2.千種みかん、登場
仕事をしながら書いているので不定期です。申し訳ありません。
<帰り道>
「じゃあまた明日なー」
「明日ねー」
「おう。じゃあな」
二人と別れた後、俺は再び自宅に向かって歩き始める。学校から出る時はまだ空が橙色でまだ明るかったが、もう周りは薄暗くなり始めている。
「ん?」
いつも登下校で通る河川敷に朝の登校の時にはなかった何か大きい物体が置いてあるのを見つけた。
何だあれ…………。気になったので近づいて見に行く。
「いいっ!?」
近づいて見てみると河川敷にあった謎の大きな物の正体はうつ伏せになっている小学生くらいの少女だった。
「お、おいっ! 大丈夫かっ!?」
「………………」
倒れている少女を仰向けにして肩を揺する。すーすーと小さいが呼吸をしているのが聞こえた。ひとまず生きていることを確認できたホッとする。
「……ぅぅ……………ぅぁ」
揺すり続けていると少女が目を覚ました。
「よ、よかった。大丈夫か? 名前とか言えるか?」
「…………は…………はん」
「はん?」
耳を近づけないと聞こえないくらいの小さな声で少女が言葉を発する。しっかりと聞き取ってあげないといけないから耳を近づける。
「“はん”何だ?」
「はん………ばー………ぐ………う」
「……………………えっハンバーグ?」
「た、たべ……たい…………がくっ」
少女は力尽きたのか眠りについてしまった。
「…………えーと」
おいおい。どうすればいいんだよこの状況は……。とりあえずこの子にハンバーグを食べさせればいいのか?
まだこの状況を理解できていないが、このまま放っておくこともできないので眠っている少女をおんぶして近くのファミレスに向かうことにした。
◆
<ファミレス>
「あむあむっもぐもぐ」
俺は今、名前もわからない河川敷で倒れていた少女をファミレスに連れていき、ハンバーグを奢っている。少女が食べているのは4皿目のハンバーグだ。1皿目と何も変わらないスピードで食べ進んでいる。
「…………んぐっ。ふぅ…………ご馳走でした」
手を合わせてペコリと頭を下げる少女。
「本当にさっきまで倒れてたのかよ」
ハンバーグを4皿+ライス大盛り4皿を食べてようやく満足したのか、少女は口を布巾で拭くと食後のコーラを飲み始めた。
「ありがとうございます。あなたは命の恩人です」
「いや、別に無事ならいいけど」
外で見たときは少し暗くてよくわからなかったが、明るいところでよく見てみると顔が整った可愛いらしい少女だ。肩まである髪の毛もよく似合っている。クラスにいたらモテることだろう。
「えーと…………名前は?」
少女がコーラを飲み込み、落ち着いたタイミングで名前を尋ねた。
「私は千種みかん。恩人は?」
「俺は高蔵寺伊織だ」
「ふーん」
「ふーんって…………」
「普通の名前だなって思ったよ」
「何だよそれ。それでえーと」
「みかんでいいよ」
「わかった。みかんちゃんは何で倒れての?」
「お腹が減ってて気づいたら寝てた」
「そうなのか」
お腹が空いて倒れる人が本当にいるんだな。
「………………」
「………………」
「………………」
「えっそれだけ?」
「うん」
そう言うとみかんは再びコーラを飲み始め、沈黙の時間が起きる。
数多くの修羅場を経験してきた俺の直感が伝えている。この少女はあまり関わらない方がいい子だ、早くこの場から立ち去った方が良いと。
「…………よしっ。じゃあ食べ終わったしそろそろここを出ーー」
「待って!」
立ち上がろうとするとみかんが力強く声を発した。
「な、なんだよ?」
「急だけど、高蔵寺に聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
人探しとか店探しか?
「『鮮血のジャックナイフ』と言われている人物を知っていたら教えてほしい」
「知らないな。まったく知らない。聞いたこともない」
俺の直感は正しかった。やっぱりこの子は関わらない方がいい子だった。
どうしてこの子が俺の黒歴史である『鮮血のジャックナイフ』を知ってるんだ!?
