エビゴン
明日はアルディア最後のお出かけです。
アーサー殿下とのデートを終えて自室に戻って来た。サリナさんが迎えてくれる。いつも通り侍女スマイルだが明らかにデートの結果が気になる様だ。
グラント様は一緒に入室しサリナさんに席を外すように命じた。二人きりになるとグラント様は抱きしめ私の頭の上に頬を置いて溜息を吐く
「殿下の求婚をお断りになったのですね…」
「はい。殿下は人としては大好きです。しかし伴侶となり子を儲けるのは違う気がして…」
「私は今複雑な気持ちです。殿下とは幼馴染で色んな事を語り合い仲です。お互いの理想の女性像が似ていて冗談で『同じ女性を愛するかもしれない』と話した事もあったくらいです。しかしそれが本当になるなんて…家臣としても友としても殿下の幸せを願っているのは本心です。しかし…貴女だけは私の全てを失っても譲る事が出来ない。殿下には悪いですが…」
「男女の愛については身分などで決めるものではなく相性です。私と殿下が会わなかったのはどちらが悪いとかそんな次元の話ではありません。きっと殿下に合う女性が居るはず。長い人生本当のパートナーと一緒の方が幸せなのですよ」
抱きしめる腕の力を緩んだらグラントの綺麗なお顔が近づく。優しい口付けは今日1日の疲れを溶かしてくれる。
「私が殿下に『私が他国に行っている間にグラント様にいい人が出来るかもしれない』と言ったら『箱庭が滅んでもそんな事はない。グラントは軟派な男では無い』と怒られました。その時、殿下とグラントの絆を感じれて嬉しかったんですよ」
「そうですか…それにしても!多恵様は私の愛をまだお疑いの様ですね。昨日の口付けでは足りないのでしょうか?」
「へっ?」
そう言うとまた噛みつくような口付けをされる!!グラント様の胸元を叩いて抵抗しやっと解放された。
「スミマセンデシタ・・・」
するとサリナさん手紙が届いたと入室許可を求めてきた。答えると手紙を持って入室してくる。
「グラント様。多恵様は連日の外出でお疲れです。そろそご退室を…」
「あぁ…明日はファーブス領ですね。港町は活気があって楽しめるでしょう」
「はい」
グラント様はまた口付けて退室していった。退室を確認したサリナさんは
「候補に戻られたら前以上に溺愛ですね。傍が目のやり場に困ります」
「ごめんなさい…」
「多恵さんを責めた訳では無いのですよ。多恵さんが選ばれた男性は皆さん愛情過多と言うか、独占欲が強い方ばかりですわ」
「重ね重ねすみません」
恐縮しながらサリナさんから手紙を受取り目を通す。キース様からで明日の予定が書かれていた。明日は日帰りしようと思ったら早朝の出発になるそうだ。遅くても2刻には起きないと間に合わない。連日の外出で少し疲れが溜まってきている。そのせいか少し痩せた気がする。
「さぁ…明日の準備もございます。お早く湯浴みをなさって下さい」
そうだ!早く寝ないと明日は買い物沢山するから体力を回復させないと!
湯浴みをして夕食後にお茶を頂きなら寝るまでの間、サリナさんとお話しをする。
「アーサー殿下の求婚をお断りしたよ」
「そうですか…」
「殿下は人としては大好きだけど、伴侶となり子を儲けうには違う気がしたの」
「貴族ならば自分の望む縁は少なく、婚姻後に愛情を育むことが多い。多恵様の様にご自分の意思でお決めになれるのは羨ましいですわ」
「殿下は私をずっと想うと言っていたの。私は今は気付かないだけで他に殿下に合う女性が居ると思うの。その女性と幸せになって欲しい」
「殿下は王族なので血を繋ぐ役目をお持ちです。意に添わなくても妃を娶られないといけません」
「私への想いを理解してくれる女性を探すと仰っていたよ。そんな女性いるのかなぁ…初めは良くてもやっぱり自分だけを見て欲しいと思うのが女だから…」
「私はお答えできる立場ではありませんので…」
「サリナさん!根性出して殿下に告白したら?」
「多恵さん。私を不敬罪で投獄させたいのですか⁈」
「そんな訳…でもさー殿下ならロイヤルスマイルで“ありがとう”って言いそうだけど」
サリナさんもそう思ったのか顔を合わせて笑う。きっとサリナさんなら殿下が私に想いが合っても、殿下を支えていい妃になりそうなんだけどなぁ…でもこれ以上は口を出さない方がよさそうだ。縁があれば必ず引き合うから。
7刻半にはり寝室に入り就寝する。今日は朝から出かけたからてん君をもふっていない。てん君を呼ぶとあからさまに拗ねている。
