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景観の楽園  作者: 野毛井 九九菜
第2章 橋世界
24/29

24 : 電話の用件・電話の要件

 2日遅れました、すいません。

「ヤッホー目覚まし時計くん!元気元気―?」


 電話を耳に当てると、はつらつとした声が聞こえた。

 もちろん元気じゃない俺は、その声に反応しない。


「ちなみに、トーチちゃんもシャチくんも~、元気元気―!!」


「いえ、私は別に元気ではございません」


「えっ!? シャチくん元気じゃないの?」


 テンションがおかあさんといっしょだった。


「・・・」


「あれ、どうしたんだい? 目覚まし時計の割には、朝から元気ないじゃないか」


「俺はいつから目覚まし時計になったんだよ・・・」


「じゃあなんて名前?」


「石黒だよ、石黒。頼むから早く覚えてくれ」


 予想通り、トーチは朝型だったらしい。

 俺はその高いテンションについていくことができなかった。

 えっと・・・確か今年で12歳なんだっけ、コイツ。

 小学生なら、朝からテンションが高いのもうなずけるか。


「コラ! 小学生だからってバカにするな! これでも私は統治者なんだぞ!」


 ドタドタドタと足の音。

 地団駄を踏むトーチの様子が目に浮かんだ。


「で? どうしてその統治者様は、わざわざこんな朝っぱらに電話をかけてきたんだ?」


「? 電話?」


「今してるじゃねぇか、電話」


「ああ・・・そのことね。いや、君って ――プツッ。 ツー、ツー、ツー、」


「・・・?」


 電話を耳から離し、通話画面を見る。嫌な予感がした。


〈 通話終了 〉


「・・・」


 俺は、ただいま絶賛読(辞)書中の興梠(こおろぎ)に声をかけた。


「オイ興梠。電話を切られたんだが」


「本当か? お前が切ったんじゃなくて? トーチちゃんのテンションが高すぎて電話を切ったんだったら、ちょっと論外だぞ?」


「違うよ。たぶん向こうからだ」


「なら嫌われたんだな」


「相手のテンションが低くて電話を切るなんて、それこそ論外じゃねぇか」


「アハハハハ」


 興梠は辞書から顔を上げずに笑った。

 そんなことされると、俺を笑っているのか辞書を笑っているのか分かりにくいのでやめてほしい。

 まあ、辞書を見て笑うことなんてないと思うから、俺のことを笑っているのだろう。


 嬉しいようで、悲しかった。


「ちょっと待ってな。すぐにまたかかってくると思うよ」


 ブーブーブーッ・・・


「あ、本当だ」


「な? 言った通りだろ?」


 やっとこちらを向き、興梠はウインクをする。

 オイオイ・・・もし間違い電話だったらどうする気だ。


 そんなことを思いながら、俺は電話に出た。


「もしもし」


「はいはい、もしもし~?」


 間違い電話ではないようだ。

 元気いっぱい、トーチちゃんの声がした。


「いや~ごめんごめん。君の声が聞こえないもんだから、ついスマホを顔に押し付けちゃったよ。ボタンに当たって切れたみたいだ。ほら見てくれ! 私の顔にスマホのあざが!」


「電話じゃ見えんわ」


 どんだけ俺の声小さいんだよ。

 っていうか、顔に押し付けたら余計声が聞こえなくなるんじゃないのか?

 間違って切れるのも当然だ。


「では改めて・・・ヤッホー目覚まし時計くん! 元気元気ー?」


「えぇっ!? そこから始めるのかよ! 省略しやがれ、省略!」


 あと、俺の名前は石黒だよ!


             ●


「省略しました」


「省略されましたー」


 文面上は省略されたけれど、実際はもう1周しただけである。


「で? どうしてその統治者様は、わざわざこんな朝っぱらに電話をかけてきたんだ?」


「ん? そんな話だっけ?」


「・・・」


 コイツ、忘れていやがる。


「省略した部分はちゃんと覚えててもう1周したくせに・・・残念な記憶力だな」


「嫌なことは忘れる主義なんだよ」


「さらっと俺の質問を嫌なことって言ってんじゃねぇ」


「地獄耳かい?」


「嫌なことは聞き逃さない主義なんでね」


 まあ、オススメはしないが。

 思ったよりストレスのたまる主義なのだ。


「あっ! なんで電話したのか思い出したよ!」


「ありがとう、思い出してくれて」


 彼女は言う。


「いや、君ってまだ1度も、楽園に入ったことがないだろう?」


 楽園


「・・・楽園?」


「そう、楽園。もしかして君、覚えていないのかい?」


「・・・」


 どうだろう。

 俺の中で、そもそも楽園は入るものですらないのだが、しかし言われてみると、入るものだったような気もする。


「はっきりしてくれよ」


「じゃあ覚えてない」


「じゃあって何だい、じゃあって! ごまかすんじゃないぞ! 結局君も私と同じで、残念な記憶力なんじゃないか!!」


「でも本当に、覚えていないんだよな・・・。なんだっけ? 楽園って」


「斜め45度の角度で頭を殴れば思い出すんじゃないのかい?」


「俺は昭和のテレビかよ」


 思い出すどころか、記憶喪失になっちゃうよ。


「え~、しなかったっけ? 昨日の神社でだよ?」


「あー、なんか言ってたな。橋世界がどうのこうのとか」


「そうそう、それだよ! 橋世界!」


 トーチの息が荒くなった。

 俺は耳からスマホを遠ざける。


「何? 橋世界がなんだって?」


「今から楽園に向かう君には、下準備というものが必要だろう? 今から私は統治者として、楽園のことを教えようと思っているんだ」

 次回は、7月9日の予定です。

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