2 : 通学路
7月18日朝 通学路にて
はっきり言おう。俺は通学路が嫌いだ。
なぜ嫌いなのかといえば、何も起きないからである。何も変わらない毎日ほど、つまらないものはない。そして、その代表的なものが、通学路なのであった。
いや、何も起きないとは言いすぎだ。友だちと話したりするじゃないか、とい人もいるかもしれない。だが、悲しいことに、俺の家の周りから学校へ通っている人なんて、俺ぐらいだった。つまり、話す友達すらいない。(別に友達がいないわけではないぞ。この通学路を使うのが俺1人だけ、という話だ)
そして今日、気分を変えようと通学路を変え、こうして学校へ向かっていたのである。
「通学路を変えてみたものも、結局知っているヤツは誰もいないから、残念なだけなんだけどな・・・」
全然楽しくなっかた。わざわざ朝練を休んでこんなことをしていると思うと、もっと悲しくなってくる。
「いけないな。毎朝通学路を通ると、気分が落ち込んでしまう」
「———っしぐろ!!」
「困ったな。幻聴も聞こえてきた。もう家に帰った方がいいのかもしれ————!」
バンッ!!
すごい勢いで後ろから何かが突進してきた。
「はいっ、おはよ~。石黒君!」
「・・・や、やあ、半野」
半野小川。俺が所属している卓球部の後輩(女子)である。
見たところ部活着なので、学校から走ってきたんだろう。元気だね~、この1年生は。
まぁ、こうやって走って来てくれたということは、ひとりぼっちの俺のために、話し相手になってくれるのだろう。いやはや、感謝感謝。
「全然朝練に来ないと思ったら、こんなところを歩いているなんてびっくりだよ。さあ、学校まで走ろうっ!」
感謝した俺がバカだった。
確かにこいつ、部活大好き女だったな・・・。
「ん!? ちょっと待て半野。確かにお前は、俺を朝練に連れて行きたくてたまらないのかもしれない。だけど俺は、お前と違って重い荷物を背負ってるんだ。それで学校まで走れって・・・。もうちょっと人のことを考えてものを言えよ。そして敬語を使え」
「そんなこと言われてもな~。あっ、そんなことをおっしゃられまられてもな~」
「・・・」
こいつは小学校で敬語を習わなかったのか?
「最近、卓球部の中での緊張感が下がっておりまされて。一度先輩に喝を入れてもらおうと思ったんでるよ」
「・・・ちなみに、緊張感はどれくらい下がってるんだ?」
「運動部の中の文化部って言われるくらい」
「そりゃ大変だ」
そんなになめられていたのか、卓球部は・・・。
これはもう、重い荷物を捨ててでも学校へ走っていかなければならないレベルかもしれない。
「よし、仕方ない。卓球部のためだ。俺が走って学校へ行って、喝でもかつ丼でも入れてきてやる!!」
「かつ丼なんか入れられても困りまりるけどね・・・。まぁ、部活に来てくれるんならありがたいでしゅ。さあ、私に荷物を渡してくだらさい!」
そういって両手を伸ばす半野。
なんだ。こいつ、初めから俺の荷物を持つつもりだったんだな。いいやつじゃねえか。
俺は持っていた荷物をすべて、半野に渡した。
「じゃあ頼むぞ」
「了解しましました。えいっ」
俺の荷物はゴミ捨て場に捨てられた。
「・・・・・・・・・っ!!?」
「これで背中も軽くなるね。いや、軽くなりまるするね!」
「いやいやいやいや、な、何やってんだよお前!」
というか急いで拾わなければ! 俺のカバンが臭くなる!!
運の悪いことに、今日は燃えるゴミの日だった。
とっさに俺は、ゴミ捨て場に飛び込む。
「クソッ! こんなアホ後輩と部活なんかしてやれるか! 退部してやる!!」
やけになる俺。
いや、仕方ないでしょ。後輩に荷物を捨てられたんだから。ホントはここで号泣したいんだけどな・・・ってん?
「どう? 荷物見つかった?」
「いや、そりゃあ見つかったけどさ、無茶苦茶臭い荷物が」
「ひどい災難だったね」
「お前のせいだろうが。まぁ、それはともかくとしてだ。どういうことだよ、これ・・・」
「?」
「ゴミ袋の山の下から、・・・女の子が出てきたんだけど」
「ZZZ・・・」
ゴミ捨て場で、女の子がスヤスヤ眠っていた。