香水
知らない間に変な噂がたっていた。
「どこから聞いたの!」
ケイティさんの怒鳴り声で意識が戻ってきた。
目の前に震えながら泣いているマリカさんと、真っ赤な顔をしてこちらは怒りで震えているケイティさん。もーカオスすぎる。
「あの…とりあえず2人とも落ち着いて!」
「しかし多恵様を蔑める噂話など信じ、あまつさえそれを多恵様に話すなど、お仕えするものとして許される事ではありません!」
「ケイティさん。とりあえずマリカさんと話をさせて!マリカさん。どんな話か聞かせて」
マリカさんはケイティさんが怖いみたいで話してくれない。これからビルス殿下とはモーブルの問題解決の為にまた繋がりは必要。変な噂話が広まると動きにくいなる。
「ケイティさん。マリカさんから話を聞きたいから少し席を外して。直ぐ済むわ」
「しかし多恵様!」
「お願い!」
「畏まりました」
ケイティさんは礼をし控室に退室して行った。
「マリカさん。私は怒っていないわ。どこからそんな噂が出たか知りたいだけ。私の行動が誤解を招くなら改めないといけないし、お相手に迷惑をかけるからね」
「…はい」
マリカはゆっくり話し出した。噂の出所はビルス殿下が滞在している貴賓室の侍女。早朝にビルス殿下に会いに行った日の事だ。侍女は朝食を3人分用意した事に疑問を持ったところから始まった。
疑問に思いながら朝食の片付けに入室した時ある事に気づく。女性の香りがしたのだ。
ビルス殿下の好色はすでにアルディア城内にも知れ渡っていて、この侍女はてっきり殿下と女性が夜を共にしてのだと思い、相手が誰だか気になり探し出しだ。
柔らかく爽やかな花と新緑の香り。貴族令嬢は甘い香りを好むため貴族令嬢ではなさそうだ。この控えめな香りは城の使用人?
疑問に思ったまま昼休憩に行ったこの侍女は同室の針子と食堂で会う。侍女は気になる香りの特徴を針子に話すと針子は乙女様がそのような香りを着けていると話す。妖精王特性の香水で同じものは無いと聞きビルス殿下と夜を共にしたのが私だと確信する。
しかし私には7人の美丈夫が求婚しており、数日前に来たビルス殿下と親密になるなんて考えられなかった。ところが今朝の候補者の解消の噂を聞き噂が確信に変わる。ビルス殿下と親密になった私は候補者に罪悪感を感じ解消に至った。と劇的な話になっている。探すきっかけになった香水は以前に誘拐・拉致事件後3日ほど妖精城で過ごした時に、滞在した部屋の香りを気に入った私に、フィラが特別に調合してくれた物で同じものは無い。
うーん女性の噂話は怖い。朝食と部屋に残った残り香から人物特定までするんだもん。
変に弁解としたら余計に勘繰られるから自然鎮火するしかないなぁ…
「ありがとう。教えてくれて」
「私は多恵様がそのようなお方ではないと思っています。ただ侍女の間で色んな憶測が飛んでいて私も色々聞かれるんです。私は否定出来る根拠が欲しくて多恵様にお聞きしてしまいました。申し訳ございません」
「いいよ。気にしてないから。私は疚しい事は何一つしていない。乙女の立場上秘密裏に行動しないといけない時もあるし、誤解を招く行動もします。でもそれはリリスの望むこの箱庭の安寧の為だから誇りに思っているわ。周りに何を言われても気にしない。言いたい奴は言わせておけばいいんだよ」
「うぅ…多恵様ご立派です。少しでも噂話を気にかけた自分が恥ずかしい」
「そんな事ないよ。ケイティさんに怒られるのを覚悟で私に教えてくれたんでしょ⁈その思いは立派だと思うよ」
「多恵様!!」
マリカさんの号泣が始まった。自分より背の高いマリカさんを抱きしめ背中をよしよしする。娘の雪も私より背が高くてよく背伸びしながらよしよししたっけ…うーん今母の気分全開である。
ふと・・・
「マリカさん疑問何だけど、候補者の解消はなんで知っているの?」
「候補者のお方達の落ち込みが酷くお付きの方が心配されており、その落ち込み方から多恵様にフラれたのだと噂に…あっ!すみません!また噂話で」
「そんなに皆落ち込んでいるの?」
「その様です。殿下や宰相補佐様におかれては執務室に閉じこもり面会できない程だそうです」
うわぁ…エライ事になっているよ。でもここで情に絆されてはいけない!
