てん君
てん君がいっぱい出てきます
『たえ あさ おきる』
『う…んまだ眠い』
『へや だれか きた』
てん君が私の顔を前足でぺちぺち叩いて起こす。
ゆっくり起き上がり時計を見ると3刻を過ぎてる。
昨晩はお三方に部屋まで送ってもらい…早く寝たいのに中々お帰りにならないから、最後は部屋から追い出し半刻にやっと眠った。
てん君は寝室の扉まで行き扉を前足で叩く。
するとケイティさんが入室してきた。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「おはようございます。誰がきてるの?」
「はい。グラント様がお見えです」
「身支度するので、少し待ってもらって下さい」
『たえ てん グラント いく』
てん君はベッドから下りて部屋の方に走っていく。
部屋から小さい悲鳴が聞こえてきた。ケイティさんが頭を抱えている。どうやらまたてん君に驚いたマリカさんだ。苦笑いをしながら浴室に行き顔を洗い着替えをする。
支度が終わり部屋に行くとゆったり座ったグラント様の膝の上に、てん君が座りもふもふしてもらい目を細めている。私に気付いたてん君は目を見開き焦っている。なんか浮気現場を目撃されたおじさんみたいで少し笑えた。
グラント様は朝から爽やかさんだ。てん君を下に下ろし、ゆったりとした足取りで私の元にきて抱きしめる。まだ眠いからグラント様の抱擁は眠けをよぶ。
両手で優しく頬を包み額や頬に口付けを落とす。
「おはようございます。まだ疲れていますね…すみません。昼からは忙しく貴女に会いに来れないので」
「おはようございます。正直まだ眠いです。それにしてもてん君がよく懐いていますね」
「多恵様の成獣に好意を持ってもらえるのは光栄です」
『グラント たえ におい する あんしん』
てん君を見て思わず「マジで!」て思わずてん君に呟いてしまう。視線を感じ見上げるとグラント様が何の事が聞きたそうだ。なんとか誤魔化そうとしたけど、腰に回った腕が強まりグラント様により密着し美しいお顔で問い詰められて、てん君の発言を暴露する事に
艶っぽい表情をしたグラント様がいきなり口付けてきた『ケイティさんもマリカさんも居ますから!』慌ててグラント様の背中を叩く。
「人前はやめて下さい」
「すみません。嬉しくて思わず…」
咳払いをしケイティさんが
「グラント様。多恵様はまだお食事を召し上がっておられません。宜しければお茶をご用意いたしますので、閣下もご一緒なさいますか⁈」
「あぁ…頼む」
ケイティさんとマリカさんが遅めの朝食を用意してくれる。マリカさんはグラント様に釘付けで手が止まり、ケイティさんに睨まれながら給仕をしている。
恐らくマリカさんはイケメン好きだ!日本にいたらアイドルの追っかけとかするタイプだなぁ…
てん君は私の膝の上に居る。グラント様と話していると前足で私の手を叩きもふもふを要求する。少し意地悪して
『もふもふはグラント様にしてもらったほうが嬉しいんじゃないの?』
『グラント まぁまぁ たえ いちばん』
「も!」思わずてん君を抱きしめ高速でもふもふする。目の前のグラント様はぽかーんとしてその様子を見ていて
「多恵様は聖獣と会話しているのですか?」
「はい。心で会話します。え…と思念的な⁈」
「すごい!聖獣は何と?」
「グラント様に撫でてもらって嬉しそうだったから、“私じゃなくてグラント様にしてもらったら”と言ったら、私が一番だって可愛い事言ってくれて胸キュンです」
「聖獣の名は“てん君”と言うのですか?愛らしい。私もお呼びしてもいいでしょうか⁈」
てん君の見ると頷いている。
「ありがとうございます。てん殿。私も貴殿と共に多恵様をお守りしますから、よろしくお願いします」
てん君は私の膝から降りてグラント様の足元に行き撫でて貰い嬉しそうだ。
食卓の準備ができグラント様と共にし、そこでグラント様からこれからの予定を聞かされる。
朝一からビビアン王女の侍女とエルバスさんの尋問が既に始まっているらしい。ビビアン王女はまだ意識がはっきりしない為様子をみて話を聞き、バスグルの家臣及び貴族は昼から話を聞く。グリード王弟殿下はビビアン王女に付き添っているそうだ。
殿下及びイザーク様、グラント様は昼から当分の間、後処理に追われ暫く会えそうにない。
恐らく明日にはバスグルからの特使とモーブルから国王が来ることになるだろうとグラント様が言っていた。
「多恵様が一番お疲れです。今日はお休みください。明日は恐らくバスグルとモーブルからの謁見がありますから」
「お忙しいところすみませんが、グリード王弟殿下と面会できるように調整していただけますか⁈」
