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景観の楽園  作者: 野毛井 九九菜
第1章 行方不明の少女
14/29

14 : 行方不明のその一言

 統治者?


 とうちしゃ、トウチシャ、touchisha・・・


 統べ治める者、統治者。


 統治者?


「・・・?」


 意味がよく分からなかったらしい。

 俺は一瞬で興味が失せた。

 ついでに、少女の用事とやらを聞いていこうと思っていたのだが・・・情けない。

 とはいえ、なんとか管理局の局長、みたいなことを言っていたので、おそらく偉い人なのだろう。


 ・・・どうしよう、セクハラしちゃったよ。

 明日とかに訴えられるのかな。


「あ~、なるほどね」


 身の安全を心配している俺をよそに、興梠(こおろぎ)は何か納得したらしかった。

 折れるんじゃないかという勢いで、首を上下に振っている。


 シュールだ。


「そういえば代替わりしたんだったな。君の母とは知り合いだよ、よろしく」


「・・・」


 話の理解が早すぎる。


「えっと、代替わりしたのはいつだっけ? 1年前?」


「ああ、今月で就任1周年だ」


「そんな記念の月だというのに、今日も朝から仕事とは・・・忙しいねぇ~。いつも辞書ばっかり読んでいる私とは違うよ。君、何歳?」


「12歳。」


「そんな12歳のピュアな悩みと初恋を描いた、ちゃおの人気漫画みたいに言われても・・・。っていうか、えっ? 12歳?」


「そう! 私は12歳。英語で言うと“ツーテーン”。何度も言わせないでくれよ」


 ・・・two teen?


「オイオイ嘘だろ。 じゃあ11歳で統治者に就任したのか? まったく、あのバカは何を考えているのかね・・・」


 興梠が大きなため息をつくと、少女は嫌そうな顔をして、


「興梠君。君は知っていると思うが、その話については・・・」


 興梠をにらみつけた。


「ああ・・・そうだったね。君の母についての話は、もうしない約束だ」


 もうしない約束らしい。


「それにしても1年前か。私は一体何をしてたっけ。全然覚えてないや」


 ウソつけ。

 毎日俺と雑談をしてたじゃねぇか。

 ふざけるな。何1人で忘れてんだよ。


 ――と、心の中でツッコミを入れていた俺だったが、別にヒマという訳ではなかった。

 そもそも、俺が神社へ来たのは、“統治者”と名乗る少女と興梠の対面が心配だったからである。

 しかし、今こうして、何の滞りもなく彼女らの会話が成り立っており、するはずのなかった雑談も終えている以上、ここに残り続ける理由なんて特になかった。


 理由どころか余裕もない。


 “門限”というものをご存じだろうか。

 門の限りと書いて門限である。

 休日ならまだしも、平日にはまず決められていないであろう門限だが、俺の場合、1年程前の興梠との出会いから帰宅時間が遅れに遅れ、決められるにいたった。


「じゃあそろそろ本題に入ろうか。統治者とはいえまだまだ小さいから、夜までに帰らないとまずいんだろう?」


「確かに、私としては早く帰りたいところかな・・・って、ん? 今、小さいって言わなかったかい? バカにしないでくれよ! 暗くたって1人で帰れるさ!」


「少女が1人で夜道を歩くなんて、かなり危ないシチュエーションコメ・・・いや、シチュエーションだと思うけどね」


「シチュエーションコメディーって言おうとしたな」


「してない」


ウソである


「まぁ、神社に住んでいる君が言うと、重みが違うね・・・」


 そう。興梠の言う通り、もうとっくに日は暮れ、門限は刻々と近づいていた。

 このまま門限を過ぎると、家の鍵は閉められ、俺にはもうどうすることもできなくなってしまう。


 俺は知っているのだ。最近の鍵は、針金なんかで開かないことを。

 俺は知っているのだ。そもそも家の周りに、針金なんて落ちていないことを。

 俺は知っているのだ。鍵を持った父親の帰りを待つ、虚しさを・・・。


 これ以上はマズい。

 今すぐ家に帰らなければ。


「では早速、本題に入らせてもらう」


 そんな少女の声を耳にしながら、俺は後ろを振り返る。

 家に帰るため、1歩足を踏みだ――


「少女が、楽園に迷い込んだ」


「・・・」


「行方不明だ」


 ――さなかった。

 次回は4月16日の予定です。


『余談ですが、トーチが誇らしげに「12歳!」と言っていたのは、7月6日が誕生日だったからです。おめでとう』

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