誘惑
晩餐会当日無事終わりますか?
左手をまたてん君が叩いて戻りを伝えてきます。
昨晩もてん君が添い寝してくれたのでぐっすり眠れました。もう安眠にてん君は欠かせません。
いつも通りの朝、朝食もアーサー殿下を共にし昼までマスクを縫ったり本を読んで過ごします。
4刻半になって晩餐会の準備が始まり湯浴みをします。普段一人で入りますが今日だけはサリナさんが手伝ってくれマッサージをしてくれました。確かに一人で入った時より肌艶が良くなっています。流石サリナさん!
バスローブを羽織ってドレッサーの前に座り化粧が施されます。晩餐会なのでいつもより濃いめのメイク。すごくきれいにしてもらいましたが、特殊メイクだ!別人です。私って分かってもらえるだろうか…
髪は王妃様専属の髪結いさんが来てセットしてくれます。まずは編み込みを髪結さんに伝授します。流石職人さんで一発で覚え私の髪を編み上げていき、アレンジまでしてくれ美しく仕上げてくれました。
ドレスに着替えてちょっと着けたくなくけど、レオン皇太子に贈られた真珠のイヤリングとネックスレスを身に付けます。
姿見で確認したらそこに“多恵”はいません。
職人技の凄さを知る。
支度が終わりソファーで寛いでいると、第2騎士団のクレイブ副団長がいらっしゃった。
クレイブ様は困り顔です。ケニー様の件だろうか…不安になると
「多恵様。晩餐会前に大変申し訳ございませんが、緊急でライカ嬢にお会い頂きたのです」
「アーサー殿下からライカさんと面会して欲しいとは言われていましたが、今なんですか?」
「ライカ嬢が牢で暴れて手が付けれず、多恵様との面会を求めており面会出来ればすべて話すと…」
「明日じゃダメなの?」
「今で無いと一生話さないと言って自傷行為を繰り返し、今拘束具で抑えている状態です」
何か緊急だな…なんで今このタイミング何だろう⁈意味があるのかぁ…
「殿下に了承は得ていますか?」
「アーサー殿下、ヒューイ殿下に了承を頂き、今他の者がトーイ殿下に伺いに行っています」
「分かりました。殿下は了承しているのでしたが、断る理由がありません。伺います」
クレイブ様はエスコートする為に手を差し伸べられたので手を重ねた。視線を感じクレイブ様を見上げてたら
「いつもは愛らしいのに今日は本当にお綺麗で言葉がありません。既婚なければと思ってしまいました」
ははは・・・褒め褒めの社交辞令ありがとございます。今日は特殊メイクだからね…
「ご冗談を…侍女さんの腕が良すぎてもはや別人なんですよ」
「着飾ったお姿も普段の多恵様もお綺麗です。殿下や閣下が羨ましです」
「お世辞はその辺で…ライカさんの所までどの位ですか?」
「私は真実しか言っていませんが…」
「はぃ?」
「いえ、地下の牢獄ですので階段を下ります。古い牢故、足元が悪いのでお嫌でなければお抱きいたしますが…」
「えっと…ゆっくりですが自分でおります。ありがとございます」
そんな地下牢にライカさんいるんだ…何か心が痛い
地下に続く階段を慎重に降りる。慣れないヒールだからいつも以上に遅い。クレイブ様は手を取りペースを合わせてくれる。きっと抱えて降りた方が早いとか思っているんだろうなぁ・・・すみません。
やっと地下に降りた。地上から3階ほど降りたんじゃない?!運動不足の私の足はプルプルしている。
目の前に長い廊下が見えて気が遠くなりそうだ。
前を第2の騎士さんが進み横にはクレイブ様。後ろにサリナさんと騎士のローラさんが控えてくれる。
廊下の突き当りに鉄の大きな扉が見えて来た。見た目魔界の入口の様な異様な雰囲気の扉で身震いする。中に入ると長い廊下がまた続き奥に鉄格子が見えて来た。
「っな!」牢の中に椅子に縛り付けられ目隠しに口元は猿轡を付けられたライカさんが居た。思わず駆け寄り
「やめて!女性に何てことしているんですか!!早く取ってあげて!」思わず叫ぶ
「多恵様!落ち着いて下さい。彼女の身を守るために措置です」
ローラさんに後ろから抱きかかえられた。
「多恵様?来て下さったんですね。傍に来て下さい。私は騙されたのです!すべてお話しますから」
「早く開けて下さい。中に入ります」
