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ホラー完結シリーズ「ふしぎっぎ!!」第6作目です。
よろしくどうぞ。
僕は、特別な用事がない限り、いつも決まった日常を過ごしている。
毎朝6時30分に起きて、妻の弁当を作る事から僕の一日は始まる。
7時、夢うつつで寝ぼけまなこの娘を抱いて、妻が起きてくる。
娘のオムツを妻が替えている間に、僕は僕たちの朝食と娘の朝ごはんを用意する。
娘の朝ごはんの前に、妻が出勤する。
僕の作った弁当を持って、僕と娘を食わす為に妻は働く。
娘の朝ごはんが終わると、娘をしばし教育テレビにお任せして、僕は掃除、洗濯、昼食作りとあくせく動く。
それから娘が眠くなるまで少し遊ぶ。
寝相の悪い娘が大人ベッドでゴロゴロするのを横目に見ながら、僕は資格の勉強をする。
娘が起きると、昼食まで少し遊ぶ。
1歳も半年が過ぎた娘はずいぶんと成長して、最近はイタズラに対処するので精一杯だ。
上も下も歯が生えて、歯茎もしっかりした娘は僕と食べ物の好みが似ている。
今日のお昼は唐揚げとお子様ラーメン。夢中でもぐもぐ食べる娘の成長を噛みしめながら、めちゃくちゃになった床を掃除して、ようやく僕が昼ごはんを食べる番。
戸棚の本を全部出してはぐちゃぐちゃにする娘の気を逸らすのに幼児向けのDVDは効果絶大だ。
それを見せながら、スマホ片手に昼ごはんを食べる。
見ているのは、主に巨大掲示板のまとめサイト。
ジャンルは問わない。
事件、事故、ゲーム、アニメ、政治、生活。
目に付いたもの、片っ端から読む。
最近はツイッターというものにも手を出した。
この一時間にも満たないほんの僅かな外との繋がりこそが、家に引きこもって育児に明け暮れる僕の唯一の息抜きだった。
行儀が悪いといつも妻に怒られるけれど、なかなかやめられない。
ふと、とある記事に目が止まった。
『性の六時間に、正拳突きを行う漢達』
「性の6時間」とは、12月24日の午後9時から翌25日の午前3時までの6時間、海外では家族で過ごす時間であるはずのクリスマスイブに、日本だけは恋人同士がイチャコラと文字通りの「正拳突き」をしている人達と時間の事を云う。
そして、不純異性交遊男女を正す為に漢達が立ち上がり、人目を惹く公園や広場などでひたすら「正拳突き」を繰り返す勇者たちの汗と涙とスレッドと感動の物語が毎年、何処かで行われるのをご存知か?
元ネタは2010年のスレッドから始まり、リアルタイムでその様子を見ていた僕は当時はお仲間だったので他人事とは思えず、妻を得た今でもこっそり勇者たちを応援している訳なのだが。
年々規模は縮小されていたが、未だに勇者たちはこの活動を続けているらしくて、僕はふっとあの最高に盛り上がった2010年を思い返しては感慨に浸るのであった。
ふと、思い出す。
僕の話を聞いて貰えないだろうか。
娘が絵本に夢中になっている間に。
僕の体験した、ちっとも怖くはないけれど、ほんの少し日常から外れたお話を。