ミステリーツアー
グラントか候補に返り咲き、今日はアーサーとデートです。
昨晩文官さんが今日の予定を知らせてくれいて2刻半に起きた。3刻にアーサー殿下が迎えに来る。
体がまだ怠い。昨日はグラント様の気持ちに答えてキス攻撃に合い消耗し回復しきっていない。
でも今日はアーサー殿下の真剣な想いに向き合う日だから怠いなんて言ってられない。
自分を鼓舞し洗面所にむかう。
今日行く場所までは馬で移動するらしく服装はシンプルなワンピースでボリュームのなものにした。先触れが来て程なくしてアーサー殿下がお見えになった。今日も笑顔が眩しくカッコいい。
「多恵殿準備はよろしいか?」
「はい。よろしくお願いします」
「お聞きだと思いますが馬での移動の為、侍女の代わりに女性騎士のアリアナを付け多恵殿の世話に付けます」
「はい。よろしくお願いします」
「では参りましょう」
殿下のエスコートで裏門まで移動する。裏門近くに第1の騎士さんが3名と女性騎士のアリアナさんが待っていた。皆さん隊服では無く平服で帯剣をしている。皆さんにご挨拶したら出発準備を始める。
「さぁ!私の手を取って下さい」
馬上からキラキラの王子が手を差し伸べる。あー殿下絵になるなぁ…乙女ゲームならキラキラでイケボ声優の囁き付きで萌えるシーンだろなぁ〜
「多恵殿?」
「あっ!はい!」
殿下に手を引かれ私は一気に馬上に上がった。背後から抱きしめられ恥ずかしい。箱庭の男性は香水を着けているからかいい匂いがする。この世界には男臭かったり加齢臭なんてものは皆無らしい。
大輔も体質がそうなればいいのに…
出発して暫く走ると王都を出て草原に出た。何処に行くかは教えてもらえずミステリーツアー状態。
「あと少しで一旦休憩します。体は辛くないですか?」
「はい。大丈夫です」
殿下は抱き抱える腕の力を強めた。何処に連れて行ってくれるんだう⁈箱庭は自然が多く何処に行っても綺麗な景色が見れる。
乗馬に慣れていない私の為に、途中川沿いの草原で休憩をした。騎士さん達が木陰にシートを敷きアイリスさんが軽食とお茶を用意してくれゆっくり過ごす。ここでも行き先を探ってみたが皆さん口が固く教えてくれない。私のお尻も休息出来たので出発します。暫く走ると少し先に農園?の様な場所が見える。
「多恵殿あそこです」
「農園?」
「はい。今の時期ブロスが採れる」
ブロスとは元の世界で言う葡萄だ。どの品種も皮は薄く皮ごと食べれて味は濃厚だがあまり甘くなく美味しい。ジャムやパイにするのが美味しいが、もちろん生のままでも食べる。
馬は農園横の建物に着いた。殿下の手を借り降りると建物から老夫婦が出てきた。
「殿下!いらっしゃい。今日は愛らしいご令嬢と一緒なんですね。今年は豊作で味形のいいモノが出来ました。今日はお楽しみ下さいませ」
「あぁ…世話になるよ」
会話の感じから初めてでは無いらしい。ご夫人が黒色のカフェエプロンを貸してくれ皆着けた。意味が分からずキョトンとしていたら、殿下が手を引きブロス畑に入る。ブロスは1m程の木に生っていて葡萄と違い一粒づつ成っている。
「食べ頃の実は萼が反り返っているから、実を軽く持ち上に上げると取れるよ。やってごらん」
「こうですか?」
言われ通りやってみたら簡単に収穫出来た。もぎたてを直ぐに食べたいが採った実は洗う必要があるらしく、さっき着けてくれたエプロンにためて後で洗って食べれるそうだ。
綿花収穫も楽しかったがブロスの収穫も楽しい!何より後で食べれるし!同行の騎士さん達も収穫していて楽しそうだ。
「あっ!ガイさん!それまだ萼が反ってませんよ!後で皆んなで食べるから美味しいの選んで下さいね!」
「申し訳ありません…」
「「「「あっははは!」」」」
和気藹々と収穫していて真剣に実を選んでいる殿下が可愛らしくじっと見ていたら、殿下は側に来て頬に口付けて
「あまり愛らしいと自制が効かなくなる」
至ったって普通なんですが…
ふと自分のエプロンの採った実を見て気付く。これ以上採っても食べれない。収穫の手を止めたら殿下が
「好きなだけ採ってくれていい。食べれなかったらお土産にしましょう」
「はい!」
嬉しい!本当はもっと収穫したかったんだ!
