23 : 集合
1日遅れました。すいません。
「やあ石黒、おはよう」
「おう興梠、おはよう」
「今日はいい天気だね」
「ああ、快晴だな」
「ところで、朝の良い気分を害させてしまうことになるけれど・・・遅刻だよ」
「うるせぇ、このホームレスが」
俺はこの女、興梠に呼び出され、仮屋橋を訪れていた。
時刻は9時15分。15分遅れである。
「どうしたんだ、遅刻なんてらしくないぞ? お前は時間に厳しい男だと思っていたんだが」
「いや、予定では9時に着けるはずだったんだよ。ただ、ちょっと不備があってな」
「と言うと?」
「待ち合わせに選ぶくらいの橋だからさ、俺はてっきり、もっと大きい橋を想像してたんだ。で、今日の朝、『真珠市 仮屋橋』と検索してみたら全然出てこない。とはいえ、神社の近くに川はあったから、上流から順に橋巡りをし、4つ目の橋でようやくお前を見つけたってわけだ」
それで、15分遅れ。
自転車は使わず歩きだったことを考慮すると、中々がんばった方ではないだろうか。
「へえ・・・災難だったね」
「誰のせいだと思ってんだ」
「言っとくけど、私のせいじゃないぞ? 昨日にちゃんと、神社から出て左に行くと、すぐに見つかるって教えたからね」
「それじゃあ分かりにくいんだよ・・・」
神社からって、100m以上あったじゃねぇか。
踏切も渡ったんだぞ。そんなに遠くとは聞いてない。
しかもこの仮屋橋、長さが3mと小さく、遠目で見ると橋であることすら分からないくらいだった。
「すぐに見つかるわけあるか。そうやって何でもかんでも、“近くて便利、セブンイレブン”みたいに、言ってんじゃねぇ」
「“近くて便利”というよりは、“近くて便利なことが多い”の方が案外正しいんだろう。ここから最寄りのセブンイレブンまでだと、5分以上かかるしね。ちなみに、昼食は用意してきたのかな?」
「え、昼食? まあ念のため持ってるけど」
姉ちゃんが作ってくれたお弁当である。
姉によると、「我が弟よ。お姉ちゃん特製、愛情たっぷりお弁当だ。私のことを思い出しながら食べてくれ♡」とのことだった。
出かけると朝聞いてから、準備なしで素早く完成させたところを見ると、さすが天才と言わざるを得ない。
「それは良かった。わざわざ買いに行くとなると、時間がとてももったいない。ただでさえ時間がおしているから、できる限り無駄なことはしたくなかったんだ」
「っていうことは、今日は雑談をしないのか」
「いいや、するよ」
「するんかい」
無駄なことはしたくないんじゃなかったのか。
「オイオイ、雑談を無駄って言うなよ。私はけっこう楽しめてるんだぞ?」
「お前のことなんて知るか。俺が楽しくないって話だ」
「またまた~、本当は辞書が嫌いなだけなんだろ?」
興梠が挑発するように辞書を開く。
そしてその間から、スマートフォンを取り出した。
「・・・」
やべぇコイツ。スマホを栞代わりにしてやがる。
しかも辞書の栞に。
「はーい。じゃあ石黒、こっち向いてー」
「?」
「1、2の3・・・ホイッ!」
「えっ!?」
スマホが宙へ放り投げられた。
俺はとっさに、手を伸ばしてスマホを捕まえる。
「おー、ナイスキャッチ」
「ナイスキャッチじゃねぇよ。川に落としたらどうするんだ」
忘れているかもしれないが、ここは小さな橋の上だった。
「そんなことより、ほら。電話がかかってきているぞ」
「ん、電話?」
ブーブーブーッ・・・
「ああ・・・電話ね」
言われてみると、確かにスマホが震えていた。
俺は電源を入れ(パスワードは設定されてなかった)電話に出る。
「ちなみに興梠、これって誰からかかってきてるんだ?」
「そりゃあもちろん、統治者ちゃんからに決まってるだろ?」
「・・・」
「トーチちゃんからのお電話だ。早く話をしてやりなさい」
「えー」
朝の良い気分が害された。
次回は、×6月25日 → ○7月2日 の予定です。