07話 勇者が嫌われた理由
「事情は誰も知らないけど、勇者クランのメンバーで見ていた人も多いし、起きたことは国に報告されたわ」
事情を誰もしらない? エヴァ達も知らないってこと?
「その結果、国からは辺境伯という破格の地位をもらった一方で、魔法にたよっていた貴族や商人の恨みをかうことになったの」
エヴァが説明を引き継いでくれたのでアルマは桟橋に座って足で水をチャプチャプさせている。急いでいたのと違うのか。
「え、さっき追われていたのは恨まれたせいなの?」
「彼らはアルマの命が欲しいわけじゃないの。欲しいのは辺境伯の飛び地領で、その権利書をおどしとろうとしてたのよ」
「飛び地領ってなに?」
ちょっと専門用語がとびかってるよ。トビトわかる?
「魔法に頼った経営をしていた貴族や商人はそれが無いと破滅する、とあせっているわけだ。辺境伯は国境を守る義務の代わりに港のような魔法文明がなくなっても成立する税収が高い土地を持っている。彼らは恨みもあるけれど、結局その土地が欲しいのさ」
な、なるほど?
エヴァがちいさな肩をすくめた。 呆れられたっぽい。
「あんまりよくわかってないみたいね。まあ今は気にしないでちょうだい。とにかく、アルマが世界樹を倒した事に怒ったメンバーが出て行った事でクランは解散。手の内を知る彼らがそのまま反アルマ陣営に入ったせいでピンチだったの。さっきの奴らが多分最後だけど、伯領首都メノスに入るまで油断できないわ」
なるほど、急がなきゃいけない状況なのはわかったよ。
「ルカに来て欲しい理由についてだけど、さっき君が自分で言った通りだ」
トビトが甲冑を整える手をとめてこちらを見る。
…………。
「君は三下と呼んだけれど、さっきたおしたのはシメオン男爵麾下の騎士団長と副団長だよ。君はマナを潤沢にもつ高位の魔法使いの魔法を正面から受け流して一撃でしとめた。君くらい素早く動いて近接戦闘をする射手もいるけど、彼らの動きは魔法系スキルによるものだからそのうち使えなくなる。つまり近接戦闘は君の独壇場になるんだ。四面楚歌の項羽になったアルマを救えるのは君しかいない」
…………。
「以上が状況と勇者パーティがあなたを欲しがる理由よ。私達はこれからまだまだ残っている魔王領の諸侯連合じゃなくて王国領の諸侯連合。つまり内戦をすることになるわ。それでも一緒に来る?」
「うん」