7 : 伝達 『女の子』
「お前、いっつも辞書を読んでるじゃねぇか! それでストレス発散できないのかよ!」
「せっかく辞書を読んでいても、手に入れた知識は披露しないと意味がないだろ」
「それホントに趣味って言えるのか!?」
補足 〔趣味:人間が好きで行っている事柄のこと〕
たぶん興梠の辞書を読みまくるという行為は、知識を披露するところまで含んで1つの趣味なんだろう。
どんな趣味だよって話だが。
もういっそ、罰が当たって雷に当たってしまえ。
「あ、その時は大丈夫。避雷針が飛来してくるから」
「避雷針が飛来してくるの? 雷じゃなくて?」
「うん。平井さんが投げてくれる」
「一気に話のレベルが下がったな・・・」
「そもそも避雷針は、雷の飛来と避雷をかけたような面白いものじゃないんだけどね」
そうなのか・・・。ずっと飛来針だと思ってた自分が恥ずかしい。
「まぁ、だからだな。私は24時間に1回、誰かと雑談をしないと、よくわからないことをやってしまう癖があるんだ」
「何の話だっけ?」
「お前が遅れたせいで私が困ってるっていう話」
ああ、あったなそんな話。聞きたくなかったから忘れてた。
「え~っと・・・。で、癖ってのは具体的にどんなものなんだ?」
興梠の話から察するに、不安しかない。
「1分に1回、こんな風に神社の鐘を鳴らす」
「・・・・・・え?」
興梠がすごい勢いで鐘を鳴らし始めた。
ガランガラーン、ガラゴロゴロガラガッシャーン、ガチャガチャがチャガラゴロカラー
「くっそ迷惑じゃねえかっ!」
なんてこった。俺が神社に来るのが遅くなったことで、近所の人にまで多大なる迷惑がかかっていたとは・・・。
この後俺は、ご近所の家に1軒1軒謝りに行く必要があるようだぞ。俺のせいかどうかは別として。
「ちなみに、別の日にはお賽銭をあさったりしてる」
「お前そろそろ死ぬんじゃないの?」
「全然お賽銭は入ってなかった。ふざけんなって話さ。昔は結構有名な神社だったのに」
「罰当たりなお前に言われたくはない」
でもまあ確かに、誰も来ないよな、この神社・・・。だからこそ興梠は、この神社を寝床に選んだんだろうが。
「さて、自分の犯した罪に気付いてもらえたかな?」
「分かった分かった。俺が悪かったって」
・・・ん? なんか違うな。
別に俺は興梠の説教を受けるためにここへ来たわけじゃ・・・
「あっ、そうそう」
「?」
「今朝の話なんだけど、お前を探していた女の子がいたぜ」
そうそうではない。早々に言わなければならないことだ。
俺がここに来た本題じゃないか。何忘れてんだか。
「遠まわしに神社へ行くよう伝えたんだけど・・・」
「・・・」
何もなし、か。また、いつものように笑って流されるか?
「女・・・の子? 大人じゃなくて?」
「・・・? う、うん。小5か小6くらいの子」
珍しく、興梠が反応した。
っていうかなんで驚いてんだ? 確かに興梠を探している人がいるのは、驚くべきことだけれども、そのことに驚いているわけではないらしい。
大人・・・? 大人だったら心当たりでもあるのだろうか。
「ん? だったら知らないな。その子、何て名前なの?」
「えっ、名前?」
「うん、名前」
「名前、か・・・」
名前を聞くことなんて、すっかり忘れていた。
興梠なら、自分を探す珍しい人の名前くらい、知っているのではと思っていたのだが・・・、そううまくはいかないらしい。興梠すら知らないとなると、もうお手上げである。
興梠すら知らない。
知らない。
知らない・・・・・・ん?
「えっ!!?」
「?」
「待って待って待って待って!!」
俺は、ものすごいスピードで興梠の真ん前までぶっ飛んだ。
例えるならば、ガゼルの様な走りである。チーターには及ばずとも、ガゼルって案外速いんだとか。詳しくは知らんが。
まあ、なんだかんだで俺はぶっ飛んだのだ。
「待って待って待って待って!!」
「うひゃぁ!」
驚いた興梠が、なんか可愛かった。
よく見ると頬が少し赤い。
もうちょっと顔を近づけるとキス出来そうだな。
「お前、急に飛び込んできて、変態か!」
「えっ、編隊?」
俺のぶっ飛び方って、そんなにかっこよかったの?
「違う! 変態か、と言ったんだ!」
「へ、変態化!?」
変態化。もしくは変態家。
どっちにしろ、ひどい罵倒であることには変わりなかった。
「で、どうしたんだ石黒。急にぶっ飛んできて」
「あ・・・」
そうだ。何をやってるんだ俺は。こんな茶番をやっている場合じゃないだろ。もっと他に、話さなきゃいけないことがあるだろ。
「なあ興梠」
「なんだ?」
「ガゼルの速度ってどれくらい?」
「・・・・・・・・・・・・は?」
「あ・・・」
焦って変なことを聞いてしまった。
「take2といこうかな?」
「お願いします・・・」