14 : 行方不明のその一言
統治者?
とうちしゃ、トウチシャ、touchisha・・・
統べ治める者、統治者。
統治者?
「・・・?」
意味がよく分からなかったらしい。
俺は一瞬で興味が失せた。
ついでに、少女の用事とやらを聞いていこうと思っていたのだが・・・情けない。
とはいえ、なんとか管理局の局長、みたいなことを言っていたので、おそらく偉い人なのだろう。
・・・どうしよう、セクハラしちゃったよ。
明日とかに訴えられるのかな。
「あ~、なるほどね」
身の安全を心配している俺をよそに、興梠は何か納得したらしかった。
折れるんじゃないかという勢いで、首を上下に振っている。
シュールだ。
「そういえば代替わりしたんだったな。君の母とは知り合いだよ、よろしく」
「・・・」
話の理解が早すぎる。
「えっと、代替わりしたのはいつだっけ? 1年前?」
「ああ、今月で就任1周年だ」
「そんな記念の月だというのに、今日も朝から仕事とは・・・忙しいねぇ~。いつも辞書ばっかり読んでいる私とは違うよ。君、何歳?」
「12歳。」
「そんな12歳のピュアな悩みと初恋を描いた、ちゃおの人気漫画みたいに言われても・・・。っていうか、えっ? 12歳?」
「そう! 私は12歳。英語で言うと“ツーテーン”。何度も言わせないでくれよ」
・・・two teen?
「オイオイ嘘だろ。 じゃあ11歳で統治者に就任したのか? まったく、あのバカは何を考えているのかね・・・」
興梠が大きなため息をつくと、少女は嫌そうな顔をして、
「興梠君。君は知っていると思うが、その話については・・・」
興梠をにらみつけた。
「ああ・・・そうだったね。君の母についての話は、もうしない約束だ」
もうしない約束らしい。
「それにしても1年前か。私は一体何をしてたっけ。全然覚えてないや」
ウソつけ。
毎日俺と雑談をしてたじゃねぇか。
ふざけるな。何1人で忘れてんだよ。
――と、心の中でツッコミを入れていた俺だったが、別にヒマという訳ではなかった。
そもそも、俺が神社へ来たのは、“統治者”と名乗る少女と興梠の対面が心配だったからである。
しかし、今こうして、何の滞りもなく彼女らの会話が成り立っており、するはずのなかった雑談も終えている以上、ここに残り続ける理由なんて特になかった。
理由どころか余裕もない。
“門限”というものをご存じだろうか。
門の限りと書いて門限である。
休日ならまだしも、平日にはまず決められていないであろう門限だが、俺の場合、1年程前の興梠との出会いから帰宅時間が遅れに遅れ、決められるにいたった。
「じゃあそろそろ本題に入ろうか。統治者とはいえまだまだ小さいから、夜までに帰らないとまずいんだろう?」
「確かに、私としては早く帰りたいところかな・・・って、ん? 今、小さいって言わなかったかい? バカにしないでくれよ! 暗くたって1人で帰れるさ!」
「少女が1人で夜道を歩くなんて、かなり危ないシチュエーションコメ・・・いや、シチュエーションだと思うけどね」
「シチュエーションコメディーって言おうとしたな」
「してない」
ウソである
「まぁ、神社に住んでいる君が言うと、重みが違うね・・・」
そう。興梠の言う通り、もうとっくに日は暮れ、門限は刻々と近づいていた。
このまま門限を過ぎると、家の鍵は閉められ、俺にはもうどうすることもできなくなってしまう。
俺は知っているのだ。最近の鍵は、針金なんかで開かないことを。
俺は知っているのだ。そもそも家の周りに、針金なんて落ちていないことを。
俺は知っているのだ。鍵を持った父親の帰りを待つ、虚しさを・・・。
これ以上はマズい。
今すぐ家に帰らなければ。
「では早速、本題に入らせてもらう」
そんな少女の声を耳にしながら、俺は後ろを振り返る。
家に帰るため、1歩足を踏みだ――
「少女が、楽園に迷い込んだ」
「・・・」
「行方不明だ」
――さなかった。
次回は4月16日の予定です。
『余談ですが、トーチが誇らしげに「12歳!」と言っていたのは、7月6日が誕生日だったからです。おめでとう』




