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25話 月夜の茶会

 テーブルを挟んだ向かいに座るシータはカップを顔に近づけて、優雅にハーブティーの香りを楽しんでいる。


 もちろんシータが一人でお茶を飲むはずもなく、私の前にも月を包み込む、繊細な薄い花びらを重ねたようなカップが置かれている。

 

 このまま飲めば月も飲み込めないだろうか、などと現実逃避をしてみるけど、そんな都合のいい話はなく、私の唇から逃れるように月はその姿をくらましてしまった。


「あ、これハイランド・エルダーがはいって……ますね」


 いともたやすく何も無い空間の狭間からティーセットを取り出し、たちまちに夜の茶会を用意してしまった女の人にどう話しかければいいのか。思わず丁寧語になるのはしかたない。


「急にかしこまらなくていいのよ? 仲良くお話するのに敬語じゃ窮屈でしょう?」


 困ったような眉根すら威嚇に見える自分をもう少し客観的に見てほしい。あとあなたこそ丁寧語……いえ、突っ込みませんすいません。


「ええと、じゃあ、シータは私たちと同じ転移者、っていうことであってる?」

 たぶんそうだよね? 実は神様、とかじゃないよね?


「そうね、日本人よ。転移のタイミングはだいぶ違うけど」


 よかった。この世界に転移しても、クラスメイトの姿形は変わっていなかった。

 なのに目の前のシータは銀髪。

 今言ったとおり、神様に転移させられた時の仕様が違ったんだろうね。ちょっとうらやましい。


「じゃあこの世界ってゲームの世界なの? さっきタミラがシナリオとかルートに入るとか、あれって多分ゲームの話だよね?」


 そうじゃなければタミラは自分の中の勝手なゲーム設定を周囲に押しつけていた、相当イタい転移者という事になるんだけど。


「そうね。乙女ゲーというのかしら。タミラがヒロインでシータが悪役、というパターンだったんでしょう。私はやったことがないから知らないわ」


 シータはそういいながらポットをとりだして二杯目を注ぐ。


 ん? 知らない?

 創作の乙女の転移転生ものはゲームの世界観やシナリオを知っているというのが最大のチートじゃなかったっけ? そこからいかに外れて好きに生きるかがお話の要だったと思ったんだけど。


「ゲームの展開がわからないのによくうまく立ち回れたね。そういう特殊系スキルでももらったとか?」

 

 未来視とか、そういうチートをシータがもらっていてもおかしくはない。


「そうね。最終的にもらったといえばもらったかしら。でもうまく立ち回ってはいないわね。最初はここがゲームの世界とすらわからなくて、オロオロしているうちにご乱心扱いされて南方諸島の修道院に押し込められることになったもの」


 それ、もうお話的に悪役令嬢は退場コースなんじゃないかな? 

 退場したと見せかけて復活とか、乙女ゲーじゃなくてホラーゲームじゃない?



 ……ほんとそれ、ホラーじゃない? この世界ってアンテッド系魔物普通にいるんですけど。


「……そこからよく戻ってこれましたね」

 いやな予感がするなぁ。


「そうね」


 いやな沈黙が続く。バルコニーを照らしていた月明かりは途切れ途切れに流れる雲で遮られ、シータの顔は影の中に沈んでいる。


 いや、これもう明らかにホラーじゃない! だってさっきから”そうね”ばっかり言ってるし!

 魔物として戻ってこられても困るって言うかロレンツォ節穴っていうか、とにかく魔法使えない私ピンチ!


「……ルカさん」

「ひぃ!」


 おもわず顔を上げると、ちょうど再び現れた月の光の下には魔物とは思えない人間らしい笑顔があった。


「大丈夫よ。私レイスやバンシーじゃないから」


 シータはいたずらが成功したかのようにクスクスと笑っている。嘘か! なんだよもう!


「この世界というゲームを百周しただけの、ただの人間だから」


 ……いやな沈黙ふたたび。


 私知ってる。こういうの二番底っていうんだよね?









シータ  :二段オチね

マリコ  :二番底は経済用語

ルカ   :ぐぬぬ



だいぶ時間をあけてすいません。まだまだ頑張りますのでよろしくお願いします!


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