眼病
グリード王弟殿下が語ります。
7刻半(22時)になりやっと城内が落ち着いてきた。
ビビアン王女の侍女とエルバスさんは騎士棟地下の牢屋に収監され、ビビアン王女は第1騎士団の女性騎士の監視の元貴賓室に。その他のバスグルの家臣や貴族は数名毎に騎士の監視下部屋に待機する事になった。私は一旦部屋に戻り湯浴みし楽な格好に着替えて今陛下の執務室に向かっています。
第1、2騎士団はバスグルの監視で忙しく、第3騎士団の騎士さんが護衛に付いてくれています。
「キース様…あまりくっつくと歩き辛いです」
「歩き辛いならお抱きしましょうか⁉︎」
「えっと…このままで」
部屋を出た所でキース様に会い一緒に執務室に向かっています。キース様も夜会服からグレーの三つ揃スーツに着替えをされています。男性の三つ揃いのスーツはめっちゃ好きで私の萌えポイントです。スマホが今ここに有れば絶対撮っているし、待ち受けにしたいくらいだ。
キース様も少し窶れている。ビビアン王女が来てからお休み無しだもんなぁ…ふと目が合う。
「どうかされましたか?」
「いえ…お疲れ様だなぁって思って」
「貴女が口付けをくれたら何日でも徹夜できますよ」
「不健康になるなら(キスは)もうしません」
「!」
「へへ♪」
いつもドキドキさせられるから、ちっちゃい仕返しをしてやった。
やっと執務室に着いた。部屋に入ると皆さん勢揃いしている。陛下が立ち上がり私の前に来て「キースご苦労」と言い当たり前の様に私の手を取り陛下の横に座らされた。キース様が唖然としている。そうだった陛下は父(仮)だった。
キース様も着席しイザーク様がグリード王弟殿下に今回騒動の説明を求める。
グリード王弟殿下は何か吹っ切れた表情をしていて、落ち着いた声で話し出した。
事の始まりはビビアン王女がモーブルに留学し、グリード殿下がビビアン王女の世話役を務めた事からはじまる。グリード殿下はビビアン王女が淡い恋心を向けているのに気づいていた。しかし殿下には想い人がいてビビアン王とは友人関係を保たれていた。
そんな時モーブルの第一王子(グリード殿下からしたら甥)が目病にかかり、視力が低下して眼鏡をしてもぼんやりしか見えな状態に。医師にはこのままいけば失明だと告げられ王家は絶望する。
モーブル王家総出で治療方法を探していた時に、ビビアン王女からバスグルに秘薬があると聞かされた。主だった産業もないバスグルだか、はるか昔から『目薬の木』と呼ばれる紫の変わった実がなる木があり、その実から作られた目薬はどんな眼病でも治すといわれている。本来なら閉鎖的なバスグルから薬の輸入が難しい。グリード殿下は藁にもすがる思いでビビアン王女に薬を譲って欲しいと願い出た。
殿下はビビアン王女が困った時は協力を惜しまないと約束をし、ビビアン王女はバスグル王をバレない様にグリード殿下に目薬を送り続け、薬のお陰で第一王子の視力は回復。ほぼ眼鏡無しで見える様になった。
第一王子の完治後暫くしてビビアン王女から文が届く。どうやら縁談が持ち上がり回避したいとの相談だった。グリード殿下は助ける手段がない。何故ならバスグルは閉鎖的で干渉する手段が全く無かった。唯一出来たのは助言。バスグルの次期王に選ばれれば伴侶は自分で選ぶ事が出来るだろう。何故ならバスグル王の決定は絶対だから。
それ以降ビビアン王女は次期王になるべく精力的に諸外国に渡り知識や技術を取り入れていった。
努力の甲斐があり国も少しずつ豊かになり、国内の貴族から支持を得て次期王に近付いて行った。
しかしベイグリー公国の建国祭に出てから、ビビアン王女の様子がおかしくなりだした。
丁度この頃からエルバスが側近に就いている。
ビビアン王女の側近がどんどん辞めていき、エルバスの配下の者が増え出し、次第に周りの話を聞かない様になっていった。
グリード殿下も文のやり取りで指摘し、助言したが聞き入れられる事は無かった。
グリード殿下には懸念があった。女神の乙女(多恵)が召喚されから、ビビアン王女の文が増え、大半が乙女(多恵)との繋ぎを求めるものだった。
この頃から手紙の内容に乖離が見られ、前の様にグリード殿下に慕う素直な時もあれば、引くほど乙女(多恵)の知識を望む傲慢な所が見て取れ殿下が困惑する。
そして事前連絡も無くアルディアに来た時、グリード殿下は胸騒ぎを覚え、身を呈してビビアン王女を止めようとしていたらしい。
グリード王弟殿下は席を立ち陛下に向かって跪き胸に手を当てて深々と頭を下げて
「アルディア王。この度、アルディアに多大な迷惑をお掛けして陳謝したします。私が個人的に動いた事でモーブル王は関与されていません。お咎めは私1人に課していただきたい。
そして多恵様。貴女に対する非礼をお詫びし、私とビビアン王女を救って頂いた事を感謝致します」
「グリード王弟殿下よ。謝罪はお受けした。直接関与していないとはいえ多恵殿の身を危険に晒した事は免れない。協議の上何らかの賠償は求む事になる。多恵殿は謝罪を受けられるか⁈」
「はい。お受けします。グリード殿下。明日お話するお時間をいただきたいです」
「いつでも貴女のために時間を作りましょう」
憑き物が取れた様に穏やかなグリード王弟殿下。本来はこんなふうに穏やかな人なんだろうなぁ…
まだ釈然としないけど騒動の発端が分かった。明日はビビアン王女とエルバスの取調べが始まり、解明が進むだろう。
気がつくと8刻になっていた。今晩は一旦解散になった。気付くと部屋端で誰が私を送るかで揉めている。疲れているのに止めて欲しい。
一番近くにいたヒューイ殿下に護衛騎士さんと戻ると伝えてこっそり執務室を出た。
深夜の廊下に私と騎士さんの足音が響き、数刻前の騒動が嘘の様だ…
背後から深夜らしからぬ音が迫ってくる。護衛の騎士さんが警戒をし振り返ると、アーサー殿下、グラント様、キース様が走ってくる。
「何故先に行くのだ!」
「何故送らせてくれない」
「何故声をかけてくれないのです」
皆さん深夜ですよ!『うるさう!』って言葉をのみこんだ。
「早く部屋に戻って寝たいんです。お3人とも仲良くお話されていたので、お邪魔しない様にしたまでです。騎士さんがいるので大丈夫!お休みなさい」
お辞儀をして部屋に戻ります。
「「「待って!」」」
3人は付いてきます。なんか大病院の医院長の回診みたいだ。何かドラマで見た事があるなぁ…なんて思いながら美丈夫を5人引き連れ深夜の廊下を歩く。
お読みいただきありがとうございます。
あと少しでアルディア編は終わります。頑張って書きます!よければブックマーク登録と評価よろしくお願いします。




