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死神の箱庭  作者: 北海犬斗
堕胎ノ警鐘2
25/74

邪魔者

 本日も快晴なり。

 青空の下、私達は声を揃えていただきます、と食材となった命への感謝の言葉を述べる。

 春野を交えてのお昼ご飯は、これで二度目。今回は、茉瑠奈の提案によって催された。

 茉瑠奈は昔から引っ込み思案で、ちょっと気の弱い子なのだと思っていたのだけど、春野の件になるとやけにグイグイしている。ダイエットの件でもそうだが、実のところ強い芯を持っているのだろうな、この子は。


「……春野くん、またパンとお茶だけ?」


 茉瑠奈は、少し驚いたような表情で、質素な昼食に視線を落とす。


「あはは……今日は弁当を作ってこようと思ったんだけど、つい寝坊しちゃってさ」


 春野はそう言うと、情けなさそうに頭を掻く。


……この前の体育の授業以来、自分だけ変な気まずさを感じていた私は、春野とまともに会話をしていない。

今は顔を合わせる事自体、なんだかイヤな気分。

 本音を言うと、今回のお昼ご飯も断ろうと思っていたのだ。

 ただ、そうすると茉瑠奈と春野に不信感を抱かれてしまうだろうし、何より春野を避けているようで申し訳ない気持ちになる。

なので渋々来てみたものの。


 うーむ、どうやって会話に入ろうか?


 今まで当たり前のようにできていたことが、不思議とできないもどかしさ。

 ああっ、一体全体どうしてしまったのだ?私はっ!

 情けないけど、自分の感情が自分で理解できない。

 とにかく、平常心。平常心で、落ち着いて会話にとけ込めばいいのだ。

簡単簡単。


「あっ、あんたー、えっと、男なんだから……もっと、食べなさいよ」


 噛み噛みな上に、違和感丸出しな言葉。

これじゃ、大根役者よりも大根だ。

 必然的に、二人の視線がこちらに集中する。


「……と、友恵?」


「狭山さん、どうかしたの?」


 キョトンとした顔でこちらを見る春野に、私は無性に腹が立った。

どうして私はムズムズした気持ちになっているのに、あんたは平然としているんだっ。


「い、いやー、なんでもない!それより、早く食べようよ!」


 この気まずい空気から抜け出そうと、私はお弁当箱の蓋を開ける。

いの一番に大好きな唐揚げを口に放り込むものの、最早唐揚げの味すら感じられない。


「ふふ、今日の友恵なんかへん」


 それに続くように、茉瑠奈も蓋を開け、春野はパンを一口かじった。


「こんな狭山さん、初めて見たよ。明日は雨でも降りそうだね」


 二人は顔を見合わせて、笑いあう。

 お前のせいだ、お前の!

 白米を口にかき込み、心の中で叫ぶ。


「春野くん、今日もお弁当作り過ぎてきちゃったから、遠慮しないで食べていいよ?」


「えっ?いや、この前はお言葉に甘えさせてもらったけど、何度もっていうのはさすがに悪いよ……」


「ううん、そんなことない。食べて?」


 こいつ、一度ならず二度までも。

 校内の茉瑠奈ファンがこの光景を見たら、血涙を流して羨むのだろうな。そのまま、呪い殺されてしまえばいいのに。

 それにしても、最初は緊張気味だった茉瑠奈も、だいぶ自然体で春野と話せているようだ。


「春野くんは、お休みの日とかはいつも何してるの?」


 茉瑠奈は春野用の箸を渡して聞く。


「休みの日かぁ。散歩をしたり、絵を描いたりするくらいかな」


 なるほど、絵を描くのが好きだったのか。それなら、この前の美術での実力も納得。


「あ、春野くんは絵を描くのが好きなの?私もなんだぁ。

こう見えて、美術部なんですっ」


 何故か、えへんと茉瑠奈は胸を張る。


「そうなのか。でも、俺は気分転換がてらに描くような趣味程度。美術部に入ってまで絵を描こうとは思わないから、すごいと思うよ」


 お互いの共通点を見つけて、会話が弾んでいるようだ。

 二人とも楽しそうで、入って行く隙間がない私は黙々とお弁当を食べる。

 そして、ふと思った。このまま二人が順調に進展したとして、茉瑠奈と春野が付き合ったとしたら……橋渡しとして存在していた私は、いずれ必要のない邪魔者でしかないんだ。

それはなんだか、寂しくて、胸が苦しくて。

 でも、それでも、いずれその日は近い内にやって来るのだろう。

そうしたら、私は文字通りの一人ぼっちなわけか。はは、笑える。


「それでね、今度の日曜に、駅前まで画材を買いに行こうと思うんだけど……春野くん、日曜は予定ある?」


「いや、ないけど?」


「あのっ……」


 茉瑠奈は一度言いかけて止め、しばらくして決心を固めたのか、春野をまっすぐに見据えて言う。


「よかったら、春野くんも一緒に来て欲しいな。お買い物が終わったら、駅前でぶらぶらして……どうかな?」


「……せっかくのお誘いだし、断るのもあれだよね。いいよ、行こう。

お弁当のお礼も、したかったところだし」


 頬を掻き、しばし無言だった春野は承諾の意を茉瑠奈に伝える。


「本当!?よかったぁ!ねぇ、友恵も一緒に行くよね?」


 茉瑠奈は、屈託の無い笑顔を私に向ける。

 私は、顔を俯かせた。


「いや、私はいいや。二人で行ってきなよ」


 私がそう言うと、茉瑠奈は残念そうな顔をした。

 茉瑠奈の笑顔を見るに、最初から私も頭数に入っていたのだろうけど、それこそ邪魔者じゃないか。邪魔者は、黙って去るべし。


「狭山さん、日曜は予定入ってるの?」


 なのに。


「は……別に、予定があるわけじゃないけど、だから何?」


「じゃあ、狭山さんも一緒に行こうよ。二人よりも、三人の方が楽しいよ」


 なのに、こいつはまた余計なことを言う。本当に、なんなんだ。

なんだか、こいつといると調子が狂う。

私が、私じゃないみたい。

本当にどうしちゃったんだろう、私は……。


「……それなら、私も行こうかな」

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