婚約者
またあの人がやらかしそうな予感がしています
『ガタッ!』凄い勢いでオーランド殿下が立ち上がり、私の前に跪き胸を手を当て真っ直ぐに見つめてきます。
「多恵様!レックロッド帝国いや、俺が命をかけて貴女を守ります。ですから是非!レックロッドにきて欲しい」
「えっと…私も妖精城は安全なのは分かるけど、それではレックロッドとモーブルのお手伝い出来ないからないかなぁ…まだ決定では無いしフィラとも時間つくって話そうと思います」
安心したのかオーランド殿下は私の手を取り微笑みます。キラキラ眩しくて目がやられる!
「はぁ…」背後から溜息が聞こえ振り返るとマリカさんが頬を染めて立っている。手にはデザーを持っていて給仕中で、マリカさんの後ろに鬼の形相のケイティさんか立っている。
「ぷっ!」カイルさんが顔を後ろに背けて明らかに笑っている。
マリカさんとカイルさんのお陰で場が和んだ。デザートをいただきながらレックロッドの話を色々聞く。資源は乏しいが空気が澄んでいて湧水が豊かなので、妖精の加護が戻れば豊かな国になるだろう。
私がレックロッドに行けば少しは妖精たちは来てくれるかもしれない。そんなことを真剣に考えていたら、オーランド殿下が嬉しいそうに
「俺は乙女召喚の儀からずっと貴女の事ばかり想っていた。こうして向き合える時間が来るなんて夢ではないかと思う時もある。焦がれていたものに触れれると欲が出てもっと欲しいと思う。どうすれば貴女の心をいただけるのだろうか…」
ヤバい!ギャップ萌えだ。こんな甘いセリフ言われるなんて思っていなかった。
ふと殿下の後ろに控えるカイルさんに目が行く。どこか見ていて口元が緩んでる?カイルさんの目線を追うと部屋の隅に控えるマリカさんとケイティさんだ。
マリカさんは乙女全開で夢見心地で相反してケイティさんの表情は氷の様に冷たい。恐らくカイルさんの2人の温度差が可笑しいのだろう。
「多恵様?」
「あ!すみません。殿下とはまだ日が浅いので時間をかけてお付き合い出来ればと思います。きっと私の本性を知ったら幻滅するかもしれませんよ」
「でしたら貴女の全てを見せて下さい!俺はどんな貴女も愛する自信があります」
“ぽと…”フォークに刺していたケーキをお皿の上に落としてしまった。今食べているケーキより甘い殿下の言葉にブラックコーヒーをお願いしそうになった。
こうして終始オーランド殿下から口説かれて必要以上に汗をかいた昼食だった。
殿下が退室後はモーブル王との謁見までのんびり過ごします。
私がソファーで手洗いとうがいの説明書を書いていたらケイティさんが
「多恵様。控室におりますので、何かあれば遠慮なく声をおかけ下さい」
マリカさんが悲壮な顔をしている。きっとケイティさんから指導が入るんだ。
マリカさんは城下にある大きい商家の娘さんで行儀見習いで登城しているそうだ。礼儀作法はしっかりされているが貴族令嬢に比べるとやっぱりふわふわした感じがして奔放さがみて取れる。私からしたら可愛らしいお嬢さんだけど侍女としては致命的だ。ケイティさんは仕事は早く要領がいいので落ち着きと自覚が出来ればいい侍女になると期待している様です。ケイティさんも嫁入りが決まっているから後輩の教育に熱が入るのだろう。
頑張れマリカさん。
控室から戻って来たケイティさんがモーブル王に謁見の為に湯あみの準備をする。着替えるだけでいいのでは?と聞いてみるが国王に会う時は湯浴みは絶対にしないといけないらしい。正直めんどくさい!汗もかいていないからバレないと思うけど…ケイティさんの視線が痛い。
促されトボトボと浴室に向かう。
出来るだけシンプルなドレスにしてもらい化粧も薄めにしてもらった。
準備が出来たころに文官さんが迎えに来た。グリード殿下のお兄さん…どんな方なんだろう⁈気難しい方じゃないといいんだけど…
廊下に出るとケニー様が嬉しそうに来て腰に手を回してきます。
「ケニー様近いです」
「俺は伴侶候補ですよ!」
「はい。しかし今は護衛騎士の任務中ですよね⁈でしたらこれはやりすぎです。他の騎士さんは手だけですよ」
腰に回った手を掴み離した。もう一人の当番騎士のマッドさんは笑っている。
仕切り直し謁見の間に向かいます。
謁見の間のでっかい扉が見えてきたら緊張してきて思わずケニー様の手を強く握ってしまった。
「多恵様大丈夫ですよ。緊張しないおまじないして差し上げましょうか⁈」
「そんなのがあるんですか⁈是非お願いします!」
一瞬ケニー様が悪い顔をして嫌な予感がした
繋いだ手を引っ張られケニー様のお顔が近くに!不意打ちにキスされた!
