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景観の楽園  作者: 野毛井 九九菜
第1章 行方不明の少女
21/29

21 : 金属バットと釘バット

 1日遅れました。すいません。

 金属バット。


 いかにも人を殴りやすそうな金属バットが、姉の手に握られていた。


「ほら、これを持っていけ」


「断る」


 誰が金属バットなんか学校に持っていくか。恥だぞ、石黒家の恥だ。


「オイオイオイ、待つんだ我が弟よ。これはただのバットだ。決して危険なものではない」


「そんなわけないだろ。これはれっきとした凶器だ。こんなものを持っていくわけにはいかない」


 何を出してくるのかと思ったら、まさか金属バットを出してくるなんて・・・。なんて危険な女だ。びっくりを通りこして恐ろしいぞ。震えが止まらない。


「よし、もう金属バットなんて忘れよう。どうだ姉ちゃん、もっと安全で平和な話をしようじゃないか!」


「じゃあ期末考査の結果について聞かせてもらおうか」


「・・・!?」


 今なんて言った? 期末テスト? それって安全で平和か?


「さあ早く言え。そうだな・・・、ではまず英語からだ。目標点数は100点」


「・・・ちょっと待ってくれ姉ちゃん」


「ん? 何が不満なんだ、我が弟よ」


「不満というか、期末テストの話はマズい」


「マズいだと? マズいと言っても、ジャイアン君の料理ほどではないだろ」


 ブンッ、ブンッ

 金属バットを振りながら突っ込みを入れる姉ちゃん。

 というか、金属バットはクローゼットにしまえよ。金属バットの時代はもう終わったんだって・・・。


「いや、ホントに待ってくれよ姉ちゃん。どうして金属バットからいきなり期末テストの話になるんだよ」


「金属バット➡豆腐➡ふじりんご➡ゴマ➡松茸➡ケーキ、で期末テストだ」


「姉ちゃんの頭脳は、所詮しりとり程度か!!」


 天才じゃなかったのかよ! そしてなぜ食べ物ばかり!?


「いやあ、お腹が空いたもんで・・・」


「何? 豆腐とりんごとゴマと松茸とケーキを一緒に食べたいの?」


「ちゃんと期末テストも食べるぞ!」


「もったいなっ! ヤギかよ!」


 まぁ、どうせ腐るほど100点のテストはあるんだろうけど・・・。

 いいよな、羨ましい限りだぜ。いらないなら俺にくれよ。学校で配り歩くからさ。


「それでだ。こんなどうでもいい話はともかくとして、もういいだろ。そろそろテストを見せろ、我が弟よ」


 話をもとに戻された。

 どうでもいい話か・・・。俺からすると、時間稼ぎという名の貴重な時間だったんだが。


「姉ちゃん。でもまだやっぱり、金属バットから期末テストってのが納得いかない。もうちょっとつながりのいい話をしようぜ」


「じゃあ釘バットの話をしよう」


「!?」


 姉ちゃんがまたもや立ち上がり、クローゼットの中をあさり始める。


「・・・」


 呆れて言葉が出ない。

 というか俺の姉ちゃん、バットをいくつ持ってんだ? 今度姉ちゃんのクローゼットの中をあさってみることにしよう。(別にいかがわしいことを考えているわけではない。俺の安全のためでである)  


「・・・オ、オイ、姉ちゃん。俺はもうバットなんか見たくないんだ。頼むから、もうこれ以上バットを出さないでくれ。姉ちゃんはいいのか? 俺がバット恐怖症になっても」


「ん? バットの話をしないんだったら、期末テストの結果を見せることになるが、我が弟よ、お前はそれでもいいのか?」


「あぁ、仕方がない。期末テストだけとは言わず、なんでも見せてやる。エロ本の隠し場所はベッドの下だ!」


「それは知ってる」


「知ってるのか・・・」


 なんで知ってんだよ。俺の秘密バレバレじゃねえか。


「そうだな、そこまで言うんなら仕方がない。釘バットの話は諦めよう」


「・・・」


 ん? 何か大切なことを忘れてるような・・・。


「あ! やっぱり釘バットいるわ!」


「え? 本当にいるのか?」


 姉ちゃんが満面の笑みでこちらを向く。

 ああ・・・この人本気で弟にバットを持たせるつもりだったのか。


 まあ、興梠(こおろぎ)に武器を持って来いと言われていたので好都合だ。


「しかし、我が弟よ。残念ながら釘バットは見つからなかった。代わりとして、金属バットでもいいか?」


「うん。大丈夫大丈夫」


 たぶんそれ、使わないし。


「じゃあこれで、悪いいじめっ子をやっつけてこい!」


 姉ちゃんから、金属バットが手渡された。

 思っていたより重いな・・・。

 いじめっ子、ならぬ興梠をこれで殴ったら、果たして簡単に死ぬのだろうか。


 そんなことを思いながら、俺は姉ちゃんの部屋を後にした。



 明日から、夏休みである。

 次回は、6月11日の予定です。

 やっと第2章に入ります。

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