21 : 金属バットと釘バット
1日遅れました。すいません。
金属バット。
いかにも人を殴りやすそうな金属バットが、姉の手に握られていた。
「ほら、これを持っていけ」
「断る」
誰が金属バットなんか学校に持っていくか。恥だぞ、石黒家の恥だ。
「オイオイオイ、待つんだ我が弟よ。これはただのバットだ。決して危険なものではない」
「そんなわけないだろ。これはれっきとした凶器だ。こんなものを持っていくわけにはいかない」
何を出してくるのかと思ったら、まさか金属バットを出してくるなんて・・・。なんて危険な女だ。びっくりを通りこして恐ろしいぞ。震えが止まらない。
「よし、もう金属バットなんて忘れよう。どうだ姉ちゃん、もっと安全で平和な話をしようじゃないか!」
「じゃあ期末考査の結果について聞かせてもらおうか」
「・・・!?」
今なんて言った? 期末テスト? それって安全で平和か?
「さあ早く言え。そうだな・・・、ではまず英語からだ。目標点数は100点」
「・・・ちょっと待ってくれ姉ちゃん」
「ん? 何が不満なんだ、我が弟よ」
「不満というか、期末テストの話はマズい」
「マズいだと? マズいと言っても、ジャイアン君の料理ほどではないだろ」
ブンッ、ブンッ
金属バットを振りながら突っ込みを入れる姉ちゃん。
というか、金属バットはクローゼットにしまえよ。金属バットの時代はもう終わったんだって・・・。
「いや、ホントに待ってくれよ姉ちゃん。どうして金属バットからいきなり期末テストの話になるんだよ」
「金属バット➡豆腐➡ふじりんご➡ゴマ➡松茸➡ケーキ、で期末テストだ」
「姉ちゃんの頭脳は、所詮しりとり程度か!!」
天才じゃなかったのかよ! そしてなぜ食べ物ばかり!?
「いやあ、お腹が空いたもんで・・・」
「何? 豆腐とりんごとゴマと松茸とケーキを一緒に食べたいの?」
「ちゃんと期末テストも食べるぞ!」
「もったいなっ! ヤギかよ!」
まぁ、どうせ腐るほど100点のテストはあるんだろうけど・・・。
いいよな、羨ましい限りだぜ。いらないなら俺にくれよ。学校で配り歩くからさ。
「それでだ。こんなどうでもいい話はともかくとして、もういいだろ。そろそろテストを見せろ、我が弟よ」
話をもとに戻された。
どうでもいい話か・・・。俺からすると、時間稼ぎという名の貴重な時間だったんだが。
「姉ちゃん。でもまだやっぱり、金属バットから期末テストってのが納得いかない。もうちょっとつながりのいい話をしようぜ」
「じゃあ釘バットの話をしよう」
「!?」
姉ちゃんがまたもや立ち上がり、クローゼットの中をあさり始める。
「・・・」
呆れて言葉が出ない。
というか俺の姉ちゃん、バットをいくつ持ってんだ? 今度姉ちゃんのクローゼットの中をあさってみることにしよう。(別にいかがわしいことを考えているわけではない。俺の安全のためでである)
「・・・オ、オイ、姉ちゃん。俺はもうバットなんか見たくないんだ。頼むから、もうこれ以上バットを出さないでくれ。姉ちゃんはいいのか? 俺がバット恐怖症になっても」
「ん? バットの話をしないんだったら、期末テストの結果を見せることになるが、我が弟よ、お前はそれでもいいのか?」
「あぁ、仕方がない。期末テストだけとは言わず、なんでも見せてやる。エロ本の隠し場所はベッドの下だ!」
「それは知ってる」
「知ってるのか・・・」
なんで知ってんだよ。俺の秘密バレバレじゃねえか。
「そうだな、そこまで言うんなら仕方がない。釘バットの話は諦めよう」
「・・・」
ん? 何か大切なことを忘れてるような・・・。
「あ! やっぱり釘バットいるわ!」
「え? 本当にいるのか?」
姉ちゃんが満面の笑みでこちらを向く。
ああ・・・この人本気で弟にバットを持たせるつもりだったのか。
まあ、興梠に武器を持って来いと言われていたので好都合だ。
「しかし、我が弟よ。残念ながら釘バットは見つからなかった。代わりとして、金属バットでもいいか?」
「うん。大丈夫大丈夫」
たぶんそれ、使わないし。
「じゃあこれで、悪いいじめっ子をやっつけてこい!」
姉ちゃんから、金属バットが手渡された。
思っていたより重いな・・・。
いじめっ子、ならぬ興梠をこれで殴ったら、果たして簡単に死ぬのだろうか。
そんなことを思いながら、俺は姉ちゃんの部屋を後にした。
明日から、夏休みである。
次回は、6月11日の予定です。
やっと第2章に入ります。