『たえ いそがしい てん さみしい』
『ごめんね もう少ししたら落ち着くから』
『たえ いま だいじ がまん』
『てんく〜ん!』
ベッドの中でてん君をもふもふしていたら、いつの間にか力尽き眠っていた。
やはり疲れが溜まっている様で、てん君の前足パンチとサリナさんの声で目が覚めた。ここから慌ただしく身支度し護衛騎士さんが迎えに来てくれるのを待つ。確か第1〜3騎士団から5名と女性騎士が1名同行してくれる。
ソファーに座りぼんやりしていたらお迎えが来た。
「へ?」
何この面子は!各団の副団長と女性騎士はジャンヌ様が来た。慌てて立ち上がり駆け寄ると見事に躓き前に倒れる。流石騎士さんで咄嗟に皆さんが手を差し伸べてくれ転倒を免れた。
真正面にいたデュークさんが受け止めてくれた。
「大丈夫ですか⁉」
「ありがとう兄貴」
「「「アニキ?」」」
思わず兄貴って言っちゃた!皆さん何の事が分からずキョトンとしている。
「えっと…デュークさんごめんなさい!私の世界で言う兄様を指します。馴れ馴れしいですよね…」
「何を仰います!光栄ですよ!」
“兄貴”が意味が判明したらクレイブさまが
「私は”兄貴”になれませんか⁈」
クレイブ様が眉顰め聞いてくる
「えっと…兄貴なんて失礼では?」
「私も兄貴と呼ばれたい!呼んでいただけませんか?」
「デューク様もそうですが“兄貴”流石にあれなので“兄様”でもいいですか?」
「「はい!」」
2人は嬉しそうに微笑む。そして不服そうにレオ様が
「私は兄様はちょっと…」
「あのですね別に敬称を変える必要は無くてですね…」
何かずれて来ていない?話題を変えて
「そもそも今日の護衛の人選が間違っていませんか?」
どうやら今回の外出がアルディア最後になるので護衛は精鋭をと陛下が言われたらしい。第1と第2はアーサー殿下とヒューイ殿下が決めて、第3はトーイ殿下が前回と同様にトーナメントで試合をして勝った者を選んだそうだ。
「何か私ごときにこんな凄い方に就いて頂いて申し訳ないです」
「何を仰います。貴女は王族の尊き方々と同じです。誠心誠意お仕えいたします」
「やめて下さい。堅苦しいのは苦手です。いつもの様に砕けた口調でお願いします」
冷静に状況を見ていたジャンヌ様が出発を促す。予定時間が過ぎていたようだ。密かにジャンヌ様が怒っているよ…
馬車にはジャンヌ様が乗車され、各副団長たちは馬で並走される。馬車の中でジャンヌ様から港町のおすすめのお店を聞いて行きたいお店をピックアップする。
車内はジャンヌ様との会話が弾み長い1刻ほどの移動も苦にならなかった。窓から見える景色が変わってきたら、御者の小窓が開き間もなく到着すると教えてくれる。その後少ししたら馬が嘶きと馬車が停まる。クレイブ様の手を借りて降りると立派な建物の前にキース様がいた。キース様は足早に来て抱きしめる。
今日のキース様はスーツ姿ではなく、ダークグレーのスラックスに白シャツと同じくダークグレーのベストをお召だ。クールなイメージの彼に良く合っている。
「良く起こし下さいました。今日は我が領地を案内できることを光栄に思います」
「お忙しいところありがとうございます。よろしくお願いします」
「騎士団の皆さんはこのホテルで待機いただき、ジャンヌ様は平服で公爵家騎士団と共に護衛いただきます。離れての護衛になるので私から離れないで下さい」
「はい。皆さん今日はよろしくお願いします」
こうして副団長が達と別れてキース様と港町へくり出します。時間的にお昼時なので食事に向かいます。キース様お薦めの海沿いのシーフードレストランへ。店内に入るとお昼時で店内は混んでいた。案内を待っていたら店員がキース様に気付き大きな声で
「キース様!良くお越しくださいました。今日は新鮮なエビゴンがお薦めですよ…とそのご令嬢は…もしかして…」
キース様は唇の前で指を立てて艶やかに微笑み
「今日は彼女との時間を邪魔されたくないだよ。見守って欲しい」
「はい!勿論です。奥のテラス席が空いております。どーぞ!」
店員さんが一番奥の海沿いのテラス席に案内してくれた。何をやってもスマートなキース様に見惚れていたら
「あまり見つめないで下さい。自制が効きません」
「いや…対応がスマートでかっこいいなぁ…て」
