18 : 統治者の説得
「まず1つ」
人差し指を立てたトーチが、反撃とも言わんばかりに説明を始めた。
「どうしてわざわざ統治者であるこの私が、ここへ来たのかという質問についてだが、それは今回起きた行方不明が、ただの行方不明ではなかったからだ」
「・・・」
行方不明に、ただもただじゃないもないと思うのだが・・・どうなんだろう。
まぁ確かに、楽園に迷い込む(?)という点については珍しいのか。
行方不明事件なんて、生涯縁のないものだと思っていたけれど、実は俺の知らないところで、案外多く起きているのかもしれない。
その中のいくつかが、今回起きたようなただではない行方不明なのであって・・・。
「少女が楽園に迷い込んで・・・すでに3日が経過している」
・・・いや、普通じゃねぇか。
真剣な顔でそんなこと言うなよ。
3日が経過しているって・・・そもそも逆に、1日2日いなかったくらいで行方不明ってなるのか?
何日も帰って来なくてナンボの行方不明だろうに。(我ながら不謹慎な発言である)
「なるほど・・・要するに、管理局側の不祥事というわけか」
興梠はすんなり納得したらしい。
あごに手を当て下を向き、なにやら少し考えこんでいる。
「でもそれなら、疑問点がまた増えることになる」
「・・・」
「なぜあえて私を選んだ?」
そちらの不祥事なら、自分達でなんとかすればいい・・・というかすべきだろう――と、続けて興梠は言い放った。
「君の部下がどうなのかは知らないけど、少なくとも君がいる限り、行方不明事件くらいなら簡単に解決できるはずだよ」
興梠の言う通りだった。
部屋を散らかせばいつかは片付けないといけないように、無理矢理人に雑談を聞かせたら、逆に相手の話も聞かなければならないように(話し上手は聞き上手という言葉があるが、話し上手は聞かされ上手の間違いではないだろうか)、何かを行えばそれに応じたペナルティが生じる。
自分のせいで失敗をしてしまったのなら、なおさら。
身から出た錆・・・自業自得である。
「そして、何度も言わせてもらうけど、君が本物の統治者である保証はどこにもないんだからね」
「あぁ、それについてなら・・・」
トーチが後ろを振り返った。
「そろそろ、証明できる」
「「?」」
とりあえず、トーチのように後ろを振り返るとそこには・・・
「―――――まっ!!」
ダダダダダダダダッ・・・
「・・・」
何かを叫びながらこちらへ走ってくる、一人の男がいた。
なんだ? 俺の友達か?
「統治者様ー!!」
違った。
俺の友人に、統治者様ーと叫びながら走る変人はいない。(数えるほどしか友人はいないので、確実である)
というか、俺の友人に限らずとも、あんな速さで走れる中学生なんて、それこそ数えるほどしかいないのではないだろうか。
そう。
男の足は速かった。
100mくらいはあるように見えた神社前の道を、ものの10秒で駆け抜け、すでに階段へ差し掛かっている。
いや、もう速いとかいうレベルじゃないだろ。
100m9秒台が軽くねらえそうだ。
宝の持ち腐れとはこのことか・・・。
「・・・」
さすがにここまでくると、男の顔が徐々にはっきり見えてくる。
男というより、青年が正しいようだ。
俺の友達である可能性は限りなく低いな。
ということは・・・恐らく、この青年の目的はトーチか?
「統治者様! ハァ、やっと見つけましたよ!」
予想的中。
階段を4段飛ばしで素早く登り終えた青年は、トーチのもとへ駆け寄った。
「誰かと思えばシャチじゃないか。こんなところまでご苦労様♪」
「ご苦労様♪ じゃないですよ! みんな心配していたんですよ!」
「もとはと言えば、君が私より唐揚げに食いついたのが悪いんだろう?」
「そりゃあ、文字通り食いつきましたけど・・・」
「ちなみに、私の分の唐揚げは残っているんだろうな?」
「残ってますよ、冷凍のが」
「なんでだよ!」
いいじゃないか、冷凍でも。
最近のは結構おいしいぞ。
「あれ? もしかして、シャチくん!?」
「あっ! 興梠さんではないですか。お久しぶりです」
興梠とも知り合いなのか。
俺からすると、知らない人が増えていくばかりなのだが。
「さあ、興梠君。これで私の立場は証明できたよ。早く行方不明事件の依頼を引き受けてくれたまえ」
「いや、まだだ」
「・・・?」
「もちろん、君が真の統治者であることは理解できた。しかし、それと依頼を引き受けることは話が違う」
「・・・」
しぶとすぎだろ。
お前、ただ辞書が読みたいだけなんじゃないのか?
依頼より、辞書を読む方が楽しいもんな、お前にとっては。
「じゃ、じゃあ、名前を言おう!」
「?」
「行方不明になった少女の名前を言う! もしかしたら、君の知り合いかもしれないだろ?」
お、おお?
ついに名前を言うのか?
俺が門限を破ってまで聞こうとしていた名前を言うのか?
「見苦しいな。私の友人は、石黒くらいだというのに」
「そ、それでも、知っている名前かもしれない!」
「知り合いなら、助ける理由になると?」
「なる!」
ちょっと待て。
今、さらっと興梠が悲しいことを言わなかったか?
みんな普通にスルーしたけど。
「じゃあ好きにしなさい。聞くだけ聞くからさ」
「・・・」
どうでもいいらしい。
まあいいや。興梠の交友関係なんて俺だってどうでもいい。
それよりも、名前を聞き逃さないよう耳をよく傾けないと。
グーッ(耳が傾いた)
「行方不明の少女の名は・・・」
名は・・・?
「綾星みつぐ」
境内に沈黙が流れる。
「えっと・・・知らないか?」
「・・・」
その名を聞いた俺は、今まで言おうとして言っていなかったセリフを、我慢できずに叫ぶ。
「やっぱ! 行方不明の少女って! 俺のクラスメイトじゃ―――――ん!!」
助けなきゃ!
次回は、5月14日の予定です。