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死神の箱庭  作者: 北海犬斗
堕胎ノ警鐘2
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神のみぞ知る

 その後、私達は会話もなく黙々と鉛筆を走らせる。

 大まかに、輪郭やそれぞれの顔のパーツを描いたところで、ふと思った。

春野蒼太は、そこそこ顔が整っているのだ。

カッコいいというよりかは、可愛い部類になるのだろうか。

それでも、くっきりとした二重まぶたに、シュッとした輪郭。

体の線が細いから、髪を伸ばせば女の子のようになるだろうな。


 なるほど、茉瑠奈はこういう可愛いタイプが好きなのか。

それなら、今までの告白を断っていたのも納得だ。


 なんて考えながら、ついつい春野をじーっと観察する。

 対する春野は、困ったように鉛筆の動きを止めた。


「何、顔になんか付いてる?

あんまり見られると、描きにくいんだけど……」


「あんた、彼女とかいるの?」


 春野の言葉に間髪入れずそう言うと、春野は目をまん丸にさせた。


「なにさ、藪から棒に?そもそも、俺には友達と呼べる存在がいない。だったら、彼女なんて尚更だろ?」


 春野はそう言うと、再び鉛筆を動かす作業に移る。

 失礼だとは思うけれど。

 春野と初めて話してみて思ったのだが、案外普通に会話ができるのに驚いた。

勝手な想像で一言も会話が成立しないような、変人像に仕立て上げていたのだが、彼は至って普通の男なのだ。

 むしろ、友達がいないのが不思議なくらいに。


……ふむ、と私は鼻を鳴らす。

全く。

 エビフライ二本で、恋の橋渡しをするためにこうも頭を悩ませるとは。

 なんて、大きな代償なのだろう。


「あんたと、一緒にお昼ご飯を食べたいって言ってる子がいてさ……あ、もちろん女の子で、私の友達ね。

友達だから買い被ってるところもあるとは思うけど、結構可愛いと思うんだ。

 春野がイヤじゃなければ、一度付き合ってあげてくれない?」


 私は一旦鉛筆を置いて、さも平常を装って何気なくそう言う。

 授業時間も残り少ない。

またと無い機会を活かし、アタックを仕掛ける。


「え……」


 私の言葉を聞いた後、春野は無表情で口から微かに息を漏らした。

 その息に続く言葉がないのか、無言でこちらを見ている。


「なに黙ってんの。言っとくけど、男から人気もある子なんだから。

そんな面白い顔してないで、むしろ光栄ですって顔しなよ」


「あ、ああ、ごめん。なんて言うか、狭山さんの友達も物好きだなって思って」


「本当にね、全く困ったもんだわ」


「……」


 またもや無言でこちらを見ている春野に私は、あ?と睨みを利かせる。

 こればっかりは、私は間違った事を言ったつもりはない。当然の対応。


「そんで、どうなの?

明日のお昼、付き合ってくれる?

どうせ、一緒に食べる相手もいないんでしょ」


「何だろう、さっきから狭山さんの言葉の切れ味が凄いんだけどっ。

まぁ、その通りで相手もいないからね。

せっかくのお誘いだし、ご一緒しようかな」


 何やら胸元を手でおさえつつ、春野は誘いを了承した。


「りょーかい!んじゃ、明日よろしくね」


 よし。

これで一先ずは目標達成。

今日の放課後、さっそく茉瑠奈に報告しなくては。

きっと、飛び跳ねて喜ぶだろうな。

 なんて、喜ぶ茉瑠奈を想像していると、授業終了五分前。

 生徒達は、各々の描いたスケッチを教卓に提出している。


「あんた、私の顔ちゃんと描けた?ちょっと見せてよ」


「えぇ!?いいよ、大した出来じゃないんだし!わざわざ見る必要ないってば」


 春野はそう言うと、スケッチブックを背後に隠す。

 私は半ば強引にそれを奪い取り、私の顔との差異を確認しようとしたのだが。

ついため息が出てしまいそうな、絵心あるスケッチに私は素直に感心した。


「……あんた、上手なんだね」


 放課後。

 私は隣のDクラスに赴くと、作戦を無事成功させた旨を茉瑠奈伝えた。

 案の定、茉瑠奈は飛び跳ねるように喜び、私に抱きついてきた。


「ありがとう、友恵!

何だか、友恵が神様に見えてきたよ!」


 茉瑠奈の大げさ過ぎる言葉が可笑しくて、私はつい吹き出してしまう。


「あはは、大げさだって茉瑠奈」


 さて。

無事、茉瑠奈と春野蒼太が一緒にお昼ご飯を食べる約束は取り持てたものの。

あとは、二人の問題。


 それこそ、神のみぞ知るというわけだーー。

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