キース様はほんのり頬を染め照れくさそうに椅子を引いてくれる。着席をしたらメニューを渡してくれたが全く分からない。箱庭は日本と食材はあまり変わらないが名前が異なっているから、聞いただけでは何か分からないのだ。ちなみにさっき店員さんが薦めていたエビゴンはまだ分かりやすく海老の事だ。
「食べれ無いものは無いのでキース様にお任せします」
「でしたら…」
キース様が店員さんに注文をしてくれる。こういうところもスマートでかっこいい。出だしからかっこいいキース様に当てられている私だ。
この席は本当に海が近く気持ちいい。少しするとエビゴンのサラダと白身魚のフライとバケットとハムの盛合せが出た来た。どれも美味しそうだ
甘味の少ないレモネードは魚介類を更に引き立てる。美味しかったが量が多くて残りはキース様が食べてくれた。
店を出ると店先に沢山の人がいて何事かと思ったら、レストランでテラス席いたせいで沢山の領民に知れ渡った様だ。領民の皆さんは今まで浮いた話が無いキース様がデートしていると聞き見に来たそうだ。
「あぁ…キース様の意中の方はなんて愛らしいお嬢さんなんだ。ご成婚はいつですか⁈」
「キース様が婚姻されればファーブス領も安泰だぁ!」
領民の皆さんから声をかけられてタジタジになっていたら、キース様が…
「皆が気をかけてくれ礼を言おう。しかし今想いを告げているところなのだ。見ての通り魅力的な女性でライバルも多い。いい結果につながる様にどうか見守りそっとしてほしい」
キース様は集まった領民にそう告げると、右手を左胸に当て軽く礼をした。すると領民は…
「皆!今日はキース様が楽しめるように、邪魔しないでいつも通りにしよう!」
「キース様!ライバルに負けないで!」
「お嬢さんキース様を何卒よろしくお願いします」
皆さんの圧は凄いけどキース様が領民に愛されてるのが分かるし、私にプレッシャーにならない様に太刀振舞ってくれ感動した。やはりキース様は状況判断に優れ冷静だ。こういうところ好きだ。
護衛騎士さんが領民達を遠ざけてくれ、やっと街の方へ移動し一つ目の目的のエレナさんとケイティさんのお祝いを探しに行く。何がいいか悩んでいたらキース様が
「私も色々考えてみましたが、ペアのシャンパングラスは如何でしょう?アルディアの一部の地域では、婚姻を祝う晩餐会で花嫁と花婿がお互いに赤いブロスの果実酒を飲ませ合う習慣があるそうです。その時に使うグラスなら記念にも思い出にもなりましょう!」
「キース様!その提案頂きます!グラスを売っているお店有りますか?」
こうしてキース様の提案でシャンパングラスをプレゼントする事にして異国の食器を取り扱うお店に行き、二組の水色のシャンパングラスを購入した。
本当はもっと見たかったが日帰りする為、ゆっくりする時間がない。直ぐに次の目的地チョコラーテの専門店に向かう。
大きな客船が着いたらしく街は混んでいた。キース様はエスコートではなく、手を繋いで私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる。時折り人とぶつかりそうになると引き寄せて守ってくれる。
今日のキース様がいつも以上にかっこよく見えて落ち着かない!じっとキース様の横顔を見上げていたら、キース様は咳払いをして
「あまり見つめないで下さい。貴女によく見られたくて頑張っているんです」
「いつも素敵だけど今日は一段とカッコいいです」
「なっ!」
するといきなりキース様は人1人がやっと通れる路地に入り苦しい位に抱き締めて、頬や瞼に口付けてくる。
「今のは多恵様が悪い…あんな事言われて我慢できるわけない!すこしだけ許して下さい」
嫌なわけ無いじゃん!キース様の口付けは優しく心が満たされていく…
「多恵様!」騎士さんとジャンヌ様が慌てて駆け付けて来た。急に路地に消えたから何かあったのかと駆け付けてくれたのだ。ごめんなさい!ちゅうしてました。
騎士さんは照れてジャンヌ様は温かい眼差しをしている。あぁ…恥ずかしい。それに比べてなんで何も無かったかの様に平然としてるの?キース様!
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『時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜』
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