15 : 言い訳の良い訳
遅れてしまいました・・・。すいません。
「少女が、楽園に迷い込んだ――行方不明だ」
行方不明。
その言葉を聞いた途端、俺は帰る気がなくなった。
聞き覚えがあったのである。行方不明という単語に。
・・・具体的に言うと、10話前に。
「・・・」
いや、違うぞ。
別に、俺の知り合い?(←綾星が俺の存在を認識しているかは怪しい。お互いに知っているからこその、知り合いなのである)が行方不明かもしれない、と聞いたから、行方不明という単語に敏感になっているとか、そういう訳じゃない。
えっと・・・そう、あれだ。
いくら用事が終わったからといって、何も言わずに帰るのは失礼だろう。
“別れのあいさつ”
別れのあいさつの重要性について、俺は語りたい。
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例えば、友達と遊びに行った時。
家の用事で、周りより早く帰らなければならなくなったとする。
君は友達に何を言わず、黙ってその場を立ち去るか?
別に、そうしたければそうすればいいが、あだ名が幽霊になることを覚悟しておくといい。
そして、少なくとも俺はしない。
友達に迷惑をかけたくないからである。(お前に友達なんているのか? というツッコミにはノーコメントだ)
行方不明ほど心配なものはない。
ましてや、それが自分たちの責任かもしれないとなると、なおさら。
別れのあいさつをただ言うだけで、状況は変わる――ならば、即刻すべきだろう。
「・・・」
とはいっても、集団から1人欠けたことに、案外気付けないのが人間である。
どうやら大勢でなくとも、誰かと話せていればそれで満足らしい。
わずかな減少に対して鈍感なのだ。
まぁ、逆に1人増えているなら、それはそれで怖い。
鈍感さが功を成す、都市伝説のスクエアみたいなシチュエーションである。
スクエア。
雪山で遭難した4人が、山小屋の中をぐるぐる回る、意味が分かると怖い話。
5人いないと不可能だから、1人増えていた!? というものだけれど、俺は小屋の方がいつの間にか三角形に変化していた説を唱えている。
恐怖体験であることには変わりがないので、別にどっちでもいいのだが。
重要なのは、怖いという点についてである。
そんな時でも、興梠は笑って受け流すのだろうか。
「そんなことあるわけないだろ。ただの作り話だって」・・・と。
恐らく、今俺が黙ってここを立ち去っても、そのことに気付かないはずだ。
仮に気付いたとしても、気付かなかったふりをするに違いない。
興梠は、そういう女だ。
だったら安心安心。
今すぐにでも家に帰ろう! ・・・とはならない。
よく考えてみてくれ。
自分が帰ったことに、誰も気づいてくれないんだぞ?
いくら門限が近いからとはいえ、興梠にそう思われるのはしゃくだった。
やはり俺は、別れのあいさつを言わなければならない運命にあるらしい。
何としてでも、別れのあいさつを言わなければ――
「・・・」
・・・ああ、分かってる。
これは言い訳だ。
良くも正しくもない、ただの言い訳だ。
しかしそれでも、俺は聞きたかった。
彼女らの会話を最後まで、聞き遂げたかった。
次回は4月23日の予定です。
『余談:サブタイトルの「言い訳の良い訳」は、ただ単に語感が良かったからです。文中で石黒君も否定していますが、言い訳は良くありません』




