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死神の箱庭  作者: 北海犬斗
復仇刃
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連鎖する憎悪

 廃ビル内の備蓄物資保管庫にて。

 静かに、身を震わせる一体の死神がいた。


 彼の名は、”ムシ”。

 今や『死神ギルド』真庭支部唯一の生き残りであり、『死神喰らい』の右腕として名高い死神だ。


 糸目の仮面をかたかたと揺らしながら、ムシは忌々しげに呻く。


「グギッ……。 なんだ、なんなのだあの死神はッ!」


 日本刀を振るい。

 あろうことか無双する死神など、これまでに見た事も聞いた事もない。

 そして何より。

 自分をのぞいた人員を容易く(ほふ)られる光景は、まさに地獄絵図と言う他なかった。


 敵の目的は不明。

 しかし、ギルドへの報復行為であるのなら他の支部が危うい。故に、日本刀の死神の存在を、至急『死神喰らい』に伝えるため、ムシは尻尾を巻いて保管庫に逃げ込んだ次第である。


 この保管庫は全方位に扉がなく、下の階からハシゴを登らなければ入れない。

 加えて、ハシゴの存在が見つけにくいので、敵をやり過ごすには最適の隠れ家であった。


 身の安全を確保し、一息ついていた矢先。

 背後に鮮烈な殺気が走って振り返る。


「——ば……か、なァ!?」


 それと同時に、ムシは恐れおののいた。

 まるで豆腐のように。コンクリートの壁がふにゃりと切り刻まれて、音を立てながら崩壊する。

 土煙の向こう側に立っていたのは、やはり日本刀を握るムサシと、髑髏の仮面を嵌めた友恵。


 刀を振るって無双し、次はコンクリートをなます切り。

 この死神はどこまで規格外なのか、とムシは愕然とした。


「アンタがここの頭ってやつ?」


「……いかにも」


 逃げ道をふさがれて観念したムシは、および腰で友恵と対峙する。首を頷かせると続けて問いを放った。


「ひとつ聞いても良いか女よ。お前は一体何が目的だ。遊ぶ金でも欲しいのか……それとも、我々への報復か」


「……はぁ? お金とか()()()()とか興味ないし、勝手に話を進めないでよ。私たちは取り引きをしに来たの」


「取り引き、だとォ?」


 友恵の言葉にムシは首を傾げさせる。


「アンタらはさ。いろいろな悪事の他にも、情報の売買をやってるんでしょ? ……なら、私の欲しい情報をちょうだい。もちろんタダでね」


 友恵は手のひらを突き出して、あっけらかんと言う。

 対するムシは、思わずと言わんばかりに目をひん剥いた。


「こちらの貴重な人員を斬り刻んでおきながら、その上タダで情報をよこせ!? 舐めるなよ小娘!! その要求を吞めば、『死神喰らい』に殺されてしま——!?」


 息を荒げて言いかけていた矢先。

 音もなく接近したムサシによって、喉元に剣尖を突き立てられる。

 たちまちに、ムシの憤りは断ち切られた。


「だーから、勝手に話を進めんなっつーの。言ったでしょ、これは取り引きだって。 ……アンタが情報をくれるんなら、代金のかわりに命を助けてあげても良いけど?」


 乱切りにされたコンクリートに腰を下ろしながら、友恵はため息混じりに(うそぶ)いた。


「選びなよ。今死ぬのか、少しだけ生き延びるのか。ま、死ぬって言うんなら他をあたるだけだしさ」


「こ、小娘風情がッ……!」


 恨めしげに喉を唸らせるムシの心臓は、今や鷲掴みにされたも同然であった。

 解放するも握り潰すも友恵次第。


 年端もいかぬ少女の手のひらの上で、異形の存在である自分が(もてあそ)ばれている。

 その事実を認識するだけで、はらわたが煮えくりかえる思いであった。


 しかし、そんなムシの纏うローブの内側。彼には通常の腕に加えて、肩甲骨から伸びるもう二本の腕が存在した。いわば、奥の手。


 計四本の腕に、二本の脚。

 この奇怪(きっかい)な全容が、ムシという異名の由来であった。

”隠し腕”を巧みに操って、予想外の奇襲を繰り出すのが彼の真骨頂。

 奇襲戦で数多(あまた)の死神を葬った実績により、『死神喰らい』の右腕という名誉ある地位を築いたのだ。


 なればこそ。

 眼前に佇む憎っくき死神に、せめて一太刀浴びせてやろうか。

 思考をフル回転させて、得意の奇襲を企てるムシではあったが、


「……どうした。隠している腕があるのだろう? そら、出してみると良い」


 ムサシの冷徹な瞳に見下ろされて断念した。


「最も。その薄汚い腕をわずかにでも動かせば、首が飛ぶと覚悟せィ!」


 この死神には、すべてを見透かされている。こちらの思惑も、隠している腕も。

 無駄なあがきをしたところで、次の瞬間には剣尖が喉を貫通するに違いない。


 ここで無駄死にするのであれば。

 少女の要求する情報を無銭で明け渡してでも、解放の道を選ぶべきだ。

 そうした上で、今回の件を『死神喰らい』に伝える事こそが、ギルドにとって最善である。


 そう思い至り、ついに観念したムシはこうべを垂らした。


「女よ……お前の要求する情報とはなんだ。言え」


 尻あたりについた砂埃を払いながら、友恵はおもむろに立ち上がる。

 子鹿のような脚でゆったりと歩き、ムシへと距離を詰めると、一度深呼吸をした。


 次の瞬間には、美麗な気風はなりを潜める。復讐鬼さながらの、抑えきれない殺意を全身から放って口を開いた。


「……『死神殺し』の戦闘能力。『死神殺し』の弱点。あとは、『死神殺し』の潜伏先」

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