黒歴史
──コツン、コツン
と響く靴の音
壁等の障壁に当たり大きく反響をするわけでなくその場で響く。
響くという表現は可笑しいか。
何故ならば其処は真っ暗な暗闇が広がっている場所だから。
靴が音を奏で、真っ暗な暗闇の中を歩いていると、忽然と一筋の光が少し先でさし込んでいる。
光が射す場所まで歩くと見えてくる。
スポットライトのような光が射す一脚の椅子の姿が。
少し古ぼけた、革張りの椅子が佇むように存在をしている。
「おや、迷い人ですか?」
椅子の前で佇む珍しい“客人”に声をかけた。
ここを訪れる客人はとても珍しい。
好奇心、信仰心、等という概念を持っていてもなかなか辿り着くことの出来ない場所だから。
真っ暗な暗闇が広がるこの場所に光を見つけられるのも至難の業なのだ。
だからこそ客人がいることは珍しい。
佇む客人を避け、座り慣れた椅子へと歩み腰を下ろす。
それから佇む客人を真っ直ぐと見据え様子を窺い見ては小さく息を吐き口を開く。
「迷い人、何をお求めかな?」
言葉を発さない客人に尋ねてみる。
尋ねたところで此処に“迷い人”として訪れる者は決まった存在だから単刀直入と言わんばかしに聞く。
何故そうなのかというと、好奇心、信仰心だけでは辿り着けないこの場所に辿り着いた時点で答えは明白だからである。
客人はこちら側の問いへの答えを言い淀んでいるのか、少しばかりの躊躇いの表情を浮かべる。
(そんなにも言い難いモノなのか。)
長年此処に居ると十人十色な迷い人を見ているので今更感があってこの反応は新鮮感が欠けている。
──寧ろ無い。
客人が言い淀んでいる中、暇を持て余しているので左手の指を鳴らした。
すると淡い銀色の光を放ちながら一冊の本が姿を顕し手元へと降りてきた。
本の表紙は真っ黒でタイトルは読めない。
読めないと言うよりも、寧ろ書かれていない。
このタイトルの無い本を客人へと差し出した。
「コレ、今の君が欲しているものですよね?」
本を差し出したことによって客人は先程より浮かべていた躊躇いの表情のままに、少しばかり手と唇を震わせ、息をのみ、この本を受け取るべきなのか思案をしてるように見えた。
(この迷い人は少なからずこの本の存在の意味を理解している。)
客人のその様子を見ていると自然と目を細め、唇に笑みを描いてしまう。
長年こういった迷い人達を見て相手をしていると、偶に現れるこの【本】を理解している存在に出会うと嬉々としてしまう。
そして、意を決めたのか、本を手に取る客人のその姿に、心なしかほくそ笑んでしまう。
「迷い人、君はその本の主としてコレから書き綴っていってね」
微かな笑みを浮かべ、それだけ伝えると、迷い人として訪れた客人は本を片手に、この暗い場所から姿を消した。
あの迷い人は二度とこの場所を訪れることはない。
何故ならば、あの本を手にして消えたのだから。
あの本は一生涯付いてまわるものだから。
人間の言葉で
──後悔先に立たず。
と言うモノが存在をするのだから。
さて、どの様なモノを綴ってくれるのか。
心の中がとてもわくわくとした気持ちがわき上がってくる。
正に高揚
正に期待
此処に新たな本が増えるのだから。
迷い人は現実に戻れば此処での出来事を忘れる。
何故ならば、忘れるほどに熱中をしてしまう病が発病するからだ。
その病が発病することで、先程の本のページが増えていく。
その病の名は……
【厨二病】
厨二病を患った者は必ず本に内容が全て書き記されていく。
そしてその書き記された本は此処で保管される。
──永遠に。
色褪せることなく、此処に保管される【書物】として存在し続ける。
例え先程の迷い人が消し去りたいと思い願っても、消却はされない。
此処にある本達はそう言った本達なのだから。
右手の指を鳴らすと、一瞬にして辺りが明るくなり、縦横と大きく長い本棚が空間に広がる。
椅子に深く腰を掛け直し、脚を組み、笑みを浮かべて、真っ直ぐと前を見て……
「ようこそ、黒歴史図書館へ。どの様な黒歴史も読み放題ですよ」
左手の指を鳴らし、本棚から一冊の本が出てくる。
それが手元へとくれば、パラパラとページを捲り始める……。
思い付きで書いたモノ
ぐだぐだな内容は本当にすみません。