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景観の楽園  作者: 野毛井 九九菜
第1章 行方不明の少女
16/29

16 : 交渉

「少女が楽園に迷い込んだ――行方不明だ」


「・・・」


 珍しく、興梠が真面目な顔をした。


 ピッカーン


 ・・・なんだろう。

 年に数回、のび太くんが勉強に目覚めた時のような顔に似ている。


 輝いているのだ。

 神々しささえ感じてしまうほどに。


「なるほど・・・そうきたか」


 とりあえずお賽銭箱の上に座り直した興梠は、そう呟いた。

 彼女にとってお賽銭箱とは、座る物以外の何でもないらしい。いくら真面目になったとしても・・・だ。


 しかし、特筆すべき点は他にもある。


 興梠が辞書を・・・


「・・・!」


 置いたのである。


 フリーハンド


 この女とは、かれこれ1年ほどの付き合いだけれども、辞書を手放したのを見るのは、今日が初めてだった。


 全身全霊で会話に臨もうというのか・・・コイツ。

 俺との雑談では1年の間1度も、辞書を地面に置くことがなかったというのに・・・。ただの暇つぶしでしかなかったというのに!

 なめられている。完全になめられている・・・。


 興梠を真面目にさせる方法を探るという意味でも、彼らの話を最後まで聞き、大いに学ばせてもらおう。


             ●


「とりあえず興梠君」


「・・・」


 統治者が腕を組む。


「君には、その少女の捜索を依頼し・・・」


「ちょっと待った」


「・・・は?」


 興梠が、統治者・・・もとい、トーチの話を遮った。


「いくつか、聞きたいことがある」


「いや、一応最後まで話は聞いてほしいんだけど」


「質問を?」


「私の話を!」


 興梠がしぶとい。


「い、く、つ、かー、聞きたいことがー」


「あぁぁっ! 分かった分かった! 何でも自由に聞いていいから!」


 折れた。

 恐らく心も折れた。

 あれだな。いくら統治者であっても、年齢の差が大きすぎたようだ。

 年齢の差というか、経験の差、かもしれないが。(どんな経験だよ)


 ちなみに、興梠の年齢は不詳である。


「1つ。どうしてわざわざ君が来たんだ?」


「・・・?」


「年齢や経験はどうであれ、君は統治者なんだぞ。管理局のトップだ。少女1人行方不明になったからとはいえ、君が来るのは釣り合いが合わない」


「・・・」


 なんだ?

 行方不明になったからとはいえ?

 さすがに行方不明を軽く見すぎじゃないか?

 警察が動くレベルだぞ。


「・・・君は、私の言っていることが信じられないと?」


「・・・」


「ウソを言っていると・・・そう言いたいのか?」


 あれ?

 なんか、雲行きが怪しいような・・・。


「ああ。最悪、君が偽物である可能性も考えている」


「偽物・・・!?」


「悪いが、統治者の就任式には出ていないんだ。1人でここに来られた以上、証明のしようがない。君の母・・・先代統治者とは、知り合いだったんだけどね・・・」


「ぐ、ぐぬぬ・・・」


「いいかい? 大事なのは信頼関係だ。私と先代にはそれがあったから、依頼をこうやって断ることもなかった。だが、君とにはそれがない。母のコネを頼った、自らの浅はかさを恨むんだな」


「・・・」


「どこの少女だか知らないけど、わざわざ助けてやるような義務も義理も・・・」


 興梠は、辞書を再び手に取って一言。


「私には、ない」

 次回は4月30日の予定です。


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