支え
グリード、ビビアンと面会です。どきどきです。
『お迎えに来てくれただけだよ』
『こいつ だいじょうぶ?』
『悪い人ではないよ』
『てん よく みる』
てん君のチェックは厳しいです。
「シリウスさん。大丈夫ですよ」
シリウスさんは私に手を差し伸べエスコートしてくれる。ふと見上げるとやわらかい表情のシリウスさん。随分印象が変わった。
はじめは嫌われていると思ってたし、気難しい人に見えて苦手だった。
「綺麗にドレスアップした貴女も美しいが、俺は着飾らない普段の貴女が好きだ。自然で愛らしい」
「……ありがとうございます」
デレるタイプだと思わなかったからドキっとした。不意打ちはやめて欲しい。どうしていいか分からなくなる。シリウスさんは急に立ち止まった。不思議に思い見上げたら、私の耳に飾ってオレンジの小花に触れて
「この小花…よく似合っている。次は俺の色を飾って欲しい」
私の耳に触れ熱を持った視線を送ってくる。あの耳こそばいです…
「「ん?」」
足元に何か来た。下を見たら私とシリウスさんの間にてん君が入って来た。
ジトっとした目でシリウスさんを直視しています。
『たえ こいつ びみょう』
「多恵様。俺は聖獣に嫌われているんだろうか」
「私を守る役目があるので、厳しめだと思います」
シリウスさんは跪きてん君に
「多恵様に俺の心を捧げている。多恵様の守りである聖獣殿に認めてもらう様に精進しよう」
じーとシリウスさんを見てくんくん嗅いで
『たえ こいつ うそ ない でも みる』
『悪い人じゃないよ』
『みる』
「シリウスさん。てん君はこれから見て行くって」
「1日でも早く貴女の相手に認められたい」
シリウスさんは優しく抱きしめてくる。
「ん?」
シリウスさんが下を見たのでつられてみたら、てん君がシリウスさんの脚を前足で叩いている。
『まだ だめ』
「聖獣殿は厳しいなぁ…」
ケイティさんが先を促します。再度シリウスさんのエスコートを受けて貴賓室を目指します。
貴賓室の前まで来ました。ちょっと緊張する。ノックし返事を受け入室します。
グリード王弟殿下が扉まで来て下さり、ハグをし手の甲に口付けをされます。
「多恵様、ご機嫌麗しゅうございます。お越しいただきありがとうございます。本来私が伺うべきですが、まだビビアン王女の状態が安定しないので…」
「いえ…王女のお加減はいかがでしょうか⁈」
「落ち着いて話せるときもあれば、“エルバスを呼んで”と混乱する事もしばしばあり目が離せません」
「医師はなんと?」
「薬の成分が分からないと診断が難しいらしく今分析中で暫くかかるかと。今は妖精王から頂戴した薬を飲み落ち着いて眠っています」
「殿下はちゃんとお休みになりましたか?」
「はい。シリウスと交代で休んでいるので大丈夫です」
疲れは見えるけど殿下はとても穏やかな表情をしているのをみて少し安心する。
殿下に茶菓子とお花を渡すと、茶菓子はビビアン王女の好物らしく喜ばれる。好物が同じで王女に親近感をもつ。
貴賓室付きの侍女さんがお茶を用意してくれた。
殿下とシリウスさんと他愛もない会話を楽しむ。ふと思いだして
「殿下に贈って頂いたドレスが好評でフィラは殿下のセンスに嫉妬していましたよ。正直あの色は自分で選ぶ事がないので似合うか自信が無かったのですが、皆さんに褒めて頂いたちょっと嬉しかったです」
「喜んでいただけたのなら私も嬉しいです。本当によくお似合いでした。綺麗に着飾った貴女と1曲踊りたかった…」
「また機会がありましたら、お願いします」