再開すると殿下が私の手を取り奥の畑に案内してくれる。奥は品種が違うようで実が苺の様に赤い。
殿下はじっと私を見て
「デート場所をここにして良かった。バース領に行った時の綿花収穫が楽しかった様なので」
「ありがとうございます。凄く楽しい」
殿下は微笑みそして赤いブロスの実をじっと見ている。この赤い実に何かあるのかなぁ⁈私の視線に気付いた殿下は一粒採り眺めながら
「赤のブロスは愛の実と呼ばれ愛を深めると言われている。今日貴女と食べたくてこちらに案内しました」
「お面白いですね。花言葉的なものですか?他の果物にもあるんですか?」
そう!今日はアーサー殿下の勝負の日だから極甘な雰囲気と口説き文句は覚悟してきたはずなのに、これ位の事で狼狽える私はやはり恋愛偏差値が低い。思わず話を逸らしてしまった。
気が付くとさっきまで一緒に収穫していた騎士さん達はがいない。キョロキョロ探すと私達の対角線上で待機している!いっいつの間に!
「他の果物の方か良かっただろうか?」
「いえ、そうでは無くてですね…」
そうそう…殿下は魅力的で真面目で容姿端麗な男性でパーフェクト!でも偶に私の言わんとする事とずれが生じる。フィラやグラント様、キース様もずれる事があるが何か違うものを感じる。なんだろう…そういえばヒューイ殿下が候補の時にも違うと感じたあの感覚に似ている。本質的なものだろうか…
殿下はずっと熱い視線を送って来る。私は遠赤外線グリルで焼かれている秋刀魚のようだ。
少し気まずくて早く食べたいと言うと何故か殿下は頬を赤らめ私の手を引き建物の方へ歩き出した。
『もしかして…この赤いブロスの実を早く食べたいっと思っているのだろうか⁈』そうならまた見当違いだ。だって赤いブロスはまだ1粒しか採っていないから…
農園の入り口まで戻ると騎士さん籠を用意してくれていてエプロンにためたブロスを籠に移す。騎士さんは井戸に行き籠に一気に水をかけ洗う。井戸のポンプは元の世界のポンプに作りが似ていてやってみたくなり、代わってもらいポンプと力いっぱい押す!
…が!硬い1回押しただけで腕がパンパンだ。ぷるぷる震えながら押している私を微笑ましく見ている皆さん。そりゃあなた達は鍛えているからこれ位平気でしょうか非力な私には無理!おばさんバージョンの多恵なら出来ただろうけど…
すると急にポンプが軽くなる?
よく見ると殿下が背後から手を貸してくれ一緒に押してくれている。急に軽く押せるようになり勢いよく出る水を見て顔が綻ぶ。
後ろを見ると間近に殿下の綺麗なお顔が…
「殿下…近いです」
「あぁ…幸せだ」
背中に殿下の体温と耳元では息遣いが近くて心拍数が上がる。微笑ましく見ていて騎士さんが急に
「殿下!多恵様!もうこれ以上は実が潰れます」
そう殿下の力が強く水の勢いが凄いから実が籠の中で激しく踊っている。
慌てて殿下と私は手を放し顔を合わせて苦笑いする。この後、農園のベンチに座り皆で仲良くブロスの実を食べる。濃厚な味だがさっぱりした甘さで沢山食べれる。殿下が赤いブロスの実を私の口元に運んだ。
途端に甘い雰囲気に…前に座るアイリスさんが真っ赤な顔をして席を立つと他の騎士さんも席を立ち何処かに行ってしまった。
心の中で『置いて行かないで!』と叫ぶけど殿下と2人きっりにされた。殿下は熱い眼差しを送って来る。食べないは無しだよね…
“パクっ!”「美味しい!」
紫色のブロスに比べて甘酸っぱくて美味しい。
「殿下!これ好き!」
「良かった…」
そう言った殿下の顔が近づく。
『キスされる?』そう思ったら体か反応した。思わず小さく仰け反ると背もたれが無いベンチでバランスを崩して背中から落ちる。
「危ない!」殿下が片手で受け止め抱き寄せられた。すっぽり殿下の腕の中に収まった。
殿下の鼓動を感じる。凄いドキドキしている。スマートで動じてなさそうなのに…仰け反った事に罪悪感を感じていたら殿下が
「私と口元けるのが嫌ですか?」
「急でびっくりして…嫌か分からないです」
