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景観の楽園  作者: 野毛井 九九菜
第1章 行方不明の少女
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9 : 待人 来る 粘り強く待て

「他の神社に行っている可能性は?」


「ないだろ。確かにこの町、真珠(まだま)には他の神社もあるけれど、あのゴミ捨て場から一番近い神社はここだ。わざわざ遠くの神社まで行くとは思えない」


 一番近いっていうか、ゴミ捨て場からこの神社見えるし。


「じゃあ、そもそもその女の子が、神社まで来られない状況にある可能性は?」


「それも・・・ないだろ、たぶん。っていうか、神社まで来られない状況って何だよ」


「案外、あのままずっとゴミ捨て場で寝てるとか」


「いや、ありそうだけど」


 もしそんなことがあったら、ゴミ収集車の人が普通気付くだろ。

 まさか、一緒に捨てられるなんて・・・ないはずだ。ないと信じたい。ゴミ収集車の人の人間性を信じたい。


「一応人間も、燃えるゴミだからねぇ・・・」


「怖いこと言ってんじゃねぇよ」


 ゴミとか言って人を燃やすなんて、大事件じゃねぇか。


「実はその女の子、すごいあまのじゃくでした!」


「神社じゃなくて、寺に行ったって言うのか?」


「わざわざ神社に行かず、その辺の祠に願ったとか」


「女の子から見たお前の重要性は、所詮そんなものか」


「コオロギはコオロギでも、虫のほうの蟋蟀(こおろぎ)だった!」


「今、7月なんだけど・・・」


「もしかして幻覚だったんじゃないの?」


「なかったことにしようとするな!」


 堂々巡り。

 一向に話は進展しないものと思われた。

 しかし、ここで興梠(こおろぎ)が1つの突破口を見出す。


「でも、もうここまで来ちゃうと、残る可能性は1つぐらいしかないんだよねー」


 ・・・ん? 残る可能性?


「えっ!? あるのか? ほかの可能性が。これ以上の可能性が」


「うん。まぁ、なくはない。というのもこの可能性は、君の行動によって信憑性(しんぴょうせい)が変わってくるものだからだ」


「信憑性? それでも、可能性が増えることはいいことだろ。言ってみろよ」


 少なくとも、さっきまでの意味不明な可能性よりはマシなはずだ。


「じゃあ言うぞ。その可能性とは・・・」


「その可能性とは?」


「その女の子が、お前の忠告を無視している可能性だ」


「・・・え?」


 無視・・・? そんな馬鹿な。俺の忠告が無視されたって言うのか。


「いいや。さすがに忠告を無視するとは、私も思えないよ。だから言い方を変えることにする。その可能性とは、その女の子がそもそも、忠告に気付いていない可能性だ」


「・・・!」


「だから言っただろ? この可能性は、お前がどれくらい遠回しに、神社へ行くよう伝えたかで、信憑性が変わってくるんだ」


 いや、ちょっと待て。その女の子が、俺の忠告に気付いていない可能性だと?


 ・・・ああ、でもあるのか。そういう可能性も。

 説明不足かといわれると、そんな気もしてきた。っていうか、不安しかない。


「で? お前はどんなふうに忠告をしたんだ?」


「・・・・・・興梠が見つかるように、神社でお祈りでもしてみたらどうだ?・・・って言ったよ」


「・・・」


「・・・」


「・・・分かるわけないだろ。このアホ」


「だよな・・・」


 信憑性が一瞬にして高まった。

 神社でお祈りでもしてみたらどうだ? って・・・、何言ってんだよ俺。相手はどう見ても小学生だぞ。そしてなぜ、そんな遠回り過ぎる忠告で、女の子が来ると思った。


「はあぁー。なんだなんだ。来るわけないじゃねぇか、その女の子。部活休んでまで来るんじゃなかったよ。悪いけど興梠、俺はもう帰らせてもらうぜ」


 そうやって、俺が帰ろうとしたその時――


「まあまあ、ちょっと待ちなって石黒。落ち着こうよ」


 興梠に呼び止められた。


「落ち着けって言ったって、俺の気分は今最悪なんだが」


「それはお前が悪いよ。自分でも、伝えたというより察してくれみたいな感じだった、って言ってたじゃないか」


「・・・」


 言ったっけ? そんなことまで。


「あれ? お前言ってなかったっけ? まぁ、それはともかくとしてだ。ともともかくかくとしてだ」


「そんな、かくかくしかじかみたいに言われても・・・」


「ほら、よく思い出せ石黒。お前は何のためにここへ来たんだ?」


「何のため?」


 その話はもうしなかったか? あれだろ、女の子の話だろ?


「違う違う。今日に限った話じゃなくて、いつもの話。お前は何のために、毎日ここへ来るんだ?」


 俺が神社に行く理由・・・。1つ、思い当たるものがあった。


「えっと・・・もしかしてなんだけど」


「?」


「あっ、いや・・・もしかしての話だから、別に聞かなくてもいいんだけど・・・。お前、俺に“雑談”って言ってほしいの?」


 俺は雑談をするために、毎日神社へ通っていると・・・。


「えっ!? 石黒君は、お姉さんと雑談がしたいのかなぁ?」


「ふざけんじゃねぇよ!」


 今からこいつと雑談をしろってのか! 

 ただでさえ気分の乗らない雑談なのに、今このコンディションで始めちゃったら死んじまうわ!


「いや、よく考えろ石黒。このまま諦めて帰るよりは、雑談をして女の子を待つ方が合理的だとは思わないか?」


 思わなかった。


「っていうか、待つ? 女の子を?」


 女の子は、もう来ないんじゃなかったか?


「確かにお前のせいで、その女の子が来る可能性はほとんどなくなったが、だからと言って、絶対に来ないとは限らない」


「そんな小さすぎる希望に()けようと、お前は言うのか?」


「小さすぎる希望? 笑わせるなよ」


「?」


「自分で言ってたじゃないか。ゴミ捨て場から、この神社は見えるんだろ?」


「・・・!」


 そうだ。どうして気付かなかったんだろう。

 例えその女の子が、俺の忠告を理解できなかったとしても、ゴミ捨て場のすぐ近くにあるこの神社を、まだ訪れていないなんて、おかしな話じゃないか。

 女の子が、これから来る可能性は、大いに残されていたのだ。

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