01 魔王が討伐された日
白い雲とも霧ともつかない塊が、白い雪に被われた北の尾根にぶつかっては流れていく。
空は青く、ヒバリやツグミに似た鳥が白樺の木々の上を飛び回っている。
四季は巡るけど、ここは来たときと変わらずきれいだ。
私が転移者という肩書きを捨てて逃げこむ前からきれいで、この後もずっときれいなままだろう。
……~~♪
アスパラガスの添え木をなおしていると、タモの木の枝に引っかけておいた魔導具のラジオからこの国の国歌が流れてきた。
いつもなら王都の歌姫ライブが始まるんだけどな?
今日祝日? こんな山奥で趣味のスキル伸ばしばっかりしてると休日とかイベントとかわからなくなる。
あ、今なんかスキルが上がった気がする! 多分農業系のなにかだ、よしっ!
やっぱり基礎スキル”身体強化”があるとちがう。
元々体力には自信があったけど、こっちに来て身体強化スキルを手に入れてからは次元の違う動きが出来るようになった。
スタミナを気にすることなく、モクモクと作業ができるからいろんなスキルが伸びてくれる。
もうこれは”身体系スキル研究家”とか名乗って良いんじゃないかな?
魔法系のスキルと違って役に立たない身体系スキルは伸ばす人自体いないから需要があるのか疑問だけど。
「魔王なんて倒してる場合じゃないよねー。こっちは畑の雑草踏み倒すので忙しいっての。ははっ」
魔法が使えない私じゃ魔王どころか魔族の男爵にすら余裕で負ける。
だから私は転移者なのにクランに参加できなかった。
魔王を倒すために結成された勇者クランは実力主義だ。転移者のほとんどが入れたのは強かったからで、転移者だからじゃない。
王都を離れてこの辺境に来たときは正直へこんでいた。
でも今では日々なんでも自分でやって、いつの間にかスキルが増えていくこのスローライフが割と気に入っている。
もしクランの人達が魔王を倒したら世界ってどうなるのかな?
他の参加者はわからないけど、少なくともアリマ君は勇者なんだから当然叙爵とかされちゃうよね。
そしたらもう背中すら見られないなぁ。
王都で一緒だった頃から公爵侯爵伯爵のご令嬢にガードされて見られなかったけどね。
アリマ君達今どのあたりまで進んでるのかな? 本拠地に突入したって報道した後全然ニュースが流れなくなって不安なんだけど……
ラジオから流れる国歌はいつの間にか止んで、誰かが何かしゃべってるな……あ、大臣さんだこの声。
「……魔王との戦闘において……」
――――!!
ラジオに飛びついて耳をスピーカーに押し当てる。鼓膜? しらない、きこえてるから問題ない。
「……報告を受け派遣した騎士団の調査により、アルマ=シラスナをはじめとする勇者クランの働きで魔王が討伐された事が確認された。なお、団長を務めるシラスナ以下、子息令嬢は検査の結果心身に以上はみられなかった」
「……っはぁぁぁぁ~」
アリマ君の名前が出てから最後まで息がとまっていた。前のめりに土に倒れ込む。
「無事、よかった……やった、ねぇー」
息も絶え絶えになりながら気持ちを口に出すと、こんどは叫びたくなった。うぁぁ、よかった、よかったよぅ。
しばらく芝生の上を転げ回ってようやく冷静になった。
でもなんで大臣さんお通夜なの?
さっきから戦後処理についてはなしている大臣さんの暗い声のトーンが気になって仕方ない。
「あー、オレオレ。これからやっべぇ発表すっから聞き逃すなよ?」
急に若い男の声が割り込んできた。ムゼル陛下かぁ。なんか一気に冷静になった。
陛下、重大なことならそんな雑な口調で話さないで欲しいんですけど?
おもわず眉間にしわが寄ってきてしまう。
「魔王が戦いの最中に世界樹吹っ飛ばしちまった。仕組みとか知んねーけど、そのせいでどこの資源プラントでもマナがたまんねーんだわ」
後ろで大臣さんがなんかいってるっぽい。相変わらず苦労してそう。
「まとめっとぉ、今ため込んでるマナ使い切っちまったら、もう誰も、どの種族も、魔法がつかえなくなる。覚悟しとけー」
だから、雑だってそういうの!
肉体派ヒロインが国中に散らばった悪役令嬢を斬っていくという話に挑戦してみます!
※ 斬るというのはやっつけるという意味であって必ずしも殺すという訳でも意味深いアレなわけでもありません
ノクターンでパラレルな展開をする予定もありませんのであしからず。
それ以外で展開にオーダーがあれば可能な限り対応します! 感想欄から是非どうぞ(誘導
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