しかしクレイブ様に制止され鉄格子越しでの対面になった。せめて目隠しと猿轡を取ってと願った。
「ライカさん大丈夫?痛い所とか気分悪くなっていない?」
「相変わらずお優しいですね。私は貴女に睡眠薬をもったのに…」
「…話があるんですよね⁈お聞きします」
ライカさんは憎しみを込めた視線を私の胸元に向けてくる。その視線の意味が分からなくて困惑していると
「その真珠はレオン皇太子からの贈り物ですね。一刻も早く外した方がいいですよ」
「なぜ?皇太子歓迎の晩餐会だから頂いたものは付けないと失礼になるのんじゃないの?」
「レオン皇太子の瞳の色は水色だから大丈夫だと判断したのねサリナさん」
なぜかサリナさん話をふる。
「色々確認しましたが問題ないと殿下達も了承しているわ。どこに問題があると言うの?」
「流石のサリナさんも他国の事までの知識は無いようね。ベイグリー公国の王妃の部屋は『真珠の間』と言われ、初代王妃が真珠を愛したことから代々皇太子の妃になる女性に真珠が贈られるのよ」
「へっ?それって・・・」
「多恵様を妃に迎えると公表したことになるわ」
“うわぁぁぁぁぁぁぁ!むしり取りたい!!”思わずネックレスを掴み引っ張った!けど取れない。
「多恵さんやめてください。怪我をしてしまいます!」
サリナさんにとめたられた。後ろからサリナさんが丁寧にネックレスとイヤリングを取ってくれてハンカチに包んだ。少し首が痛い…無茶した
「そこの女性騎士の方でいいから私の胸元を確認してもらえないかしら⁈」
クレイブ様は少し考えライカさんが侍女で戦闘能力が無い事と、拘束されている事を考慮してOKを出した。牢番がカギを開けて緊張したローラさんが中に入り、「失礼」とライカさんの胸元を確認する。
ローラさんは驚愕と動揺した表情で
「真珠のネックレスをしています」
ライカさんは不敵に笑い。
「そう!私もレオン皇太子に貰ったのよ。いづれ側室にとね」
サリナさんクレイブ様の表情が怖い!
私は「そうなんだ」くらいしか思わなかったけど
「私はあのお方にいい様に使われ切り捨てられた。愚かでしょう私…欲をかいたばかりに最悪の結末だわ…」
声を殺して泣くライカさん。この人が協力して私は誘拐された。でもなぜか彼女を恨む気持ちは起きなかった。牢に入って抱きしめてあげたいけど、怒りに満ちたクレイブ様はきっと許してくれない。
ライカさんが落ち着くのを待ち待った
ライカさんは子爵令嬢でお家の経済状況から格上の子息との縁組を両親から望まれ、高貴な方の目に留まりやすい様に王室の侍女になったそうだ。
宰相補佐をする公爵家グラント様を城内で見かけるようになり慕うが接点も無く日々眺めるだけ。
そんな時に乙女が召喚されお付きの侍女に選ばれた。
乙女に仕えお慕いしていたグラント様と接する機会が増えたが全く見てもらえず絶望する。
そんな時に家から連絡入り叔母がベイグリー公国の公爵様の後妻になったと聞き、親からの勧めもあり侍女をやめて公爵家の養女になることを決めた。
しかし養女になるには条件があった。
イリアの箱庭の為に乙女を妖精王の花嫁にするために拉致の手伝いをする事。
公爵令嬢の肩書が有れば優秀で容姿淡麗な方に嫁ぎ将来は約束される。悩んだ末乙女に手荒な事をしないのを条件にライカさんは協力する事にした。
まだグラント様を慕っていたし良心も残っていた時に、ベイグリーから皇太子の絵姿と真珠のネックレスが送られてきた。それも皇太子の直筆の熱烈な恋文とともに…正室は叶わないが側室に望むと書かれ代々妃に真珠を贈る習慣も記されていた。
これが決定打になり犯罪に手を染めたのだ。
サマンサさんに協力するふりをし実行犯のチャイラ人と示し合わせて誘拐・拉致を実行した。
誘拐後はチャイラ人に任せライカさんは荷物をまとめ乙女を運ぶ船に乗船し、チャイラ島経由でベイグリー公国に向かう予定だった。
しかし拉致は失敗に終わり思いのほか早くに乙女が発見された事で逃げれなかったようだ。
うぁ…あの事件思っていたより複雑だった。
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