小さな襲撃者
婚姻が決まったと勘違いされて騒動になり…
眩暈がして目の前が歪む。
「多恵様!」
横にいたグラント様が支えてくれが力が入らない。
「早く多恵殿を休める場所に!グラントと公爵はこの場を治めろ」
体が浮いたと思ったら近くにヒューイ殿下の顔が…
ナタリー様の誘導で建物の一室に連れていかれる。
入った部屋は応接みたいで、そこのソファーに下ろされた。ナタリー様がコップに入れたお水持って来てくれ、それを一口飲みやっと落ち着いてきた。殿下は目の前に跪き心配そうに様子を窺っている。
「落ち着きましかた?」
「はい。ありがとうございます」
殿下は厳しい表情をしナタリー様を見て
「ナタリー。あの場で“義姉様”発言は誤解を招く事を事前に考えるべきだ。多恵殿とグラントは解消中なのにあの様に周りに騒がれ多恵殿の体調が悪くなるのも無理はない。下手をすると公爵家が多恵殿に断りにくくする為に謀ったと思われても仕方ない状況ですよ」
「私はそんなつもりは…ただ本当にお姉様の様にお慕いしていて…」
こんこんとナタリー様に説教するヒューイ殿下。ぼーとする頭で『あ…殿下凄いしっかりしていい男になったなぁ…』と2人を見ていたが、ナタリー様の雲行きが怪しくなって来た。今にも泣きそうな表情をしている。あの⁈泣きたいのはこっちなんですが…今日は視察で所謂お仕事で来ています。プライベートは持込まないでよ〜。
「殿下。もういいですよ」
「しかし!」
「ナタリー様は本当に他意は無かったのでしょう。ジャックさんの早とちりも相まって話が大きくなったのです。しかしあの場は直ぐに誤解を解いて穏便に治めて欲しかったです。今回は流行病対策と視察に来ていてお仕事です。そこを間違わないで頂きた」
殿下とナタリー様は深々と頭を下げて謝罪されます。でも殿下が謝る事ではないよ。
ナタリー様はずっと半泣き状態で殿下はあからさまに機嫌が悪い。はぁ…既に帰りたくなっている。少し一人になりたくて殿下とナタリー様に退席頂いた。付き添いで来てくれたケイティさんに入ってもらい愚痴を聞いてもらう。
「挨拶もそこそこにグラント様の婚約者扱いだよ。皆さん今回の目的分かっているのかなぁ⁉」
「そうですね。オブライト侯爵様の対応が良くなかったですね。ナタリー様は本当に他意無くいつも通り多恵様にお声をかけただけでしょう。グラント様は多恵様の事になると先走るところがあります。しかし…」
「しかし何!」
ケイティさんが悪い訳じゃないのにイライラしてつい語気が強くなる。
「本来のグラント様は状況判断に優れていて、あのような行動はされないと思うのです。やはり多恵様がモーブルに移る日が近づいているので焦られているのではないでしょうか⁈本来の自分を見失うほど多恵様を想ってらっしゃるんだと思います」
「…でもね…それに関しても視察が終わったらちゃんとお返事しようと思っていて…先にお仕事しないと私が箱庭に来た意味がなくなる」
「多恵様は真面目なんですね…そこも慕われるところだと思います」
ケイティさんと話して少し気持ちが冷静になって来た。自分でも分っているのグラント様や他の候補者が焦っているのが…
アルディアの(元)候補に関してはモーブルに行くまでに返事をしようと思っている。ほぼ自分の中で答えは出ていて、これからするデートの感じで答えを決めようと思っている。
“コンコン”
「はぁ~い」
「グラントです。入室許可を頂きたい」
「どぉぞ!」
入室してきたグラント様は明らかに怒られる前の子供ようで悲壮な顔をしている。その様子に少し笑えて来た。
『雪が幼稚園の頃によくあんな顔していたなぁ…』
少し笑っている私を見てつられたのか少し微笑むグラント様。
「ケイティ嬢。多恵様に謝罪したいのだ。席を外してくれるか⁈」
「多恵様如なさいますか?」
「少しなら…」
ケイティさんはお辞儀をして退室していった。勿論扉は少し開けて…
グラント様は目の前に跪いて手を取り、その手をグラント様の額に付けに苦しい顔をして
「多恵様お許しいただきたい。ジャックに婚姻すると勘違いされた時に歓喜し誤解を解く事まで頭になかった。父上もそうです。今父上が領民に説明しています」
「私は婚姻すると間違えられたのが嫌なのでは無くて、今回の目的を忘れているのが嫌だったんです。オブルライト領の流行病は陛下が一番に対策をしたいと思うほど深刻なはずです。その為に沢山の方に協力いただき準備を進めて来たんです。そこをすっ飛ばすのは違うと思うんです」
「多恵様が仰る通りです。我々が浅はかでした」
「それにグラント様の事はちゃんと向き合って答えを出すとお伝えしていますよね⁈私はモーブルに移るまでに返事をするつもりでいます。でもそれは私のタイミングでさせて欲しい。強要はされたくはない」
グラント様は驚いた顔をして私を見つめている。その“ぽかーん”とした顔も美丈夫がすると絵になりますね。
「今改めて私が愛した女性は素晴らしい人だと認識しました。もうこんな素晴らしい女性には出会えないでしょう⁈。私は貴女の答えをいつまでも待ちますから…」
優しい眼差しで見つめられると恥ずかしくなって来て、苛立ちも治り照れくさくなって来た。
「少し言い過ぎました。すみません。あと、あまり見つめないで下さい。恥ずかしい…」
「っ!毅然としているかと思えば少女の様に恥じらう…貴女は益々私を魅了する。抱きしめて良いですか⁈」
頷くと隣に座り抱きしめるグラント様。やっぱりグラント様の腕の中は心地良くて安心する。グラント様は嫉妬深いのを除けばパーフェクトな男性だ。基本私の話や意見に真剣に聞いてくれるし理解してくれる。何より容姿は候補者の中でも一番好きだ。特に銀縁メガネ!
