噛む
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部屋の微妙な空気にいたたまれない…
「フィラ泣き止んだから取りあえず離して!苦しいよ」
無言で腕の力を緩めそのまま私を抱きかかえてソファーに座った。フィラの膝の上から下りようとしたけど腰をがっちりホールドされて動けない。
グリード王弟殿下はその場で俯いたままだ。シリウスさんはフィラの方へ向き直り跪いたままだ。話しづらい!
「殿下もシリウスさんも話しづらいです。着席してください」
「ありがとうございます」シリウスさんはグリード王弟殿下を支えながら殿下と座った。グリード王弟殿下の顔色は悪い。
とりあえず。ケイティさんと騎士さんには退室してもらった。沈黙の後にシリウスさんが
「まずは多恵様にお詫びを。多恵様が仰る事は御尤もです。我がモーブル…否、我々が浅はかでした。一度口にした言葉が消せない。殿下には一度お下がりいただき後日再度謝罪の場を設けさせていただきたい」
憔悴した様子のグリード殿下は声をふり絞り
「妖精王。我がモーブルはリリスを敬愛しております。多恵様にも敬意を持ってより良き関係を気付きたいと思っております。
舞踏会後に我がモーブルが抱える問題をご相談する予定です。問題はビビアン王女とも関係しています。それは噂されているビビアン王女とのご成婚ではありません。モーブルとバスグルの2国間も問題なのです」
シリウスさんはグリード殿下を支えながら
「グリード殿下は一人で問題を抱え込んでおられる…」
いつも飄飄としている様に思っていたグリード殿下が悩んでいるなんてびっくりだ。一所懸命殿下を支えているシリウスさんに好感度が上がる。
視線を感じ見たらフィラが覗き込んで来る。
「多恵?俺に話すことがいっぱいあるんじゃないか?例えばキ…」
「待ってここじゃ嫌!」フィラの口元を手でふさいだ。絶対キース様との事言うつもりだ!止めて~
フィラの目が笑っている。フィラは妖精に近い時もあってたまに空気が読めない事がある。まさに今!
なんでここでキース様の話題を出そうとするかなぁ⁈少し睨んでやった!
睨まれたフィラは気不味そうに
「多恵。モーブルの連中はどうする?俺はお前に任せる」
「今日は私も勢いに任せて言い過ぎました。お詫びします。お互い冷静になり舞踏会が終わりましたらお話の場を持ちましょう。私達には冷静になる時間が必要なようです」
やっと顔を上げたグリード王弟殿下は再度跪き
「多恵様のご恩情に感謝いたします。私も冷静なります。不躾承知でお願い申し上げます。明日は1曲お相手いただきたい」
「勿論です。でも私下手ですよ。足を踏まれる覚悟でダンスを申し込んでくださいね!」
少しでも場を和ませたくてお道化てみせた。殿下は少し笑ってくれた。よかった!
この後殿下とシリウスさんは退室して行った。
ケイティさんを呼びお茶と茶菓子をお願いして用意してもらう。ティーセットを用意するケイティさんの横で手を止めて固まるマリカさん。マリカさんの視線の先はフィラだ。どうやら見惚れているよう。頬を赤らめガン見している。
後で聞いた話だが私が来るまでフィラは森からあまり出た事が無く、王族以外は殆ど見た事が無いらしくレアキャラだったようだ。マリカさんも今日初めて見たようで後日興奮気味で話してくれた。
「マリカ。貴女は下がりなさい」
『あ!ケイティさん怒ってる』
マリカさん今度は青ざめ深々と頭を下げて退室して行った。今晩は説教入るなぁ…
お茶の用意が終わるとケイティさんには席を外してもらった。
「フィラ⁈気付いているの?」
「キースか?」
「やっぱりわかる?」
「あいつは“義”重んじる奴だ。ずっと家族と領地の為に尽くしてきた奴で、妹も嫁ぐことが決まり港も安定してきてやっと自分の事に目を向けれるようになったんだろう。多恵の相手が増えるのは俺としても好ましく思わないが、まぁ悪い奴じゃないし義理堅く真面目だ。多恵を泣かす事はないだろう」
フィラから了承を貰えて安心する。
ほっとしていたらフィラの顔が近づき口付けをくれる。大きく温かい手が首筋に触れると何とも言えない気持ちになる。
口付けは頬や額にどんどん移り、大きな手で髪をなで上げられあらわにらなった耳に触れられて身震いすると、フィラは小さく笑い耳を甘噛みする。びっくりして身を離そうとするけど、がっちりホールドされて動けない。耳から首元に唇を這わされゾクゾクが止まらない。
フィラの体温がますます上がる。頭の中で警報音が鳴り響く!
「フィラ!明日の舞踏会ね!ビビアン王女対策でエスコートはフィラにお願いするけど、サポートにキース様が就くことになったの聞いている?」
「静かに…そんな話今はどうでもいい・・・」
「いや!明日の事で大切で!っぅわ!」
急にフィラに抱き上げられた。そのままフィラは寝室に歩き出す。
完全ピンチだ。フィラ暴走中。
ふとフィラの顔を見上げたらいつもと違う“男”の顔をしている。本当にヤバい…
扉の外からケイティさんが声をかけて来る。どうやら来客のお伺いの様だ。
「ちょっと待って下さい」
「フィラ下ろして!」
「ダメだ。無視すればいい!」
「怒るよ!」
「…」
「明日エスコートしてくれるんでしょ!」
「…」
フィラの首に抱き付いて自分からフィラに口付けして「お願い…」
初めてた見た。フィラの驚いた顔を
「すまなかった…」
そっと下ろしてくれて、ぎゅっと抱きしめて
「明日楽しみしている」と言い残し帰って行った。
フィラが帰った後腰が抜けてその場で座ってしまった。いつも優しからあんな男の顔を見せられてびっくりした。
いつまでも返事が無く心配したケイティさんとポールさんが声をかけながら入って来た。
床にへばり込んでいる私に驚き駆け寄って来た。結局ポールさんに起こしてもらいソファーまで運んでもらう事に…
色々経験済みのはずなのに乙女の様に如何していいのか分からなくなった。
ケイティさんは何も聞いてこない。ありがたい…今は話せる状態では無い。
来客はケイティさんが断ってくれた。来客はナタリー様だった。ケイティさんにお詫びの手紙を代筆してもらった。今日は心身共に疲れた…
本当なら湯浴み後マッサージをする予定だったけど、さっと湯浴みしてベッドに入りたい。
湯浴みの手伝いもマッサージを断った。でもケイティさんは何も言わずいつも通り淡々と世話してくれます。本当にありがとうございます。
文も来客を全て断ってもらい寝室で休む。
ベッドの上で寝転がりてん君を呼ぶ。
『たえ だいじょうぶ?』
『ありがとう。少し心が疲れた』
『フィラ わるい』
『え?』
『たえ いや した』
『えっと…そうだね』
『だから かんだ』
『え?噛んだ⁉︎』
どうやったか分からないけど、嫌がった私を感じたてん君はフィラが帰る時に腕に噛み付いたらしい。
てん君はドヤ顔です。
てん君を抱きしめ寝転がる。てん君の温もりと優しさを感じて深い眠りに落ちた。
もう明日なんて来なければいいのに…
フィラに迫られ焦った多恵。
オイタしたフィラはてん君に噛まれたそうです
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