密入国
グリード殿下に春が…
シリウスさんのエスコートでダラス殿下の元に向かっています。ずっと右上からシリウスさんの視線を感じています。気になって見上げたら微笑まれる。
「あまり見つめないでください」
「何故?」
「恥ずかしいです」
「慣れてくれ。ずっと見ていたいから」
こんなデレる人だと思わなかった。大型犬に懐かれた気分だ。
やっとダラス殿下の部屋に着いた。許可を得て入室すると、グリード殿下もいらっしゃった。
「多恵様。ご機嫌麗しく今日愛らしい。急に陛下との面談に同席させていただく事をお許しください」
「殿下、ビビアン王女のお加減はいかがですか?」
「お気遣いありがとうございます。大分落ち着かれてきて、ビルス殿下や私の話を冷静に聞ける様になってきています。あと数日で帰国許可も出そうです」
「よかったです。また、お見舞いに伺います」
ダラス陛下にご挨拶すると手を取られソファーに座らされた。そして当然の様に隣に座られる。
向かいにはグリード殿下とシリウスさん。シリウスさんの視線が痛い。
「先日は我が国の問題まで話せなかった故時間をいただいた。昨日の今日でお疲れのところ済まぬ」
「いえ。滞在予定もありますから気になさらないで下さい」
侍女さんがお茶を入れてくれた所で陛下が人払をした。何故か陛下が私の手を取りながら話し出す。
「今モーブルが抱えている問題はバスグル人の密入国なのだ」
やっぱりそうか…ビルス殿下も言っていた事だ。
モーブルはリリスの箱庭最大の領土をもち妖精の加護が厚く豊かだ。リリスの箱庭の穀物は殆どがモーブルで作られている。領土が広く労力が欲しくバスグル人は欠かせない。しかし密入国しモーブル人と同じように恩恵をうけるが、賃金を得ると納税せずに出国してしまう。ズル賢い者は身分を偽り空いている土地を勝手に耕し作物を作り富を得て秘密裏にバスグルに帰ってしまう。
密入国はモーブル端の小舟しか着けない岬から上陸し勝手に住み着くらしい。騎士を常駐させるもそのような岬が複数あり手が回らないのが現状だ。
「人でか足りぬからバスグル人の労力は必要だ。しかし国の配給や施しを受けておきながら納税しないのは、バスグル人を我が国が養っている様なもので割りが合わない。バスグルと協議し就労に関する取決めをしたいのだ。そこで多恵殿の知恵をお貸しいただきたい」
「両国で条件を決めて就労ビザを出し、決まった条件で就労を認めれば密入国なんて必要なくなります」
「就労ビザとは?」
「国が決めた就労期間や条件、またそれを守れる人物かを精査し働く権利を与えるものです。
例えばバスグルで犯罪歴が無く身元証明出来る人物。モーブルで決まった期間働きモーブルで納税し、モーブルの法を守る事を約束できる事とか…ですかね。大まかに言うと」
「その様な制度は初めて聞いたぞ」
「私の世界では普通にありました。そんな制度があっても、国外に不法就労する者が絶えず問題になっています。不法就労する者達は自国で生活出来ない為に危険を侵しても国外に渡るのです。そもそも自国で生活出来ればこんな問題は出ない。モーブルだけ対策しても無くならない問題です。やはり国同士で対策せねばならないと思います」
腕組みをして考え込んでいたダラス陛下がグリード殿下に向かって
「グリード。やはり其方の廃嫡は認めん。王弟の立場でバスグルとの交渉をして欲しい。この問題は制度が整い軌道にのれば後はバスグルに渡りビビアン王女との婚姻も認めよう」
「?」
今婚姻と言いました?