「なら嫌か試してみるといい」
そう言って殿下は私の顎を持ち上げ口付けた。欲情のない優しいキス。殿下の薄く柔らかい唇が私の唇を啄む。でも…『長い!確認にしては長い』
思わず殿下の胸元を叩いて体を離した。雰囲気をぶっ壊す勢いで
「殿下!長いです」
「すっすまん!嬉しくて…でっ!どうだ⁈」
殿下も雰囲気を気にせず真っ直ぐに感想を聞いてくる。生まれて初めてキスの感想を聞かれた。
「嫌ではないけど正直その先は考えられないかも…」
「・・・」
絶句する殿下。ど直球で来たからど直球で返しオブラートを使うのを忘れた。本音を言ってしまったよ…
そう、殿下は好きだけどキス以上ないと思う。それにずっとサリナさんの事が頭の隅にあるから余計かなぁ…
「しかし…時間を共にしたら…」
殿下は口籠る。そう時間をかけれない。殿下にも私にもゆっくり愛を育む時間がないのだ。箱庭の救済がアルディアだけで他に候補者がいなかったり、時間があれば正直分からない。殿下は人として好きだから…これも運命なのかなぁ…
「殿下。答えは出ました。私では殿下の妃は務まらない」
沈黙…ごめんなさい。やっぱり二人っきりになって考えてみたけど…
振った事が無いからどうしていいか分からない。正直振った私も辛い…
「…いいか」
「はぃ?」
「妃を娶り次期王になるが、私の心は多恵殿にしか向かない。生涯貴女を愛する事を許して欲しい。偽って生きるのは苦痛だ。妃も理解してくれるものを迎える。私の真実の愛は貴女だけだ…」
「えっと…嬉しいのですが辛くないですか?」
「偽る方が辛い。私の心を理解してくれる妃を探すよ。真実の愛は捧げられないが、その女性を誠心誠意接しよきパートナーになるつもりだ」
「ごめんなさい…」
心なしか殿下はすっきりした顔をしている。
この後、農園を後にして王都はずれの小高い丘に向かった。夕刻になり地平線に夕日が沈む。アルディア城は夕陽に照らされ綺麗だ。殿下は無言で街を見ている。殿下に背中から抱きしめられ背中が温かい。
殿下は王位を継承するにあたり想いを語る。じっと聞く私。殿下は古き良き習慣を守り、民が困る事は改善していきたいと。その為の助言を頼まれた。勿論協力すると返事した。きっと殿下はいい王になるだろう。すると殿下溜息を吐いて
「グラントに負けたなぁ…密かにグラントでは無く王子である私が選ばれると思っていた」
「…」
「しかし今思えば初めから私よりグラントの方が多恵殿の心情をよく理解していた。昨日グラントの心を受け取ったのだろう⁈グラントは私に気を使い何も言わないが、奴を見ていれば聞かずとも分かる。付き合いが長いからな」
「…」
「ゆくゆくお互い子を儲け異性で有れば婚姻させよう。同性なら幼馴染に!」
急な話の展開に驚き
「まだ、グラント様は候補に戻っただけで、未来は分かりません。私が他の国に行っている間にいい方が現れるかもしれな…」
「多恵殿!それはこの箱庭が滅んでも無い!グラントはそんな軟派な男では無い!怒りますよ!」
「失言でした。ごめんなさい」
殿下の圧が凄くてビビった。でも殿下とグラント様の絆を見れて嬉しかった。
殿下は今日は多弁で殿下の意外な一面も見れて有意義な1日になった。
6刻の鐘が聞こえて来て日が落ちた。ギリギリ暗くなる前に王城に着いた。殿下に馬から下ろしてもらうとグラント様が待っていた。殿下はグラント様の元に行き何か耳打ちをした。驚いた表情をするグラント様。
「多恵殿。今日はありがとう!陛下には私から話しておきます。ゆっくり休んで下さい」
「アーサー殿下。ありがとう。楽しかったです」
殿下は手を上げて騎士さんと行ってしまった。
グラント様が部屋まで送ってくれる。殿下に何を言われたんだろう⁈複雑な顔をしているグラント様が気になったが疲れていて聞く気力が無い。
ごめんね!今日は休ませて下さい!
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