17 : 驚愕、困惑・・・からの憤怒
1日遅れました。気を付けます。
「赤の他人をわざわざ助けてやるような、義理も義務も私にはない」
「・・・」
興梠《こおろぎ》の言動を一部始終目にした俺は、目をカッと開き、金魚のように口をパクパクさせながら、その場で固まった。
えっ・・・えぇぇっ!?
マ、マジか、コイツ!
12歳の女の子を、グチャグチャに言い負かしやがった! ケチョンケチョンに踏みつぶしやがった!
見られなかったぞ! トーチへの配慮が、優しさが会話のどこにも!!
いや、確かに正論だよ!
興梠の言っていることは確かに正論だけれども、それが一番人を傷つけるのだと、お前は知らなかったみたいだな!
もしかして、わざとやったのか!? わざとなのかー!! えぇっ?
ふざけんなよ! ただの辞書マニアかと思ったら、中身はとんだ化け物じゃねぇか!!
てっきり、鮮やかな大人の対応を見せてくれるものだと期待していた、数秒前の純粋な俺を返せ!!
・・・固まっている割に、心の中は元気だった。
傍《はた》から見ると俺は、文句を口に出して言えない、ただのチキン野郎なのかもしれないが、話に全然関係のない、一般の人である以上、興梠に文句を言える立場ではなかった。
〈 関係者以外立入禁止 一般の方々はご遠慮ください 〉
というわけで、日頃の鬱憤も含め、自由にいろいろ言わせてもらおう。
・・・心の中で。
「・・・」
バーカ、バカバカバァーカ!
興梠のアホ! くそったれ! 変態辞書マニア!!
そもそも“コオロギ”って何だよ! お前は、バッタ目コオロギ科コオロギ亜科の昆虫じゃねぇだろ!! 改名しやがれっ!
いつも俺を暇つぶしの雑談相手に使いやがって・・・、こっちは迷惑してんだぞ!
1日の雑談を15分としたら、えっと・・・1年は365日だから・・・カキカキ(筆算中)、1年で5475分。
5475分・・・
は? 91時間!? ウソだろ、4日以上じゃん!
我ながら何やってんだよ! 俺はアホなのか!?
これを機に、雑談のペース配分を考えないと、もう体がもたないぞ。
せめて2日・・・2日に1回くらいで、雑談の調整を行わないと・・・じゃない。
いや、俺が1人で反省してどうする。
今すべきなのはトーチの話だ。興梠にいじめられた、かわいそうなトーチの話だ。
ほら見ろ興梠! お前のせいで、トーチが泣き出し・・・
「・・・」
てない?
「?」
うつむいていたトーチが、顔を上げる。
「とりあえず・・・さっきの君の質問に、答えさせてもらう」
その顔に涙は一切なく、冷静な瞳がじっと、興梠を見つめていた。
なるほど。
どうやら泣き出しそうなのは、俺の方だったらしい。
興梠の言動に驚き、戸惑い、怒っていたのが、まさか俺1人だけだったとは・・・。
グスン・・・
「なら、じっくり聞かせてもらおうか。その答えとやらを――」
興梠は再び辞書を置いた。
次回は5月8日の予定です。