話が見えずグリード殿下とダラス陛下の顔を交互にみていたら、
「多恵様。事情が変わりまして、ビビアン王女の夫となり彼女を支えていく事になりました」
「いつの間にそんな話になっているんですか?」
「初めは妹しか思えないので家臣にとビビアン王女に話したのですが、妹でいい他の方を想っていてもいいから伴侶になって欲しいと言われまして。
第1王子も健やかに成長され第2王子も生まれ私の役目はモーブルにはないので…決心した次第です」
照れくさそうに微笑むグリード殿下に驚きながら、思わずダラス陛下を見てしまった。陛下は悪戯ぽくウィンクしてくる。
「えっと…おめでとうございます?」
「すみません。微妙な反応になってしまいますね。受け入れている自分が一番驚いております」
「グリードがビビアン王女と婚約する事になり、モーブルの候補はシリウスにしたいと思っている。いかがだろうか⁈」
「何度か伝えましたが貴族や王族で無くていいんです。それに選ばないかもしれません。ですから充てがわないでいただきたいです」
「充てがってなどおらん。本人が強く望んでいる。嫌なら私でも良いぞ。其方を気に入っておる」
「光栄ですが本気ならグーパンチレベルですよ」
「本当に多恵殿との会話は面白い。アルディアが落ち着いたら、モーブルに来て問題解決に力を貸して欲しい。国をあげて歓迎しよう!」
「ありがとうございます。まだ、レックロッドの話を聞いていないので、まだお答え出来ません」
「あぁ…分かっておる。其方の判断に従おう」
一応レックロッドの話も聞くけど、恐らく次はモーブルだろう。でもモーブルの問題を解決するなら、バスグルも解決しないと根本的な解決にならない。
そこでふと疑問に思う。何故そんなにバスグルは閉鎖的なの?国民が出稼ぎに密入国する程切羽詰まっているのに、聖人の供養ばかり気にしているの?
理解出来ない。
「多恵様?」
「グリード殿下…何故バスグルは国民がこんなに困っているのに、閉鎖的なんですか?」
「私も同じ疑問を持ちビーに聞いたことがあります」
殿下はバスグルの歴史の詳細は知らない。ただ王族の驕りにより昔聖人を死に追いやったと聞いたそうだ。
「ビー曰く”バスグルは許しを得るまで幸せを求めてはならない。その日が来るまで贖罪し続けなければならない”と言っていたのを覚えています」
「…そうですか。ビビアン王女が体調がいい時にバスグルについても聞いてみたいです。バスグル国内も変わらないと解決しないと思います」
「分かりました。ビーにも伝えておきます」
モーブル側の話を聞けてよかった。なんとなくバスグルの解決の糸口が見えた気がした。
きっとバスグルは根本から間違っている。正清さんはそんな事を望んでいないだろう…
あ…きっとバスグルに行かないといけないパターンか。アリアと喧嘩中のリリスが箱庭を出る事を許してくれるだろうか…
まずはフィラから攻略しないといけないなぁ…
不意に腰に付けられたキスマークを思い出して顔が熱くなる。次お願い事したら何を求められるの⁈
1人焦っていたら向かいに座るシリウスさんが真っ直ぐな眼差しで
「多恵様。今貴女は誰を思い出しそんなに動揺しているのですか?」
「へ?とっ特には!」
隣のダラス陛下が私の頭を撫でながら
「シリウス。悋気か?多恵殿の慕う者は多い。今以上にアプローチせねば忘れられるぞ」
「陛下!変なこと言わないで下さい!」
「恐らく近いうちにモーブルにお越し頂く事になる。そうすればアルディアの候補達が離れる故しっかり口説きなさい」
シリウスさんの目が狩りをする野獣のように変わった。怖い様で色っぽいんだよね…
「陛下…多恵様は奥手で謙虚なお方だ。あまりいじめないでいだだきたい」
グリード殿下が助け舟をだしてくれ、この話は終わり胸を撫で下ろす。
正直、想ってくださる方には悪いが、これ以上他の方のお心をいただく気はない。キャパオーバー寸前です。
いくら若い体に生まれ変わったとしても、リリスの箱庭全ての国に子供1人となると4人産まなければならない。
実際の私は娘を1人産んでいるが一人でも大変だった。産むのも大変だが育てるには体力がいる。
皆さん跡取り息子だから男の子を望むよね…
科学的根拠があるのかは知らないけど、確か男の子を生み育てるのは女の子を産み育てるより母親の寿命が3年縮まると聞いた事がある。って事は私の寿命は何年縮まるの?
何考えてだけで寒気がする。
だから今心をいただいている方のとの間に儲け、ある程度成長したら養子に出せばいいと思っている。
子育ては女神の台座辺りに家を建てて子育てすればいいんじゃなぃ?
漠然とそんなことを考えていた。
が・・・そんな考えは通用しないと分かるのはこの後暫くしてからの事となる。
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