グラント様の抱擁にまったりしていたら誰か来た様だ。返事をしてグラント様から離れたら公爵様とジャックさんが入って来た。入室して開口一番お2人は謝罪され領民には説明がされた様だ。
「今回は流行病の対策説明と視察に来ています。目的を履き違えないで下さい。その…グラント様との事はちゃんと2人で話が決まった時に正式に話しますので、それまではそっとして欲しいです」
再度謝罪され本来の予定に戻る。初めにこの街の病院の医師と看護師に会い流行病の予防法と罹った時の注意事項をまとめた資料を渡して説明する。
村に関しては訪問する所は村長に、訪問しない所は後日公爵家から説明に行ってくれる。
マスクは領民分は完成していて近々配布予定。
「では多恵様。病院へご案内します」
公爵様の案内で街で一番大きい病院に向かう。どうやらここはホテルらしく立派なロビーを通り出るとまだ沢山の領民がいて注目を浴びる。公爵家の騎士さんがハリウッドスターのボディーガードばりで守ってくれる。しかし物々しくて少し引く私…
右隣にはグラント様がいて私の腰を抱き寄せエスコートする。すると騎士の壁の隙間から小さい女の子が出て来た。幼稚園児5、6歳位だろうか⁈
手に花を持ち私と目が合うと嬉しそうに笑い近寄ってくる。
「だめだ!」
騎士さんが止めた瞬間女の子の顔が歪んむ。
『あー泣いちゃう!』
「そのお花は私にかなぁ⁈」
女の子に声をかけてると女の子は顔を上げて笑い、グラント様は騎士さん止める。
女の子の前に来て私が屈むと女の子は嬉しいそうに笑い花を差し出して
「乙女様に上げるために朝摘んだの。オブルライトに来てくれてありがとう!」
「お花ありがとうね。偉いね!誰と来たの⁈」
「おばぁちゃまと。あのね…」
「何?」
「乙女様ここは良いとこだからお嫁に来てね!私の大好きな若様は乙女様にあげるから」
かわいい襲撃者に顔が綻ぶ。
「嬉しいけど若様は素敵だからライバルが多そうだわ」
「若様。私はいいから乙女様と婚姻してね」
女の子は真面目な顔でグラント様を見据えて婚姻を促してきた。するとグラント様は優しく微笑み女の子に。
「分かりました。貴女の思いを裏切らない様にしましょう」
「約束ね!若様!」
「はい!」
グラント様と女の子の微笑ましいやり取りをしている間に騎士さんに女の子と保護者をお咎めがない様にお願いした。
女の子は満足したのか足早に帰って行った。するとグラント様は嬉しそうに
「可愛いレディーとの約束は守らないといけないね」
「そうですね…」
「多恵様!」
「さぁ!早く病院に行きましょう。出来るだけ沢山の村に回りたいから」
こうして騎士さんに守られやっと病院に着いた。病院の応接に通され医師が直ぐに来た。初老の誠実そうな男性だ。資料を渡し見ながら説明をする。
まずは外出時は必ずマスク着用する事。マスクは毎日替えて洗い出来るだけ天日干しする。
外出から帰ったら石鹸で手洗いとうがい。うがいは難しいなら口を濯ぐだけでもいい。
室内は加湿を心がける…が暖炉が主流だからこまめに濡れタオルを部屋に干す事を勧めた。
すると医師から質問が
「予防策は理解できました。しかし罹った場合はどの様に対処すればいいのでしょうか?」
「私の世界では治療薬が有りましたが、こちらでは調合は無理だと思います。しかし自己治癒で治る病気です。資料にある”経口保水液”を作りしっかり水分補給し睡眠を取ってください。2、3日高熱が出ますがそれは体が細菌と闘っているからなんです。細菌が体から減り出したら熱も下がりますから、ここで無理をせずしっかり栄養と水分を取ってください。この細菌は熱が引いても発病から7日は体に細菌を保持するので、発熱から7日は人と接触しないで下さい」
他にも患者が来院した時の対応や家庭内で家族が発症した時の対応などを説明した。新たな知識に目を輝かせメモをとり真剣に話を聞く医師と看護師。
あまり期待させない様に最後に…