「分かりました。ビビアン王女の状態も一緒に伺っておきましょう」
「ありがとうございます」
食事が終わると名残惜しそうに私を抱きしめて
「この騒動が落ち着きましたら、我が領地に来て下さい。貴女に見ていただきた所がたくさんある」
「はい。楽しみにしています」
頬に口付けを落としグラント様は帰って行った。
ソファーに座りてん君を抱っこしてウトウトしていたら文官さんが来た。どうやら陛下がお呼びらしい。
てん君に戻るか聞いたらそのままついてくるらしく、騎士さん2人とてん君に付き添われ陛下の執務室に向う。てん君は城内を歩くのが楽しいらしく、走り回り犬?の本能全開中です。
執務室に着いたら陛下とフィラがいた。
フィラが立上り私の手を取り私を横に座らせる。陛下はてん君をガン見。
「多恵殿。この聖獣は…」
「はい。てん君で私のボディガードです」
陛下の手がワキワキして、てん君をもふりたそうです。てん君は陛下を無視し私の膝の上でフィラの手を前足で叩き不機嫌です。フィラは未だてん君の信頼回復出来ていないようです。
「今回の騒動。正直アルディアはとばっちりを受けた。バスグルにはそれに似合う賠償を請求するつもりだ。モーブルはグリード王弟殿下に個人に請求する事になるだろう。取り合えず明日に両国の代表が入国しそれからの話し合いになる。そこで妖精王から提案がある。リリスの箱庭の者が多恵殿に害を及ぼす事は無いが、他国から悪意を向けられる事が続いている。そこで多恵殿安全を考えて多恵殿の拠点を妖精城に移す話が出ている。これは女神リリスも了承している」
「でも妖精城に拠点を置くと各国の問題解決に動きづらいです」
「多恵。俺はリリスにと同じで人の起こす問題に関わる事が出来ない。多恵に何かあっても危険が伴わない限り手を出せない。だから今回の様に直接何か起こらない限り何も出来ないのだ。それでは間に合わない時もある。やはりいつも人が手を出せない環境に居た方が安全だ」
確かに今回も侍女が薬を使おうとした時にボリスとフィラが動いてくれた。ダンスの時やエルバスさんと会った時はフィラやてん君は動かなかった。
でも妖精城に行けば自由に動けない。まだ色々あるのに…移るしか方法がないのだろうか⁈
妖精城にいけば…身の危険を感じるのは気のせいだろうか…
結局答えを出せぬまま自室に戻る事になった。
部屋に戻るとグラント様からグリード王弟殿下の面会の連絡があった。ビビアン王女が滞在している貴賓室に先触れを出してくれればいつでも会ってくれるらしい。もうすぐ4刻半だからお昼は終わっているよね⁈私用のフィナンシェを籠に入れてもらい。マリカさんに先触れをお願いし準備する。
お菓子以外に何かないかと考えていたら、フィラからもらった花が目に付いた。そうだ!花を持っていこう。ケイティさんに相談したら貴賓室に向かう途中に中庭があり今の時期沢山の花が咲いているらしい。ケイティさんが庭師に花を分けてもらう様にお願いに行ってくれた。
中庭でお花を選びビビアン王女とグリード王弟殿下の元へ向かいます。
中庭に着くとケイティさんと庭師さんが待っていてくれた。庭師さんってイメージ的におじいちゃんだったけど、アルディア城の庭師は髭が渋いダンディなイケおじだった。イケおじこと庭師さんに贈る人の事を聞かれ華やかな超美人と答えるとなぜか笑われた。
体調を崩している事を付け加えると優しい色合いがいいと言われ、淡い黄色の薔薇に似た花を選んでくれた。花言葉は「前向き」で病気の見舞いによく贈られるらしい。イケおじは慣れた手つきで花束を作ってくれた。お礼を言ったら「乙女様にはこの花が似合う」と耳にオレンジの小花を指してくれた。
ダンディなオヤジはやる事が違う。どきどきしちゃいました。
さてお土産も用意できたし貴賓室に向かいます。
貴賓室に続く廊下。てん君が興奮気味に走り私の周りを走ります。
『てん君!落ち着いて!周り走らないで。目が回るから』
『たえ ながい みち たのしい』
さっき沢山もふったからてん君は柴犬くらいの大きさで力強く走っている。他の人にぶつからないか心配しながらてん君を見守っていた。
すると数メートル前でいきなりてん君が止まり、前をじっと見て警戒している。
誰か近づいて来てるのか⁈
「多恵様!」
「シリウスさん?」
「先触れがありましたので、お迎えに参りました」
「ありがとうございます」
「多恵様。聖獣俺を警戒して近づけません」
「ちょっと待って下さい」
てん君を呼ぶと駆けてきて
『たえ あいつ びみょう』
てん君”微妙”なんて言葉どこで覚えたの?
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