「・・・恐らくないですね」
殿下は寂し気にほほえんだ。なんかまた知らない間に何かありそうだ。怖いなぁ…
「ビーの意識がはっきりしたらになりますが、私はバスグルに渡りビーを支えようと思っています」
「へ?」
殿下はビビアン王女の気持ちを知りながらあやふやにして来た事が今回の騒動の発端になり責任を感じているようだ。
殿下の想い人は誰か分からないが、決して想いが叶う人ではないらしい。殿下にとってビビアン王女は妹の様な存在で、今後見守って行きたいそうだ。
殿下曰くモーブルの第1王子の病も完治し第2王子も生まれモーブル王国は安泰で自分の役目は終えたと話す。
廃嫡しバスグルでビビアン王女の側近としてバスグルの力になりたいという事だ。
「今回の事があっても恐らくバスグル王はビーを王にするだろう。第1王子は国政に全く関心がなく、どちらかと言うと芸術肌で国王に向いていないし本人も望んでいない。国王は王家の血筋を重んじている」
殿下は立ち上がり私の前に跪いて頭を深く下げて
「多恵様には騒動に巻き込んだ上助けて頂いたのに、貴女の伴侶候補を辞退する事になり大変申し訳ございません」
「殿下。お顔を上げて下さい。元々伴侶候補はお王族で無くていいと言っていたし、もしかしたら選ばないかもしれないって言いましたよ私」
「多恵様の慈悲に感謝いたします」
殿下は私の手を取り手の甲に口付けを落とし柔らかく微笑む。
「シリウスはまだ貴女の候補ですし、望まれるなら年下になりますが私の甥でも構いませんよ」
「甥っ子さんってお幾つなんですか?」
「8歳です」
「すみません。無いです。犯罪だわ」
室内に笑い声に包まれ和みました。一息おいて殿下が明日モーブル国王が入国し謁見させていただく事になり、その際にモーブル王国が抱えている問題を話す事になると。殿下は恐らく同席は叶わないので助けて欲しいとお願いされた。
明日は大変かも…
ビビアン王女はまだお休みされているので、ご挨拶はまた出直す事にし退室します。
シリウスさんが手を差し伸べて「お部屋まで送らせて下さい」と申し出てくれた。
断る理由もないしお願いすることに。
グリード王弟殿下はハグをし耳元で「貴女に会えてよかった。ありがとう」とささやかれた。その様子に不機嫌なシリウスさんをみて殿下が楽しいそうに笑う。
シリウスさんにエスコートされ廊下を歩いていると前からオーランド殿下とお付きのカイルさんが走ってきます。
何かあったんですかね?
「良かった。私も今聞いたのですが、部屋で待機して居たバスグルの貴族が1名姿を消した様です。貴女に危険が及ぶのではないかとお迎えに来ました」
シリウスさんの顔が険しくなり
「多恵様。私はグリード殿下とビビアン王女が心配なので貴賓室に戻ります。オーランド殿下!申し訳ございませんが、多恵様をお守りください」
「勿論だ。貴殿は早く貴賓室に!」
シリウスさんは礼をして走って行った。もう騒動は勘弁してほしい。
城内は騒然となり騎士が走り回っています。もー!陛下バスグルへの賠償金5割増しで請求しましょう!
オーランド殿下に守られながら部屋に戻る途中でアーサー殿下に会った。お忙しそうだ。
「多恵殿。良かった!今バスグルの貴族が1名姿を消し捜索中です。オーランド殿下と一緒なら安心です。これは…」
アーサー殿下は私の耳に飾られた小花に触れ、嬉しそうに微笑み
「この花はよく似合う。私の色だ」
『ん?私の色?』
一瞬意味が分からず固まる。殿下の瞳が私をずっと見つめてる?相変わらず綺麗な瞳だなぁ…瞳?
