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景観の楽園  作者: 野毛井 九九菜
第1章 行方不明の少女
13/29

13 : 統治者の来訪

「あれ? お前、俺のこと覚えていないの!?」


 神社の境内で、俺は声を失った

 ――失った割に、かなり大きな声を出したが。


 そんな俺を、少女は一瞥する。


「いや、誰だい君。見たことがないどころか、聞いたことも匂ったこともないって」


「人は普通匂わないだろうが・・・」


 匂いで覚えられるなんて、どんな人だよ。


 とはいえ、本当に覚えていないらしい。

 ・・・おかしいな。

 俺と半野のコンビなんて、そう簡単に忘れられないと思ったんだけど・・・。


「ほら、俺だよ俺。朝、ゴミ捨て場で会ったじゃねぇか」


「はいはい。オレオレ詐欺なら結構です。だいたい、こんな変態に会ったらすぐ逃げ・・・ん?」


「?」


 ぶつぶつ愚痴を言いながら、俺の両手を肩から剥がしていた少女だったが、急に動きを止めた。


 そして――


「クンクンクン」


「・・・?」


 俺の手を嗅ぎ始めた。


「・・・」


 犬かコイツは。


 朝もゴミ捨て場で寝ていたし、どうも野良犬要素が強いように思える。

 とはいえ、このままだと匂いを嗅いだ後、鼻で笑われるのではないかと怖かったので、さっきまでほとんど空気だった興梠(こおろぎ)に、助けを求めることにした。


「こ、興梠~。ちょっとヘルプ」


「・・・プイッ」


 無視された。

 無視して辞書を読み始めやがった。


 嘘だろ・・・、俺とお前の友情(?)が、辞書に負けたというのか!

 後から聞いたことによると、胸のサイズが年下より小さいことを指摘され、ひどく傷ついたんだとか。


「クンクン・・・ハッ!」


 一方、こっちもこっちで何か感じ取ったらしい。

 さて、俺のことを思い出してくれたのだろうか。


「こ、この匂いは! 君、もしかして今朝の目覚まし時計かい!?」


「えぇぇっ!? いや、俺たちのことを“目覚まし時計”と呼んでいたのも十分ショックだけど、それよりも匂いで覚えられていたことに、人生最大のショックだ!!」


 なんでだよ!

 俺には、魔女の残り香でもついてるのか!?


「俺たち? 違う違う。目覚まし時計と呼んでいたのは君だけで、もう一人の子は“チビ”って呼んでいたんだよ」


「お互い罵り合っていたのかよ・・・」


 言っとくけど、あの目覚まし時計は俺のじゃなくて、半野の物だからな。


「そ、れ、よ、りー。君が興梠のことを知ってたんだったら、どうしてあの時教えてくれなかったんだい! 仲間外れはひどいじゃないか」


「・・・」


「ん?」


 どうしよう。困ったことになったぞ・・・。


「・・・悪いが、その件についてはもう何も聞かないでくれ。今、必死に忘れようとしているところなんだ」


「もしかして“黒歴史”ってヤツ? 黒歴史なんて、そうそう忘れられるものじゃないだろうに・・・」


「黒歴史? 何のことだ?」


「もう忘れてる! 怖っ!!」


「えーっと・・・誰でしたっけ?」


「わ、私のことまで忘れないでよ! 忘れられるのは悲しいよ~」


「もう朝のことは何も聞かないって約束してくれるか?」


「うんうん分かった。約束するよ。私は興梠君との用事に専念することにするね」


「え? あ・・・はい。ありがとう」


 なんだ? 意外とすんなり終わったな。

 どうしようもなければ、鼻からスパゲッティを食べるくらいの覚悟はしていたのだが・・・(俺の知り合いにドラえもんなんて存在しないので自力である)、なんだろう。杞憂に終わった気がする。


 長い間、興梠の雑談に付き合っていたせいで、心が(けが)れてしまったのだろうか。


「他人の黒歴史よりも、自分の用事の方が大切だって気付いたんじゃないか?」


「?」


 振り返ると、興梠がお賽銭箱の上に立っていた。

 そして、お参りの時に鳴らす鈴のひもを握り・・・


「よっと」


 箱から飛び降りた。


 カランカラーン


「実は案外、私が辞書を読み終わったことに気が付いたのかもね」


「・・・」


 また読み終わったのか。

 馬鹿らしくなってきた。もうツッコむ気すら起きない。


「おーい、そこの女の子―。わざわざ来てくれたんだから、用事には一応付き合うけれど、まずは名前から教えてもらおうか。君が誰だか分からないと、話にならない」


「あれ? 母から聞いていないのかい? 1回会ったこともあると思うんだけどな・・・。じゃあ、自己紹介から始めましょうか!」


 少女が興梠に向き直り、胸に手を当てる。


 ぼよよんっ


「私は、楽園管理局第15代目局長、楽園の統治者!」


「・・・」


「トーチって呼んでくれ」


 近年稀に見るドヤ顔だった。

次回は、4月9日の予定です。

頑張ります。

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