表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
景観の楽園  作者: 野毛井 九九菜
第1章 行方不明の少女
5/29

5 : 行方不明の隣人

7月18日(金)放課後 学校にて


「はぁ!? 部活を休む?」


「・・・」


 終業式を終え、活気であふれている放課後の教室に、俺は半野を呼び出していた。

 用件は、見ての通りである。


 今朝、ゴミ捨て場の少女に興梠(こおろぎ)の居場所を伝えた(伝えたというより察してくれ、みたいな感じだ)僕だったが、あんな子供(いや、俺も子供だけど)では興梠なんかと話が通じるわけがない。

 一応俺も神社に行き、経験者として話を引っ張ろうと思ったのだ。


「敬語を使え、半野。そして、学校でそんな大きな声を出すな」


「私の破壊衝動を目覚めさせたのは先輩でしょうに」


「は、破壊衝動!?」


 ウソだろ。こいつ、俺が部活を休んだだけで、破壊衝動が目覚めるの?


「さて、ここら辺の机でも破壊しときましょうか」


「いやいやいやいや。お前な、この教室は別にお前のじゃないんだよ」


「ふんっ。でも後1年経てば、ここも私の居室になりまくる()から」


「居室にはならねえよ。教室な」


『う』が抜けていやがる。

 そもそも半野が2年生になった時、この教室を使っているかが怪しい。 


「あっ! ほらほら。この机って、先輩のものですよね?」


「・・・」


 まずいな。運の悪いことに、俺の机が見つかってしまった。何とか全壊だけは防がねば。


「違う。この机は俺のじゃない」


「でも机の中に、『石黒』って書いた教科書が入っていらしゅ(ます)よ?」


「その教科書は今日、この机のヤツに取られたんだよ」


「全教科の教科書、この机の中に揃っちゃってますけど」


「・・・俺は今日、この机のヤツに全ての教科書を取られたんだよ」


 全ての教科書を取られる俺って一体・・・。


「いや、じゃあ今日はどうやって授業を受けたんで・・・ん?」


 俺の必死な抵抗もむなしく、机の破壊に取り掛かっていた半野だったが、急にその手が止まった。

 別に俺の机に何かあったわけではない。半野の目はもう、俺の机なんて見ていなかったのだ。


「どうした? 半野」


「いや・・・先輩の隣の席って、綾星(あやほし)先輩なんですねーって」


「・・・」


 綾星。久しぶりに聞いた名前だった。


「ん、綾星? 綾星がどうかしたのか? 悪いけど、こいつに用事があるんだったら諦めろ。こいつ、今週に入ってから全然学校に来てないから」


「そこでしょうよ。じゃなくて、そこでそよ。でもなくて・・・」


 相変わらず敬語下手だな・・・。


「そこですよ」


「?」


 そこ? いや、どこだよ。


「今週に入ってから、全然学校に来てないっていうところですよ。先輩知らないんですか?」


「てっきり何か病気にかかったもんだと思ってたんだけど・・・何かあったのか?」


「綾星先輩、行方が分からないらしいんですよ」


 行方不明


「えっ? 本当なのかそれ。先生はそんなこと言ってなかったけど」


 いや、病気とも言ってなかったが・・・。


「家出でちょうか(しょうか)。それとも誘拐でちょうか(しょうか)?」


「でも噂なんだろ。確かな情報じゃないんだろ」


「ええ・・・まぁ、自分で見たわけじゃ・・・ないです」


 なら、その情報の正当性は低い・・・か。 

 そもそも俺は、人の心配ができるような偉い人間じゃないな。人の心配をしている暇があったら、自分の心配をしろって話だ。相手にもしてられない。


「どうせ夏休みが終わったら、何事もなかったかのように登校してくるだろうよ。行方不明の件については、その時に聞いといてやるから」


「そうで()ね。分かりました」


 ・・・綾星と話したことなんて、一度もないんだが。

 っていうかいるのか? 綾星と話したことがあるようなヤツ。


 そんなことを考えていた僕を、にっこり笑った半野が見ていた。


「ん? どうした? さっきからニヤニヤして」


「えっ? ああ、それはですね~。先輩の席がここって分かったことが嬉しくて」


「・・・?」



 回想:始


半野「いや・・・先輩の隣の席って、綾星先輩なんですねーって」

 

  「いや・・・先輩の隣の席って、」

 

  「先輩の隣の席って、」


石黒「ん、綾星? 綾星がどうかしたのか?」


 回想:終



「ああああああああっっっっっ!!!!!」


 なんてこった!

 ここが俺の席だっていうことを否定していないっ!!


「さよならさよならさよなら机、晩ごはんが待ってるぞ」


「まだ夕日は背中を押してねぇよ!!」


 万事休すか。俺の机は壊される寸前にあった。

 あしたの朝(机を壊されたことによる現実逃避で)ねすごすな。  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