「私の世界では箱庭より医学が進み治せる病気も多いですが、何でも治るわけではありません。こちらの流行病は私の世界では”インフルエンザ”と呼ばれ毎年死者がでます。治療薬があってもです。予防策を過信しないで下さい。しかし予防策で発病は減るのは確かなので領民が一人一人の協力が必要です」
「治療薬があっても亡くなる人がいるんですか⁈」
「はい。別の病気を患っていたり、体力のない人は…残念ですが医学は万能ではないのです。それは神の領域だと私は思います」
医師は私の前に来て跪き手を取り涙目で
「貴女を召喚した女神リリスに感謝を。そして領地に知恵を授けた貴女に尊敬を…」
「私の知識は私の世界では当たり前に皆知っている事で大した事では無いので…そんなに感謝される事では…」
絶賛され恥ずかしくなってしどろもどろになって来たらグラント様が
「多恵様は謙虚で奥ゆかしい。あまり賞賛すると恥ずかしいく思われるのでその位に…」
こいして病院の説明も終わり次は村に向かう。滞在時間は短くて申し訳ない無いが、出来るだけ沢山のの村を回りたくて休憩も取らずに走り回った。
結局5つの村を回ることができた。遠方の回れなかった村は後日公爵様が回って下さる。
最後の村を出て公爵家屋敷に向かう頃には日が落ち辺りは薄暗くなっていた。精魂尽きてグラント様に凭れ掛かり寝てしまう。グラント様の香りに包まれて眠り快眠!
「多恵様…着きましたよ。起きれますか?」
「ふぁい…大丈夫…寝てません」
「くすっ」
グラント様は頬に口付けゆっくり私を抱き上げた。急に体が浮いてビックリして覚醒して
「グラント様!下ろして!もう起きましたし自分で歩けます!」
「今日は無理をさせてしまったので甘えて下さい」
馬車を降りるとずらっと人が並び注目を浴びている。恥ずかしい…
「グラント様!ご挨拶があるからマジで下ろして!」
「”マジ”とは?」
「”本当に”って意味です!」
「下ろしてあげなさい」
声のする方を見るとヒューイ殿下だった。鶴の一声でやっと下ろしてもらう。実は殿下は別件で街を出てからは別行動だった。すっかりナタリー様と仲直りした殿下は機嫌がいい。殿下は今晩1泊され明日朝に帰城される。今晩は賑やかな夕食になりそうだ。
やっと自分の足で屋敷前まで来たらすごい美人がカーテシーをしている。
公爵様が紹介してくれなんとこの美人はグラント様のお母さんだった。わっ若い!成人した子供がいるなんて見えない。改めて箱庭には美形しか存在しないのだと実感する。
「お目にかかれ光栄でございます。お疲れの様なので部屋に案内させていただきます。夕食までゆっくりなさって下さい。案内をお願いしますねグラント」
「勿論です。さぁどうぞ」
「お世話になります」
本当に綺麗なお母さんだ。もしグラント様と結婚したら…お姑さん?急に変な妄想をし1人あたふたする。私をじっと見ていたグラント様は眉を顰め機嫌そうに
「今貴女の心に居るのは誰ですか?多恵様はまだわたしが嫉妬深いのを理解されていないのですか⁈」
「誰のことも考えてません…立派なお屋敷で気後れしているだけです!」
疑いの目を向けてくるグラント様の腕にしがみ付き微笑むとつられて微笑みを返してくれた。なんとか誤魔化せた様だ。まさか将来の姑を想像してた何て言えるわけ無いじゃん!
お読みいただきありがとうございます。
医療従事者の皆さん。間違った記述があるかもしれません。しかし多恵(私)の様な一般人の知識レベルで話しているので流していただきたいと思います。
『時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜』
『(仮)選べなかった1度目の人生、2度目は好きにしていいですか?』
もよろしくお願いします。
※ 祝200話 気が付いたら200話でした。モーブルに移るタイミングで一旦休載します。少し話を練り上げで再開予定です。休載中に他の2作を書き進める予定です。これからもよろしくお願いします。




