マウンティング
少し暗い話が続きます。
重い空気のなか酸素が足りず深呼吸をし、ライカさんに質問してみる。
「事情、状況はわかりました。何故今急に話そうとおもったの?」
「牢の世話に来る下男や下女が今日の晩餐会の話をしているのを聞いたのです。その話の中でレオン様が多恵様に宝石を贈ったと聞いて疑惑が確信に変わったからです」
「疑惑と確信って?」
「事件の当日。荷物を持ち使用人の様の門から出ようとしていたその時、共犯のチャイラ人の男が手紙を持ってきたのです。
手紙には“乙女の誘拐成功。深夜に身柄を港にうつす。港の『ブスタ』という宿で待て。追って連絡する”と…
湊に向かう馬車に乗る為に辻馬車の停留場で馬車を待っていると、第3騎士団の騎士がきて同行を求められ城に戻ることになりました。
城ではサリナから預かった茶葉について聞かれ答えると、第3騎士団の一室に留まるように言われ一晩過ごしました。
翌朝実家から手紙が届いたんです。手紙には…
“ 乙女の誘拐・拉致は失敗。貴女に疑いがかかっています。安心してイライザ(叔母)が公爵家の権限で貴女を救ってくれるし、近々レオン皇太子がアルディアに入国されるわ。皇太子が側室に望む貴女を迎えに来るのよ。オブルライト家の侍女に協力したとだけ供述し、あとは黙秘で時間を稼ぎなさい。お父様に私も貴女を愛しているわ。貴女の為に昨日わが子爵家から除籍しイライザの公爵家の子女として籍を移したわ。もうあなたは公爵家の子女です。誇り高く皇太子のお迎えをお待ちなさい。お元気で…“ と書かれていました。
私はもう公爵家令嬢。それにレオン皇太子さまが私を迎えにいらっしゃる。困難を救いに来る王子様なのよ!そう思っていました。
翌日から連日騎士団と殿下の尋問が始まり辛かったわ。でも私には皇太子様がいらっしゃると思うと耐えれたの。毎晩身に着けた真珠のレックレスを握り皇太子さまの迎えを待ったわ。
しかし待てど暮らせど公爵家からも皇太子さまからの連絡も無く不安と疑問を抱くようなっていいたある日アーサー殿下が尋問室に現れ
「其方は何も語らぬ。これでは解決せぬ故、近々多恵殿に会ってもらう。多恵殿は其方の事を心配しておった」と仰ったわ。
正直驚いた私の協力により誘拐されたのに、その私を心配するの?なぜ?私には理解できなかった。
それから数日したある日。下男がレオン皇太子が来城したと話しているのを聞いたのです。
やっと迎えに来て下さっと安堵したのですが、全く連絡も無く焦りと不安だけが増していきました。
もしかして私は利用され切り捨てられたの?いや真珠のネックレスをくださったのよ大丈夫…
毎日葛藤の日々で神経も擦り減っていきました。そして昨晩の夕食を運んだ下女はレオン皇太子が多恵様に宝石をプレゼントしたと話していたのです。その瞬間私の中ので何かが壊れました。多恵様に贈られた宝石を知りたい!真珠であってほしくないと思うと気が付くと暴れていました。
最後は騎士に拘束され動けなくなったので多恵様と目通りを願ったのです。
そして最終判断をしたくて晩餐会直前にお願いしました。この時間なら身支度も終わり贈られた宝石をみに着けているだろうから…」
「多恵様!!」
気が付くと泣いていた。可哀そうすぎる。自分の欲に負けたライカさんも悪いけど、女子の恋心を利用した皇太子に腹が立ってきた。
化粧が崩れないよう横からサリナさんがハンカチで丁寧に涙を拭いてくれている。
ごめんなさい。サリナさ涙止まりません!化粧直しお願いします。
「結局サリナ…貴女には勝てなかったわ」
「私は一度も貴女と競った事はないわ」サリナさんが冷たく言い放つ。
「競わなくても周囲に比べられて来たわ。
同じ子爵家子女で同じく家の都合で侍女をしているし、年も同じなのだもの…
いつも比べられ無意識に貴女より幸せになる事に価値を持つ様になったわ。歯止めが効かなくなったのは、乙女の召喚の儀に同行する侍女を決め時だった。貴女は直ぐに多恵様の信頼を得て専属になるし、多恵様に仕える事で高貴なお方にも声をかけていただいてるし…もう嫁ぐ先しか貴女には勝てないと思うように…」
異世界でもマウンティングするんだ。”しょーもな!”自分が幸せと感じるならいいじやん。
牢の入口から第2の騎士さんが来て、晩餐会の時間が近付いていると知らせに来た。グラント様に戻る様に促される。
鉄格子に近づき
「ライカさん!自害とか止めてね!アーサー殿下にお願いして時間作るから、話ししようね。ライカさんを必要とする場所はきっとあるから!」
「多恵様。お戻りを…」
牢番さんにライカさんに優しくしてあげてとお願いして地下牢を後にした。
お読みいただきありがとうございます。
次は晩餐会が始まります。レオン皇太子相手に無事に終えることはできるか⁈