…………もしかしたら一度どこかで会ったことがあるのか。みかんの顔を今一度しっかり見てみる。
いや、こんな女の子に会った記憶はない。
「顔はこんな感じ」
みかんが鞄から写真を取り出し俺に見せてくれる。
その写真には向日葵のような笑顔でカメラの方を向き、不良を殴っている俺が写っていた。
何だよこの写真。ていうか何でこんな写真をこの子が持ってるんだよ。
「実は私この人を探して…………………………ん?」
みかんが何かに気づいたのか俺の顔を凝視し始める。
「お金ここに置いとくな。それじゃ」
気づかれる前に出ていかないといけない。机にお金を置き、席を立ち上がる。
「ストップ」
「おおっ!?」
出口に向かおうとみかんの横を通った時、みかんに素早く手首を捕まれた。手首を捕まえている握力は可愛らしい少女の見た目とは違い、とても力強い。
年下でしかも女の子の力だと思っていたが、ものすごい力強さだな。その細腕のどこにそんな力があるんだよ。
「高蔵寺。一回座って?」
「…………嫌だと言ったら?」
みかんの握力には驚いたが、それはあくまでも少女として力が強いからだ。
ここは人生の先輩として少しレベルの違いを教えといてやるか…………。
「えいっ」
「痛たたたたたたたぁぁぁっっっっ!!」
軽い掛け声とともに俺の手首の骨を粉砕するくらいの強さで握るみかん。
なんだこの力強さっ!? に、人間の力じゃねえ。こんな握力、ゴリラにしかできない芸当だろ。な、何者なんだよこいつ…………!?
「あともう少し力を込めたら、手首がなくなる」
て、手首がなくなるって何? ど、どういうこと?
「もう一度言うね。高蔵寺、一回座って?」
「す、すいません。座らせてくださいっ!」
…………ほ、本当に手首がなくなるかと思った。
みかんに握られた手首を擦りながら元々座っていた席に再び座る。
「一度、高蔵寺の顔面をしっかりと見せてほしい」
「どうぞ」
みかんに見られている間、精一杯の変顔をする。しゃくれてみたり、細目になってみたり、鼻の穴を大きくしてみたり…………自分の思いつく変顔をすべて試す。
「じぃーーーーーーーーーーーー」
神様お願いします。みかんに気づかせないでください…………。
「…………見つけた」
この世界には神なんていないんだな…………。
「本当に俺か? 人違いだと思うぞ」
「いや間違いない。この目付きの悪さは見間違えるわけがないよ」
変顔でもこの生まれつきからの目付きの悪さはどうにもならないんだな。
「そっか。ジャックナイフの本当の名前は高蔵寺って言うんだね」
「知らなかったのかよ?」
「うん。でも高蔵寺は何で『鮮血のジャックナイフ』じゃないって嘘を吐いたの?」
「それは…………は、恥ずかしいからだよ」
「…………まあ。確かにそうかも」
本当に確かになんだが、肯定されるのはそれはそれでムカつくな。
「それで、俺に何のようだよ。悪いが喧嘩とかそういうの、もうやらないって決めたから」
「違う。そんなんじゃない」
喧嘩関係以外で俺に会いたい理由なんてあるのか? しかも年下の少女が……。
「阿久比志紀波について」
「ぶっっっっーーーーーーーーー!!」
「お、お客様っ!?」
「…………すいません。おしぼりを一ついただけますか?」
「か、かしこまりました」
みかんの予想外の答えに思わず口に含んでいた水を吹き出してしまう。この子、阿久比さんのことも知ってるのかよ。
「それであ、阿久比さんがな、何だって?」
落ちかせようともう一度水を飲もうとするが、動揺して手が震えてコップも上手く持てない。
「私は高蔵寺と阿久比を付き合わせるために未来から来た」
「………………………へ?」
みかんのすっとんきょうな回答に今の今まで動揺で震えていた手が止まった。
『クールでカッコいい美人なあの娘を惚れさせたいっ!~恋愛チキンの俺は好きな人を惚れさせるために、未来からきた超能力少女の力を借りる~』読んでいただき本当にありがとうございます。
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