軍を辞めた俺は…
俺には妻がいる。大事な大事な妻がいる。妻の頼みは断われない。
俺は昨日、5ヶ月ぶりに帰宅した。理由はただひとつ、戦争中だからだ。
国を守る役目がある以上、そう簡単に家へは帰れない。帰りたいなら戦えと上官は口を揃えて言う。
俺は帰りたいがために、敵陣をひたすら走った。
そして戦争が静まってきて、ようやく2日間だけ自由時間が与えられた。
戦場から家まで軍用車で四時間かからないくらいだ。
俺は早く帰りたいのでビュンビュン飛ばした。家に帰れてもそう長くいることはできない。
それでも、一刻も早く妻に会いたい。時間なんて関係ない、そう思っていた。
しかし、妻は違った。
「ただいまー」
玄関の扉を開けて、懐かしい家の中をぐるりと見回した。
「おかえりなさい!」
開口早々飛びつき、慌てて俺は抱き上げる。
まだ結婚1年目だが、実質3日しか会ってない。
妻はいっこうに離す気配はなく、俺を抱く力はみるみる強くなっている。
苦しい…。
と俺が心の中でもがいていると、妻は声のボリュームをかなり下げてこう言った。
「これから先もこんな生活が続くなら、離婚しましょう」
さっきまであんなに喜んでいた妻が、真顔になった。
かなり本気な様子だった。
この国の軍隊の収入はかなり多い。下兵でも月40万、俺は遊撃隊隊長であり位はだいたい中将くらいだ。
家に帰りたくて必死に戦っていたら凄まじい戦果をあげていたらしい。
その結果、昇格に昇格を重ねて今の位に就いた。
あ、そうそう俺の月収は250万くらいだ。まだ中将になったばかりなので少ない方である。
同じ中将の大先輩は俺の倍くらいもらってるんじゃないかな?
妻は、本気で離婚しそうだったので俺はすぐに決意した。
「わかった。やめるわ」
俺がそう言うと、妻は
「大好き!!」
と叫び、口づけを交わした。
なんて可愛いんだ…。
海を想像させるような蒼い髪色、肩に届かないくらいの長さのショートカット、緑に染まった瞳は見ていて吸い込まれそうなくらい美しい。
そして可愛らしく、しかし色気がある笑顔は、いつまでも見ていられる。
「お金はもういいの…。収入は大幅に減るけど、会えないのは寂しい…。だから安くてもいいから、毎日安全に家に帰れる仕事をして」
口づけを終え、俺の首に腕を巻きつけたままの状態でそう言った。
俺は妻に、こんな辛い思いをさせてしまった。
しかもそれに気づけなかった。これは重大なミスだ。
これからは家にいよう!仕事を探すのに時間はかかるかもしれない…。
でも、金ならある。多くは無いが、少なくとも3年は軽く贅沢できる。
「辞表を書く。そんでそれを明日、向こうに着いたとき、渡す」
妻はコクリと頷き、頬にもう一度キスをすると、キッチンへと歩いていった。
その後俺はシャワーを浴びて妻の手料理を食べた後、妻と夜中までイチャイチャして寝た。
翌朝、早めに起きた俺は、まだ妻が寝ている中辞表を書くことにした。
正直書き方がよくわからないが、丁寧に書いておけばいいんじゃないかな…。
―辞表は約20分程で書き終えた。その間に妻は起きて身支度を整え、朝食を作る準備をしていた。
飯ができるまで暇だった俺は、散歩にでも行こうと思ったが、思っただけで行動しなかった。
要はうたた寝してた。
せっかく妻と一緒にいれる時間を散歩なんかで無駄にする訳にはいかないしな。
デートなら別の話だが…。
そんなこんなで飯ができた。俺は西洋の飯よりこっちの飯の方が好きだ。
パンは月1くらいしか食べない。
それについては妻も同じなようで、あまりパンは食べないようだ。
これから軍に戻って辞表を出してくるのが1番の目的だ。
なんか勲章の授賞式みたいなのが近々あったが、別にいらないしゴミが増えるから行かないくても何ら問題ない。俺は←ここ重要。
妻と他愛のない話をし、俺は軍の本部へ辞表を届けに向かった。
不思議な事に、妻と一緒にいられるというだけで足どりが非常に軽い。
とはいってもバスの停留所までだが。停留所は家から徒歩およそ3分。
そんな近場に足どりが軽いもクソもあるかってんだ。
何自分に突っ込んでんだ。
とそんなように頭の中でアホみたいな事をしているぐらい俺には余裕があった。
バスで本部までおよそ15分弱かかる。
今日はスーツを着ている。軍服ではなくスーツだ。
これから辞めるのに軍服を着るのは少し矛盾しているように思えたからだ。
それに戦地ではなく、本部だからな。普通にでかいビルだ。
なんだかんだ言って本部にはあまり来たことが無いので、未だに道に迷う。
俺は一応中将なので、辞表は元帥に提出しなければならない。
元帥は誰だっけ?名前を忘れているが、顔は覚えているから問題ない、はず…。
元帥がいる部屋は、たしか11階のどこかだったはず…。あ、あたってる。
案内図に載ってた。
元帥がいる部屋は、会社でいう社長室のような感じだと思う。
ドアをノックし、自己紹介をすると
「―入れ…」
と低い返事が返ってきた。
俺は元帥が座ってる机の上まで近づき、その間に内ポケットから辞表を取り出した。
机の前に立つと同時に、
「辞めさせてもらいます」
と言い、辞表を出した。
「えっ?えっ…?どうした急に…」
凄く戸惑っているが、もういちど繰り返して、
「辞めます」
と言って、部屋を出た。
よし、作戦成功。何も言う前に気迫だけで迫り、自分が主導権を握ることだ。
俺は軍を辞めた。
これで妻と二人きりだ!
カクヨムにて連載中