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死神の箱庭  作者: 北海犬斗
堕胎ノ警鐘2
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有意義なお昼休み

「えー、は、初めまして、春野蒼太です……本日はお招きいただき、き、お招きいただき?えーと、何を言おうとしてたんだっけ?」


「お招きいただきって、硬過ぎない?ってか、どんだけ緊張してんのっ!」


 ため息を吐き出し、私は春野の頭をどつく。

 頭をおさえた春野が恨めしそうにこちらを見ているけど、私は知らんぷりでそっぽを向いた。

 茉瑠奈念願の、春野蒼太とのお昼ご飯。

 開幕は、なんとも心配な踏み出しだ。

せめてもの救いと言えば、春野の(ども)り具合を見て、茉瑠奈が楽しそうに笑っている事か。


「えへへ、雨宮茉瑠奈です……春野くん、今日は来てくれてありがとう」


 青空の下。

 先に屋上で場所取りをしていた茉瑠奈は、ぺこりと頭を下げる。


「いや、こちらこそーーあれ?きみ、どこかで会ったこと……」


 茉瑠奈の顔をまじまじと見つめる春野は、惚けた表情で突っ立っている。

 見つめられる茉瑠奈は、顔を赤くすると顔を背けた。

 そんなやり取りの中、私は茉瑠奈の隣に腰を下ろした。


「そんなとこに突っ立ってないで、座れば?」


「あぁ、うん」


 なにやら釈然としない反応をすると、春野は私達の正面に座る。

一息ついたところで、とりあえずと言ったように私と茉瑠奈はお弁当を取り出し、蓋を開けた。

 見たところ、今日の茉瑠奈のお弁当は特別気合が入っているようだ。大きめな弁当箱でありながら、二段重ね。

中身は、ぎっしりとおかずが詰め込まれていた。


「茉瑠奈、今日は一段とすごいね」


 春野には聞こえないように、こっそりと耳打ちをする。


「昨日の残り物も入ってるんだけどね。でも、トンカツとかは早起きして作ってきたんだっ」


 瞳を輝かせながら、茉瑠奈も耳打ちで返してきた。

 昨日の残り物っていうのは、いい具合にだし汁が染み込んでいる切り干し大根の煮物だろう。一緒に入っている人参が、良い色合のアクセントとなっている。

トンカツは満遍なくソースがかけられていて、均等に切り分けられた様が美しい。

付け合わせには、瑞々しいレタスが添えられたパスタサラダ。

その他、綺麗に焼かれたチーズ入りの卵焼きなど、どれも素晴らしかった。


 うん。

 見栄えもさることながら、食欲もしっかり掻き立てる気合の入りよう。

しかも、あの料理上手な茉瑠奈が作ったお弁当だ。不味いわけがない。

 このお弁当を、茉瑠奈は春野のために早起きして作ったのだなと思うと、なんだか春野に嫉妬しちゃいそう。


「あ、二人共お弁当持参なのか。

俺のはこんなだから、なんか気後れしちゃうなぁ」


 あはは、と苦笑いを交えつつ、春野は購買の袋からペットボトルの緑茶と惣菜パンを取り出す。


「あんた男でしょ?こんなんで足りるの!?」


 いくら春野といえど、彼も食べ盛りの男なはず。なのに出てきたのは、鳩の餌かと思うくらいに質素だったから、私は素直に驚いた。


「いやぁ、さすがに後半の授業中にお腹は空くよね。

でも俺一人暮らしだから、弁当作ってくれる人もいないし。自分で作ればいいんだろうけど、朝に弱いから」


「えっ、一人暮らししてるんだ」


 さらに驚く私。


「実家から通うには、この学校はちょっと遠いからさ。親に直談判して、今はこっちで一人暮らししながら通ってるってわけ。

これでも、家賃は自分で稼いでるんだよ」


「わざわざ一人暮らしをしてまで、こんな山の上にある学校に来るなんてねぇ……随分ご苦労な話だよね、ねぇ茉瑠奈?」


 お弁当をつまみつつ、茉瑠奈へパス。

 茉瑠奈は慌てつつ、口の中のモノを呑み込んだ。


「で、でも偉いよねっ、自分で家賃を稼いでるんだもん!バイトとか、してるんでしょ?」


「もちろん」


 春野は首を縦に振る。

 あの春野がバイト。そりゃ、家賃を稼いでるんだから当然な話なんだけど。

にしても、意外すぎる。


「……あの、春野くんっ。もし良かったら、一緒にこのお弁当食べる?今日、ちょっと作り過ぎちゃったんだ。

それだけじゃ、足りないでしょ?」


 茉瑠奈はそう言うと、頬を紅色に染めて顔を俯かせながら、おずおずとお弁当を春野に差し出す。

 最初から、そうするつもりで作り過ぎたんだけどね。

私は、密かに心の中で呟く。


「いや、さすがに悪いよそれは!」


 茉瑠奈の気持ちをいざ知らず、春野は申し訳なさそうな表情で断った。

 しゅん、と肩を落とす茉瑠奈。

 私は見かねて、助け舟を出してやる。


「あんたね。せっかく茉瑠奈が、気を使って一緒に食べようって言ってくれてるんだよ?

なら、食べてあげるのが男ってもんでしょ」


 私がそう言うとそれに肯定するように、茉瑠奈はうんうんと激しく頷いていた。


「それじゃあ、お言葉に甘えて……」


 ぱぁっ、と表情が明るくなる茉瑠奈は、用意していた春野用の箸を手渡す。

 箸を受け取ると、春野はトンカツを一切れ口に運ぶ。トンカツを噛み砕いていくにつれて、その表情は驚きに変わっていった。


「美味しい……!

雨宮さんって、料理上手なんだね!」


「うぅっ、ありがとう……もっと、食べて?」


 幸せそうな表情で、茉瑠奈はさらにお弁当を春野に差し出した。

 そんな春野に追い打ちをかけるように、私は耳打ちをする。


『茉瑠奈、料理上手なんだよね。しかも、胸もデカイんだよ?着痩せするタイプなんだけどさ……ちなみにカップ数はーーカップ』


「じッーー!?」


 驚愕のカップ数に、春野はトンカツを喉に詰まらせた。

慌てて、緑茶を流し込む。


「春野くん!?友恵、今なんて?」


「あはは、内緒」


 男は、女の子の胸に弱いと聞く。これなら、さすがの春野でも茉瑠奈にいちころだろう。

 そんなこんなで、お弁当を食べ終えて三人揃って一息つく。


「それにしても、こんな絶好のスポットがあるなんて、知らなかったよ」


 春野は、柵の向こうの景色を眺めてぽつりと呟いた。

 山の上という、ちょっと変わった場所にある学校。

それ故に、屋上からは街の景色が一望できるのだ。


「案外、人気スポットだよ。

早めに場所を取っておかないと、座る場所が無くなる程度にはね。

ピクニック気分でお弁当を食べられるってのが、良いよね」


 見回すと、所狭しと上級生も下級生も陣取っていて、談笑しながらお弁当を食べている。


「今日はありがとう。おかげで、楽しい昼休みになった」


 そう言うと、春野は頭を下げる。


「もし春野くんが良かったら……また一緒にお弁当、食べよ?」


 茉瑠奈は胸元で両手を握りしめながら、懸命に声を出す。

あの大人しくて、引っ込み思案な茉瑠奈が。

 本当に、春野蒼太が好きなんだな。


「……あ、あぁ、ありがとう、俺で良かったらまた誘ってよ」


 最初はどうなるか不安だったけど、多少は二人の距離も縮んだかな?

 ま、それなりに有意義なお昼休みにはなったみたいだーー。

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