を取った。どうやら填めてくれる様だ。
嬉しくて手を見つめていたら、グラント様が固まる。
「ん?」
「申し訳ない。との指に填めるのでしょうか?」
填める指が分からずあたふたするグラント様が可愛くて思わず私からキスをして左手薬指を動かして教える
私の薬指にグラント様の瞳と同じ薄紫の石が光っている。顔を上げたら少し潤んだ綺麗な菫色の瞳と目が合う。暫く会えない日々がやってくる。このままグラント様の腕の中にいたい。するとまた不安が顔を出す。
「昨日キース殿と話し合い多恵様が移られたら、モーブルに慣れられるまで交代で会いに行く事を決めました。恐らく妖精王が毎日行くのでしょうが、我々も貴女の役に立ちいのです。本当は協力などしたくないが、愛する女性の為ならなんでもやります」
「ありがとう!その気持ちが嬉しい」
するとグラント様は顔を上げ珍しく大きな声で叫ぶ
「私は今最高に幸せだ!」
幸せをグラント様の腕の中で噛みしめていたら、抱き上げあれそのままソファーに移動?
今日は紳士的なグラント様に安心していたら、最後に想いを込めた激しい口付けをいただく事になった。やっぱりグラント様の口付けは長い!
酸欠でぐったりしやっと解放してもらった。やっぱりグラント様の口付けはねちっこいなぁ…
こうしてグラント様は私の婚約者1号となった。明日の昼から書類を持ってきてくれるらしい。
グラント様が退室したら代わりにサリナさんが部屋に戻って来た。早速いただいた薔薇を飾ってくれる。沢山のいただいたから部屋中が薔薇のいい香りに包まれ、疲れも相まってすぐ眠りについた。
ゆっくり意思が浮上し目覚める。
『あ…今日は親しい人達へ挨拶だ。ハンカチ余分に持って行こう…あれ?フィラ⁈』
背中が温かくなり後ろから抱きしめられる。振り返り見上げると約束通りフィラが来た。
挨拶しようとしたらいきなり口付けして来た。それも朝の挨拶のレベルでは無く深夜モードだ。
まだぼんやりしていたが一気に目が覚めた!フィラの胸を叩き逃げようとしたら、さらに強く抱きしめてきた。
「フィラ!苦しいよ」
「何故俺が一番じゃないんだ!」
「意味分からないよ!」
「昨晩グラントと婚約しただろう!」
『あぁ…不機嫌の理由が分かった』
「お受けしたけど昼から手続きをするから正式にはまだだよ」
「ならば、俺が先に婚約者になる。いいな!」
「えっ!今から?」
返事をする間なく目の前の景色が歪む…
『気持ち悪い…』目を開けると妖精城の客間のベッドだ。フィラに強制連行された様だ。さっきまで抱きしめていたフィラがいない。人を搔っ攫って来て放置とか失礼じゃない⁈
『たえ しろ きた うれしい』
『たえ ずっと いる?』
妖精たちが集まって来たようで部屋の中は無数の光の球体に覆われている。
「ごめんね。ずっとはいないの。それよりフィラは」
『おうは おめかし』
「おめかし?」
意味が分からずぼんやりしていたら、妖精たちが花の冠と白のベールを持って来て私の頭に乗せた。全く意味が分からない私は取りあえずてん君を呼び助けを求める。
『たえ たいじょうぶ フィラ すぐ くる』
『意味わからなくて困ってるんだけど!』
すると部屋の扉が開きフィラが入って来た
「へ?」
豪華なローブを羽織り髪は後ろで一つにまとめ、見たことも無い色とりどりの花を抱えている。そうしてベッドに腰掛ける私の前に跪いて手を取り…
「多恵。俺の身も心もお前に捧げる。リリスの役目を終えたら俺の妃になってくれ。そして俺をお前の初めての婚約者にしてくれ」
寝起き5分でプロポーズ?
真剣な面持ちに冗談が言える雰囲気ではなくフィラを見つめる。優しい琥珀色の瞳は初めて会った時から変わらない。そしてちょっとストーカー入っているけど見守ってくれ私の意思を尊重してくれる。そしていつも愛を感じる。これ以上待たせるのは意地悪だなぁ…モーブルに移る前にはっきりさせていた方がいいのかもしれない。
「リリスの役目を終えるまで(婚姻は)待ってくれる?出来るだけ早く終える様に頑張るから…やっぱり私役目を終えないと婚姻は無理」
「あぁ…お前のその真面目な所も惚れている。早く終えれるように俺も協力しよう。頼れ」
「不束者ですがよろしくお願いします」
「この箱庭に生がある限りお前だけを愛す」
そう言って口付けをくれた。フィラは立上り私の手を取り自分の髪を1本取りグラント様がくれた指輪の下に巻き付けた。するとプラスに琥珀色の石がはまった指輪になった。
「多恵の世界ではこれが婚約の証なのだろう⁈妖力を込めてお前を護る様につくった。肌身離さず着けていろ!よし!これで俺が正式に1番の婚約者だ!」
「・・・一番になりたくて朝一にプロポーズしたの?」
「妖精王の俺が一番じゃないのはおかしいだろう」
そうでした…貴方は俺様主義でしたね。まぁ…婚約を受け入れる気持ちはあったからいいかなぁ。
この後サリナさんが私が部屋に私がいないと騒いでいるとてん君が教えてくれ、慌てて帰ろうとしたらフィラが離してくれない。
結局サリナさんに手紙を書きてん君に届けてもらい、フィラが納得するまで付き合う事になった。
砂糖漬けにされてふにゃふにゃになった私はこの後の挨拶回りに行けるだろうか⁈
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