マリカさんがやっと落ち着いたけど目の腫れが酷い。控えていてケイティさんを呼んで冷やしタオルをお願いする。
入室してきたケイティさんは苦笑いしながら優しくマリカさんの目元を冷やしてあげる。
私の指示で泣きつかれたマリカさんは休ませる事にした。夕食を食べて無かった事を思い出し食べようとしたらケイティさんが止める。
「冷えてしまったので新しいものをご用意します。少しお待ち下さい」
「勿体ないしこのまま頂きます。お茶だけ入れてくれますか?」
やっと落ち着いて食事がとれます。
食後にケイティさんにマリカさんとの話をした。険しい表情のままのケイティさん。
「分かりました。彼女なりに考えた上で多恵様のお耳に入れたしょう。しかし偶々多恵様は気になさらなかったですが、お耳に入れる事で気を病まれる方いらっしゃいます。やはりお仕えする者はこのような噂話はするべきではない。百歩譲って自室で心根のしれた友人に秘密裏に話す程度です。その噂話をした者達を突き止めて罰せねばなりません。これは侍女長のお耳にも入れるべき案件です」
「まってケイティさん!侍女長の報告は立場上必要だろうけど、罰する必要はないから」
「何故ですか!!多恵様を好色の様に蔑んだのですよ!」
「必要ありません。私から侍女長にもお話しておきます。」
「申し訳ありませんがいくら多恵様であっても納得いきませんわ!」
うぅ…んケイティさんは真面目だからなぁ。許せなもの分かるけど。罰して誤解が解消できるどころか、乙女という地位を使って揉み消した思われる可能性もある。
「これは私の持論何だけどね、“どんなに誤解を受けたり認めてもらえなくても、自分のすべき事をしていれば必ず認めて(見て)くれる人がいる”
だから今回の噂で好色なイメージがついても、キチンと役割を果たせば認められるわ。その時に噂を鵜吞みにした人達は自分たちの浅はかさを知り恥じればいいんです。だから今は何もしなくていい」
「多恵様…女神リリスが多恵様を遣わせてくれた事に感謝いたします」
「落ち着いた?ケイティさん」
「はい。取り乱し申し訳ございません」
「そんな事ないよ。私の為に怒ってくれてありがとう。マリカさんはミーハーでまだまだだろうけど、優しいいい子だよ。長い目で見てあげてね」
「はい、明日じっくり話してみますわ」
それにしてもアーサー殿下とグラント様がそんな状況になっているなんて知らなかった。他の方々もそうなのだろうか⁈侍女さんの噂になるくらいだからよっぽど?少し罪悪感を感じるけど、だからと言ってここで折れたら多分ゆくゆく不満が募り爆発しちゃうだろう。この機会にきちんと考えてみよう
夕食が終わり後は就寝準備ってタイミングで誰か来た。思わず身構えてしまう。
来客はダラス陛下だった。なんだろう?
夜にお会いしてまた変な噂が立つのもなぁ…と躊躇していたら遅れグリード殿下も来るらしい。2人きりじゃないなら大丈夫かなぁ…
あまりお待たせしてはいけないと面会をお受けする。
目の前にいつも通り眼光鋭いダラス陛下が座りじっと見据えてくる。居心地悪いよ!早くグリード殿下来て!
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