3 : ゴミ捨て場の少女
「ZZZ・・・」
「・・・どうすればいいんだ俺は」
ゴミ捨て場で寝ている少女を見つめながら、俺は茫然と立ちつくした。
なにせ、こんな意味不明な状況は初めてなので、本当にどうすればいいのか分からない。
「うわっ、ホントだ。女の子が寝てるね。ゴミに埋もれてるけど臭くないのかな・・・」
ゴミ捨て場に近づきながら、どうでもいいことを心配する半野。
いかんいかん、後輩もいるんだしな。ここは先輩としてビシッと行動せねば。
「い、いったんこいつを外に出すか。ずっと放置していくわけにもいかないからな」
「うん、そうだね。見たところ傷はないし、しっかり息をしてるから動かしても大丈夫だよ」
「有能だな」
俺がボケっとしている間にそんなことを・・・。
後輩を尊敬しつつ、半野と一緒に少女を外に出した。
半野より少し低いくらいの身長だな。12歳くらいか? それに高そうな服も着ている。貴族? いや、どこかの金持ちの娘か・・・。
「私たちもずっとここにいるわけにもいかないし・・・、ただ寝ているだけなんだったら、早くこのチビを起こそうか」
「チビってオイ・・・。いきなりどうした、この女の子に喧嘩売ってんのか?」
「思ったより可愛い顔をしてたからイライラしてる」
「そんな無茶苦茶な・・・」
お前も十分小さいんだけどな。
「まぁ、起こすっていうのには賛成だ。体でもゆすってみるか」
少女の肩をつかみ、体を左右にゆすった。
グラグラグラグラ
「・・・」
全然起きねぇな。
「お~い! 起きろ起きろ~!」
グラグラグラグラグラグラグラグラ
「・・・」
あれ?
「・・・オイ半野。こいつ、もしかして死んでんじゃねぇの?」
「はい? どう見ても人間でしょ。頭に十字架でもついてるの?」
「神殿じゃねぇよ!」
「あ~、貴族のお屋敷のことか」
「寝殿でもねぇよ!! 死んでんじゃねぇの、って俺は言ったんだ! デッドだよ、dead!!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃん。それに、息はしてたから死んではないよ。ほら、ちゃんと寝息もたててるし」
「ZZZ・・・」
確かにこいつ、寝てはいるんだよな。思ったよりも寝起きが悪いだけで。
さて、どうしたものか。このまま肩をゆすり続けていたら、2人とも遅刻してしまうぞ。
「なんなら私が起こそうか?」
「えっ、お前が起こすの? お前に任せるとよくないことが起きそうだから、俺としては、極力それを避けたいんだけど」
「よくないことが“起きそう”っていうのは、このチビを“起こす”、の“起こす”と掛けてるの?」
「どこまでもポジティブだな、お前は・・・。そして敬語を使え」
っていうか、まだチビって言ってんのか。心の小さいやつだな。
「ため口に戻しても注意されなかったから、大丈夫だと思っていたんだけどな。いや、思っていたんでどけどね」
「で? お前はどうやって起こすつもりなんだよ。聞くだけ聞いてやる」
「早起きの最強アイテム~。ジャカジャカジャカジャカジャカジャカ・・・」
ためが長いな・・・。めんどくさい。
「ジャカジャカジャーン!! 目覚まし時計を使うのですだ!!」
目覚まし時計・・・?
「ちょっと待って半野。どうして登校を終えたはずのお前が、ポケットの中から目覚まし時計を出しているんだ? もしかして、持ってきたのか!?」
「いや、よく授業中に居眠りしたくなるから、授業が終わる時間に目覚ましをセットしておこうと思って」
「居眠りがバレバレじゃねえか!」
まぁ、ここに目覚まし時計があるのは都合がいい。早速使わしてもらうことにしよう。
「よし、じゃあいくぞ。せーのっ!」
ビビビビビビビビビビビビッ!!!
「うっ、すごくうるせぇ! なんだよ、この目覚まし時計は! ただの近所迷惑になってるぞ! でも、これならこの女の子も・・・!」
ビビビビビビビビビビビビッ!!!
「うるさ~~~~~いっ!!!!!」
バンッ!
「「!」」
目を覚ました! そして目覚まし時計を止めた!
ありがたい。俺もう鼓膜が破けそうだったんだよな。
「はあ、はあ、はあ。お前たちだな! せっかくの眠りを邪魔したやつらは!」
・・・起こしてやったのにひどいこと言われるな。
寝起きが悪い子供たちを起こすお母さん方は、こんな気持ちだったのか。
「何が眠りの邪魔だ! もう朝なんだよ。早く起きろねぼすけ!」
さっきのにイラっと来たのか、半野が怒り出す。
「朝? あ、ホントだな。私はそんなに疲れていたのか。昨日の私、偉い偉い」
「・・・」
自分で自分を褒めていやがる。
「お前達が起こしてくれたのか。迷惑をかけてすまなかった、ありがとう」
「いや、それはいいんだけど・・・。一体何があったんだよ。普通、ゴミ捨て場で寝ることなんてないだろ」
「あぁ、昨日の夜から人探しをしていてな。徹夜で探したんだが見つからずに、そのまま寝てしまったんだ。じゃあ、私は今日もそいつを探しに行くから、さよなら」
そのまま立ち去ろうとする少女。
「オイ! ちょっと待てよ。誰を探しているのか教えてくれ。ひょっとしたら、力になれるかもしれん」
せっかく起こしたんだから、ついでに手伝いでもしてやろうとか、そんな気分だった。
いつもの俺ならすぐに学校に行くはずだから、珍しい。案外、半野が迎えに来てくれたことを嬉しく思っていたのかもしれない。
まぁ、この行動は裏目に出るのだが・・・。
「そうか? じゃあ、名前だけ教えるよ」
少女がこっちに振り返った。
「興梠」
「!?」
「興梠という女を探している」
「・・・・・・」
知り合いだった。