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景観の楽園  作者: 野毛井 九九菜
第2章 橋世界
25/29

25 : 楽園

 3日遅れました。すいません。

「楽園。それは人の愛が結晶化したものだ」


「結晶化・・・」


 はて、理科の実験か何かだろうか。

 開始早々、俺は話に追いつけなくなった。


「愛が結晶化するっていうのは、具体的にどういうことなんだ?」


「ん~、いい質問だね。だけど説明が難しいから、無視して話を進めてもいいかな?」


「諦めんな。もっと頑張ってくれ」


 前回、楽園のことを教えよう! とか言っていたのはお前じゃねぇか。

 統治者が質問を放棄してどうする。


「じゃあ石黒君くん。まずは水の入ったビーカーを想像してくれ。何も溶けてない純粋な、真水の入ったビーカーを」


「・・・OK、想像したぞ」


「人が何かを愛すると、ビーカーの中に愛の欠片が溶けていく。もちろん、ちょっとやそっとの愛じゃあ全然足りないけれど、仮に大量の愛が溶けると・・・」


「と、溶けると・・・?」


「溶けきれなくなった愛が塊として出てくるんだ! バーン!」


「・・・」


 さすがにその効果音はおかしいだろ。

 ビーカーが爆発してしまっている。


「で、その塊が楽園ってわけ。分かったかな?」


「んー・・・」


 分かるような、分からないような・・・。

 俺は、欄干という名のガードレールに寄りかかった。


「結局、楽園って何なんだ? 行方不明になるものなのか?」


「なるよ。だって楽園は世界だもの」


「???」


 ちょー混乱。


「あー、ちょっと急だったね。順を追って説明しよう」


「・・・頼む」

「例えば! 興梠君は辞書が好きだろう? だから、その思いが爆発すると楽園ができる」


「そうだな。そこまでは分かる」


 問題はそのあとだ。

 そのあとが分からない。


「興梠君が創った楽園は、辞書のためだけに創られた世界なんだ」


「辞書のためだけ?」


「そう。大量の辞書であふれかえっていると思うよ」


「大量の辞書・・・」


 死んでも行きたくないような場所だな。

 しかし、あの辞書マニアにはピッタリのように思える。

 札束プールならぬ、辞書のプールに入ってそうだ。


「さっき、大量の愛って表現をしたけれど、実際、楽園を創るぐらいの愛なんて、もはや愛というより欲求なんだよね。楽園という形でその欲求を叶えることで、精神を安定させてるっていう感じ?」


「精神安定剤・・・か」


 楽園と名付けて美化しているだけで、思ったよりも危ないところらしい。

 綾星は3日以上そこにいると聞いたが、本当に大丈夫なのだろうか。


「大丈夫大丈夫、安心してよ。ほとんどの楽園では普通、人は死なないんだ」


「そうなのか? だったらいいんだけど」


「まあ、百聞は一見に如かずと言うように、自分で見た方が1番いいよ」


「・・・」


「では橋世界、景観の楽園にー! レッツ()――プツッ。ツー、ツー、ツー、」


 また、電話が切れた。

  次回の予定は活動報告へ!


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