ヒューイ sideー3
ヒューイ回終わりです
咄嗟に受け止める。
「っつ!間にあってよかった。」私が呟くと、彼女は顔を上げた。
この箱庭の住人とは違い彫りが浅く幼い印象の少女だ。瞳は黒曜石の様に輝き真珠色の肌は艶やかで美しい。彼女が乙女なのか…
思わず見惚れて歓迎と自己紹介を忘れていた。
アルディア王国を選んでくれた事にお礼を述べ名乗ると彼女も名乗ってくれた。
そして恥じらいながら、大丈夫だから下ろして欲しいと願う。彼女を見ると何も履かれていない。ソードリーフを説明しこのまま運ばせて欲しいと願うと謝られた。理由は重いから。
『重い?』
否。食事が足りているのかと心配するほど彼女は軽い。恥じらう彼女に好感をもち「お任せください」と言う。
丘を下り始めると背後から。
「我がの運命の乙女。我が名は オーランド・レックロッド 必ず貴女を迎えに行く。待っていて欲しい」
オーランド殿だ。乙女を迎える王族が幼子様に我慢出来ず召喚ルールをやぶったのだ。
“ちっ!”思わず舌打ちする。
「貴殿は女神の乙女召喚ルールを破った。貴殿に乙女と接する資格はない。」そう告げ丘を下っていく。腹立たしかった。
多恵殿が召喚ルールについて質問されたので道すがらお答えした。しばらくするとソードリーフを抜け愛馬ヴォルフの元までくる。ヴォルフは多恵殿を気に入った様で鼻先を寄せて来る。
多恵殿にはヴォルフにお乗りいただき更に下る。
待機していた騎士達がこちらに気付く。
恥ずかしいくらい喜びの声を上げている。馬上の多恵殿を見やると怯えた表情をしている。
奴らは訓練を追加した方が良さそうだ。
皆の元に着くと叔父上が代表し多恵殿に挨拶する。騎士の期待の眼差しに多恵殿が居心地悪そうだ。帰還準備を言い渡し多恵殿を馬車にお連れし侍女を付けた。
叔父上と帰路を再考する。乙女を得たので念の為当初の順路を変更した。
慌ただしく帰還準備をしていると多恵殿に付けた侍女が走ってこちらに向かってくる。
「ヒューイ殿下!すぐお越しを!」
多恵殿に何か起きたのか?
気がつくと走っていた。馬車に付けた騎士が心配そうに窓の中を見ていた。
「何事だ?」
「多恵様が…」要領が得ないので、馬車の扉を開け中に入った。馬車の中は広く大人6人乗っても余裕だ。多恵殿は馬車の端に膝を抱えて泣いておられた。声を殺して…身体を震わせ…
驚かさない様にゆっくり隣に座りそっと抱きしめる。抱きしめた瞬間彼女はビクッと身を硬らせた。
了解を得て無かったと思い
「貴女が落ち着くまで抱き締める事をお許しください」と許しを乞う。
彼女はゆっくり顔を上げる。大きな瞳は涙が溢れていて目元は赤い。涙で潤んだ瞳に淋しさと不安が見てとれた。
『…そうだ…』
彼女は望んでここに来た訳ではない。女神の乙女は女神リリスが作った異世界と箱庭の歪に偶然落ちた人がやって来る。異世界人の意志関係なく。
彼女はまったく知らない世界に来て一人気丈に舞っていた。不安だろう…淋しいだろう…もしかしたら彼女はまだ親の保護が必要な歳かもしれない。
申し訳なく思う。しかし我が王国には乙女の知識が必要だなのだ。それに帰してやる術がない。
彼女を異性として愛せるかまだ分からない。しかし彼女がこの世界で笑顔で過ごせるように慈しみ大切にしようと思った。
彼女の震えが治まり静かな寝息聞こえて来た。
どうやら泣き疲れたようだ。
扉に待機していた侍女に彼女を任せ馬車を出る。
外には叔父上が待っていた。
「多恵様は⁈」
「疲れた様で眠られた」
「そろそろ出発を。日没までに王都に着きません。近年治安は良くなったとはいえ、賊が出る可能性もあります。」
出発の指示を出してヴォルフに騎乗する。王都まで道のりは順調だった。相反して私の心は乱れる。
不安に涙する多恵殿があの方を思い出させる。
あの方も小さな身体震わせよく泣いていた。
蓋をした想いが溢れ出しそうだ。
しばらくは体の鍛錬より心の鍛錬が必要だと感じながら帰路に着いた。
次はまた本編に戻ります




