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景観の楽園  作者: 野毛井 九九菜
第1章 行方不明の少女
18/29

18 : 統治者の説得

「まず1つ」


 人差し指を立てたトーチが、反撃とも言わんばかりに説明を始めた。


「どうしてわざわざ統治者であるこの私が、ここへ来たのかという質問についてだが、それは今回起きた行方不明が、ただの行方不明ではなかったからだ」


「・・・」


 行方不明に、ただもただじゃないもないと思うのだが・・・どうなんだろう。


 まぁ確かに、楽園に迷い込む(?)という点については珍しいのか。


 行方不明事件なんて、生涯縁のないものだと思っていたけれど、実は俺の知らないところで、案外多く起きているのかもしれない。


 その中のいくつかが、今回起きたようなただではない行方不明なのであって・・・。


「少女が楽園に迷い込んで・・・すでに3日が経過している」


 ・・・いや、普通じゃねぇか。


 真剣な顔でそんなこと言うなよ。


 3日が経過しているって・・・そもそも逆に、1日2日いなかったくらいで行方不明ってなるのか?

 何日も帰って来なくてナンボの行方不明だろうに。(我ながら不謹慎な発言である)


「なるほど・・・要するに、管理局側の不祥事というわけか」


 興梠(こおろぎ)はすんなり納得したらしい。

 あごに手を当て下を向き、なにやら少し考えこんでいる。


「でもそれなら、疑問点がまた増えることになる」


「・・・」


「なぜあえて私を選んだ?」


 そちらの不祥事なら、自分達でなんとかすればいい・・・というかすべきだろう――と、続けて興梠は言い放った。


「君の部下がどうなのかは知らないけど、少なくとも君がいる限り、行方不明事件くらいなら簡単に解決できるはずだよ」


 興梠の言う通りだった。


 部屋を散らかせばいつかは片付けないといけないように、無理矢理人に雑談を聞かせたら、逆に相手の話も聞かなければならないように(話し上手は聞き上手という言葉があるが、話し上手は聞かされ上手の間違いではないだろうか)、何かを行えばそれに応じたペナルティが生じる。

 自分のせいで失敗をしてしまったのなら、なおさら。


 身から出た錆・・・自業自得である。


「そして、何度も言わせてもらうけど、君が本物の統治者である保証はどこにもないんだからね」


「あぁ、それについてなら・・・」


 トーチが後ろを振り返った。


「そろそろ、証明できる」


「「?」」


 とりあえず、トーチのように後ろを振り返るとそこには・・・


「―――――まっ!!」


 ダダダダダダダダッ・・・


「・・・」


 何かを叫びながらこちらへ走ってくる、一人の男がいた。


 なんだ? 俺の友達か?


「統治者様ー!!」


 違った。


 俺の友人に、統治者様ーと叫びながら走る変人はいない。(数えるほどしか友人はいないので、確実である)

 というか、俺の友人に限らずとも、あんな速さで走れる中学生なんて、それこそ数えるほどしかいないのではないだろうか。


 そう。

 男の足は速かった。

 100mくらいはあるように見えた神社前の道を、ものの10秒で駆け抜け、すでに階段へ差し掛かっている。


 いや、もう速いとかいうレベルじゃないだろ。

 100m9秒台が軽くねらえそうだ。


 宝の持ち腐れとはこのことか・・・。


「・・・」


 さすがにここまでくると、男の顔が徐々にはっきり見えてくる。


 男というより、青年が正しいようだ。

 俺の友達である可能性は限りなく低いな。


 ということは・・・恐らく、この青年の目的はトーチか?


「統治者様! ハァ、やっと見つけましたよ!」


 予想的中。


 階段を4段飛ばしで素早く登り終えた青年は、トーチのもとへ駆け寄った。


「誰かと思えばシャチじゃないか。こんなところまでご苦労様♪」


「ご苦労様♪ じゃないですよ! みんな心配していたんですよ!」


「もとはと言えば、君が私より唐揚げに食いついたのが悪いんだろう?」


「そりゃあ、文字通り食いつきましたけど・・・」


「ちなみに、私の分の唐揚げは残っているんだろうな?」


「残ってますよ、冷凍のが」


「なんでだよ!」


 いいじゃないか、冷凍でも。

 最近のは結構おいしいぞ。


「あれ? もしかして、シャチくん!?」


「あっ! 興梠さんではないですか。お久しぶりです」


 興梠とも知り合いなのか。


 俺からすると、知らない人が増えていくばかりなのだが。


「さあ、興梠君。これで私の立場は証明できたよ。早く行方不明事件の依頼を引き受けてくれたまえ」


「いや、まだだ」


「・・・?」


「もちろん、君が真の統治者であることは理解できた。しかし、それと依頼を引き受けることは話が違う」


「・・・」


 しぶとすぎだろ。


 お前、ただ辞書が読みたいだけなんじゃないのか?

 依頼より、辞書を読む方が楽しいもんな、お前にとっては。


「じゃ、じゃあ、名前を言おう!」


「?」


「行方不明になった少女の名前を言う! もしかしたら、君の知り合いかもしれないだろ?」


 お、おお?

 ついに名前を言うのか?

 俺が門限を破ってまで聞こうとしていた名前を言うのか?


「見苦しいな。私の友人は、石黒くらいだというのに」


「そ、それでも、知っている名前かもしれない!」


「知り合いなら、助ける理由になると?」


「なる!」


 ちょっと待て。


 今、さらっと興梠が悲しいことを言わなかったか?

 みんな普通にスルーしたけど。


「じゃあ好きにしなさい。聞くだけ聞くからさ」


「・・・」


 どうでもいいらしい。

 まあいいや。興梠の交友関係なんて俺だってどうでもいい。


 それよりも、名前を聞き逃さないよう耳をよく傾けないと。


 グーッ(耳が傾いた)


「行方不明の少女の名は・・・」


 名は・・・?



綾星(あやほし)みつぐ」



 境内に沈黙が流れる。


「えっと・・・知らないか?」


「・・・」


 その名を聞いた俺は、今まで言おうとして言っていなかったセリフを、我慢できずに叫ぶ。


「やっぱ! 行方不明の少女って! 俺のクラスメイトじゃ―――――ん!!」


 助けなきゃ!

 次回は、5月14日の予定です。

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