『確かイケおじが指してくれた小花はオレンジ色だった!殿下の瞳と同じ!』
殿下は頬に手を当てて額に口付けを落とし、オーランド殿下に私の護衛を頼み颯爽と歩いて行った。
少ししたらオーランド殿下が
「間違っていたらすみません。多恵様はこの小花の色とかあまり意識してなかったのでは?」
「オーランド殿下!正解です。誤解を招いてしまったようです」
「貴女に惚れている者は小さなことでも勘違いするものです。俺そうですから。次は赤い花を飾って下さいね」
オーランド殿下が腰に手を回しぐっと引き寄せる。
オーランド殿下も初めの印象と随分違う。シャイで構ってあげたくなる弟タイプだった。今はしっかりした爽やかな青年だし、照れ臭そうに笑う顔は可愛らしい。こういうのギャップ萌え⁈
それにしても逃げた貴族はどこに行ったのだろう…
『たえ ようせい たのむ みつかる』
『妖精さんわかるかなぁ⁈』
『かくれる すぐ わかる』
てん君の提案どおり妖精さんに頼むことにした。心で妖精さんを呼ぶとすぐに来てくれた。
『たえ すこし げんき ない かわいそう』
『ありがとう。大丈夫だよ。それよりこの城の中で隠れてる人とか探せる?』
『うん。なかまにきく』
そう言うと妖精さんは飛んで行った。
『たえ!いた!』
『え!!もう!早!』
護衛についてもらっている騎士さんに応援を呼んでもらいオーラン殿下と隠れている場所に向かう。
隠れている場所は私が前に身を隠した使用人の女子寮横の植木の影。
向かう途中に捜索している騎士さんと合流し、現地に着くころには20人近い騎士さんが集まった。皆さん鍛えていて背が高いから20人も揃うと圧巻だ。
背の高い植込みの上を妖精さんが旋回している。私が指さすと一斉に周りを騎士さんが取り囲んだ。
手を上げて半泣きの若い男性が出て来た。
「私はアカデミーの先輩の付き添いで来ただけなんだ。明日国の者が来ればきっと父上の耳に入り、私は勘当されてしまう!」
悲壮な顔の青年は騎士さんに連行されて行った。
後に聞いた話だがこの青年は事情聴取受けた彼の先輩が顔面蒼白で部屋に戻って来たのを見て、拷問を受けると勘違いし怖くなったって逃げ出したそうだ。ほんと大事にならなくてよかった。穏やかな異世界ライフを過ごさせて下さい。
オーランド殿下に送っていただき部屋に戻った。ソファーに座りゆっくりしていたら、サリナさんと一緒にエレナさんが来た。凄く久しぶりに会ったけど、凄く大人っぽくなり綺麗になった。
「多恵様。本日をもってお暇をいただく事になら、ご挨拶に参りました。
「エレナさん!おめでとう」
「ありがとうございます。多恵様にお仕えした事で良縁に恵まれました。あの…宜しければ婚約者にお会いいただけませんか?」
「えっ!来ているの?」
「はい。廊下でお待ちいただいています」
「全然OKだよ!早くお入りいただいて!」
エレナさんと一緒に入室してきたのは20前半の優しそうな男性。たしかグラント様の部下だったはず。
婚約者さんから丁寧な挨拶を頂いた。
「私は多恵様に感謝しかありません」
「私特に何もしてませんが⁈」
婚約者さん子爵家嫡男のジョージさん。2人はグラント様が私の伴侶候補になった事で、仕事で会う事が増え顔見知りに。非番の日に偶然城下で出会いお茶をし、お互い好印象をもったそうです。それから何度も仕事で会う機会が増え親しく。話が進んだのはジョージさんのお父様が病気を患い急遽ジョージさんが家督を継ぐ事になり、妻を娶る必要が出てきた。ジョージさんは妻はエレナさんしかいないと思い求婚しエレナさんは受けたそうです。
「閣下は仕事ができ男の私から見ても素晴らしいお方です。しかし無駄が無く少し冷たいイメージがありましたが、多恵様と親しくなられ柔らかく穏やかになられました。本当に感謝しかありません」
「エレナさん。素敵な婚約者ね。幸せになってね!偶には遊びに来てね!待ってるから」
涙ぐみ抱きついて来るエレナさん。年齢的に娘だから嫁に出す母の気持ちだ。
“人の不幸は蜜の味”というけど私は”人の幸せも蜜の味”だ!
暫くお二人の惚気話をいっぱい聞いて幸せをお裾分けして貰って、幸せな気持ちで1日を終えました。
お読みいただきありがとうございます。
続きが気になりましたらブックマーク登録&評価よろしくお願いします。
『時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜』も1日おきに更新しています。こちらもお読みいただけたら、嬉しいです。