もう一人の騎士のマッドさんがケニー様の名を呼び首根っこを掴みひっぱり、ケイティさんが私を抱え込んだ。
「ね!もう緊張してないでしょう⁉」
やられた…この人予測外の事をする自由人だった。扉前でもめていたら謁見の間からトーイ殿下が出て来た。
足早に来たトーイ殿下がマッドさんから事情を聞いてケニー様の頭に拳骨を1発いれて、私に胸に手を当てて深々と頭を下げ謝罪されました。
「多恵殿。申し訳ございません。こいつが護衛当番を勝ち取った時に一抹の不安をもっていたのです。悪い意味で期待を裏切らない男です。マッド!残りの護衛の間は多恵殿のエスコートはお前が務めろ!」
「御意」
「多恵殿。モーブル王と陛下がお待ちです。早く中へ。ケニーお前の処分は後に言い渡す」
トーイ殿下にエスコートされ謁見の間に入室します。ケニー様にはやられたけど緊張は無くなった。ケニー様のおまじないは意外に効果があったようです。
入室すると皆さん勢揃いで焦る。トーイ殿下は当たり前の様に陛下と王妃様の間に誘導しご自分の位置に戻られた。陛下と王妃様の(仮)両親の設定はまだ継続中らしい。
視線を感じ前を見るとグリード王弟殿下に似た男性がいる。あの方がモーブルの王だ。本当にグリード殿下に似ているが、殿下より眼光が鋭く凛々しい感じがする。
「モーブル王国ダラス・モーブルと申す。女神リリスが召喚した乙女に目通りでき僥倖。直接ではありませんが愚弟によりアルディア王国及び多恵様にご迷惑を掛けた事お詫びする」
ダラス陛下は謝罪され陛下も私もお受けした。
お詫びに何か贈らせて欲しいと言われたが、欲しい物も無いので申し出をお断りする。
「多恵殿。恐らく後1刻程でファーブス領の港にバスグルから特使がくる。特使は第1王子のビルス殿下だろう。明日謁見がある故同席願いたい」
「分かりました」
「ルーク殿。バスグルと話し合いをしたい。貴方に同席いただき中立な立場で意見いただきたい」
陛下が了承され一応謁見は終わった。はぁ…肩が凝る。この後会食があったが緊張したが結構あっさり終わった。部屋に戻ろうとしたらダラス陛下に呼び止められ明日の昼食に誘われた。一瞬躊躇ったらダラス陛下は声のトーンを落とし
「グリードの事で話をしておきたいのです」
「!えっと…分かりました」
なんの話だろう…これ以上ショッキングは話は遠慮したい。ダラス陛下は私の手を取り手の甲に口付けを落とし微笑んだ。
ケイティさんと護衛のケニー様とマッドさんが来てくれて部屋に戻ります。トーイ殿下の指示通り帰りはマッドさんにエスコートして貰い、ケニー様は少し不満げです。
何かに付けてケニー様が私にちょっかいをかけるので、ケイティさんの表情がどんどん無くなりもう能面の様。もう!ケニー様黙って下さい!
「ケイティ!」
前から優しい面立ちの男性が歩いてきます。
ケニー様が剣に手を掛け私の前に立ち庇います。ケニー様!ちゃんと騎士のお仕事できるんですね!
「ハンス!何故貴方がここへ?」
ケイティさん知り合いですか?…さっきまで能面だったケイティさんが頬を赤らめ乙女になっています。
「父の代理でダラス陛下に書状をお渡しする為に登城したんだよ。君は勤務中で会えなと思っていたから、会えて嬉しいよ!」
我に返ったケイティさんが紹介してくれる。
「多恵様。私の婚約者のバモス伯爵家御子息ハンス様です。ハンス様。私がお仕えしている女神の乙女の多恵様です」
ハンス様は丁寧にご挨拶され恐縮する。前に”物静かで物足りない”なんていいながら、めちゃ幸せオーラ出してますよ!ケイティさん。
お2人さん幸せのお裾分けありがとうございました。
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