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景観の楽園  作者: 野毛井 九九菜
第1章 行方不明の少女
10/29

10 : 雑談 『影』

 興梠(こおろぎ)が辞書をめくり、適当なところで手を止める。


「『影』と出た」


「・・・」


 雑談開始

 ここに来て、やっとの雑談だった。

 まったく、俺たちは今まで何をしてたんだか・・・。無駄な話が多すぎるだろ。


「いや~、私たち、ぐだぐだコンビですから」


「何の言い訳だよ。あと、俺を一緒にしてんじゃねぇ」


 無駄話の方ではなく、ぐだぐだコンビの方である。


「愚かだけに、“()()だ”」


「上手いこと言うな!」


 確かに、さっきの俺たちは愚かだったけれど!


「っていうか、仕方ないだろ・・・。俺はこの章のタイトルに合った方向へ、話を持っていこうとしただけだ」


「いらないんだよ、そんな心遣い。お前は主人公だから、勝手に生きてりゃなんか起きるって」


「ド正論だ・・・!」


 お前がそれ言っちゃうの?


「ところで石黒、影って何か分かる?」


「?」


 あれ? 説明してくれないの?

 いつもみたいに、自分で説明するのかと思ったら・・・珍しい。


「え~っと・・・何だっけ」


「・・・」


「影って言ったら、あれだろ。光に照らされていない部分が、暗いまま残るっていう・・・。あっ、ほら、今みたいに」


 俺は、自分の影に目を向ける。

 今日は快晴。

 明日も快晴。

 沈みかけた夕陽が、一層影を大きくしていた。


「そう、お前の言うとおり、影は、物が光を遮った時にできる、黒い像のことだ」


「・・・」


「でもそれは、影の話だよな」


「?」


 影の話・・・? 

 今しているのは、影の話じゃないと言うのか?


「違う違う。私が言いたいのは、“かげ”は影だけじゃないということだよ」


「・・・?」


「影にもいろいろな意味があるし、他にも、陰、鹿毛、嗅げだって・・・」


「・・・」


 かげ、かげ、かげ?


「説明の途中で悪いが、俺達は別に、紙を持って話し合っているわけじゃないから、漢字で説明されても分からないぞ」


「神社なのに、紙がないのか?」


「ないんだよ、残念ながら」


 紙もなく、神もない。


「それは残念だ・・・」


 興梠が悲しそうにうつむいた。

 仕方ないよ。

 この神社古いもん。


「っていうか、最後の2つは何だよ。明らかに違う何かなんだけど・・・」


 鹿毛、嗅げ。


「いや、ちゃんとわかってるじゃん」


「読者の目線で見た」


「お前はこの世界を超越した何かか?」


 ちなみに・・・、

 ・鹿毛…馬の毛色の名前。決して鹿の毛ではない。

 ・嗅げ…俺に何を嗅げと言うんだ。(鹿毛でないことを願いたい)


「ここからは、もう分からないみたいだな。じゃあここからは私が説明するよ」


「ああ、頼む」


「頼まれた。『影』。さっき話した様に、投影といった意味もあるが、他にも多くの意味がある」


 ずっとお賽銭箱に座っていた興梠(痛くなかったのだろうか?)が立ち上がって、話を始めた。


「そもそも影が、必ず黒いとは限らないだろ?」


「限らないのか?」


 白い影? 赤い影? あるいは茶色い影?

 しかし、今この目に映るのは、自らの黒い影だけだった。

 ん? 映る?


「あ・・・! 影か!」


 そう。僕の目に映っていた物こそ、影。


「おっと。自分で気付いたんだったら、その説明はもういらないかな。うん、お前の言う通り、影には、水や鏡などに映った物、という意味もあるんだ」


 興梠が地面に目を向ける。

 今日は快晴。

 昨日は雨。

 夕陽に照らされた雲が、水たまりに影を落としていた。


「まぁ、実体のないもの、という意味では、どちらも同じようなものなんだけどね」


「・・・」


「幻影、とでも言っておこうか」


「幻影?」


 幻の・・・影。


「はい! ここテストに出るから、ちゃんと覚えておくこと!」


「やばっ! 早くメモしとかないと! ってテスト・・・?」


 え・・・、何それ。


「お前、テストの意味も知らずに、テスト7点だ~やった~ラッキーセブン~♪、とか言って騒いでいたのか?」


「そんなことをした覚えはない」


「じゃあ何の話だよ」


「なんでお前の話がテストに出るのか、って話だよ!」


「おいおい、逆ギレはやめてくれって・・・。思春期だね~」


「お前のせいじゃねぇか!!」


 こんなことで思春期とか言われてたまるかよ!

 ふざけんな!


「そういうとこだよ、思春期って言われるのは・・・(ボソッ)」


「最後に(ボソッ)って付けても、全然聞こえてるからな・・・」


 読者の目線で見たわけではない。

 興梠が自分で(ボソッ)って言っていたのだ。

 馬鹿なのかな・・・こいつ。


「なんで、私の話がテストに出るかって?」


 いろいろ面倒くさくなって、話を戻したらしい。

 興梠が少し歩き、狛犬に寄りかかる。


「それはね・・・人生っていうものが、それだけでテストみたいなものだからだよ(バーン!)」


「・・・」


 ドヤ顔をされた。

 もちろん、(バーン!)も自分で言っている。

 なんか、急に大人になるのが怖くなってきたぞ・・・。もう一生、思春期のままでいたい。


「それっぽく言ってるけど、普通に意味不明だからな・・・」


「じゃあ次は『陰』についてだ」


「まだあるのか!?」


 女の子は、未だ来ず。

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