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死神の箱庭  作者: 北海犬斗
堕胎ノ警鐘2
19/74

同調型

 自らが腕を振り下ろした地面は、まるで重機に抉られたかのようにめくれ上がっている。

 が、そこにリクの姿は影も形もない。

馬鹿な、と思わず息を漏らしてしまう。

今の感覚は、完全に討ち取った"それ"であった。だというのに、そこにリクの亡骸が無いのである。

 それもそのはず。

 リクは地上に足を着いてはおらず、鎧の死神の目線の高さまで大きく跳躍しているのだから。


「貴様ーー小虫のようにちょこまかとッ!!」


 自分の顔周りで飛び交う、うるさい小虫を手のひらで握り潰すかの如く、鎧の死神は空中のリクへと手を伸ばした。

 が、リクはそれよりも速く、天に向かってしなやかな脚を乱暴に振り上げる。

 脚は、百八十度の綺麗な半円を描き、敵の顎を粉砕せんばかりの勢いで蹴り抜いた。


「がぁッ……!?」


 首から顔が千切れて、ボールのように飛んで行ってしまいそうな、想像を絶する衝撃。

まるで、暴風雨に晒された木になる果実のように、脳が頭蓋の中で激しく揺れる。

 一瞬のブラックアウトの後、辛うじて視力が回復した時には、死神は月を見上げていた。

 脳震盪を起こしながらもなんとか態勢を立て直し、次の攻撃を控えるリクに、させるものかと腕を振るう。

暴風を纏いながら放たれるそれは、虚しくも空を切るのみ。


「ば、馬鹿な……先ほどまでとは、速さが比べ物にならんほど上がっているだとぉぉぉッ!?」


 雄叫びを上げ、渾身の力を込めた一撃さえも、リクは容易く避ける。

 完全に頭へと血が上りきった鎧の死神には、リクを捉える事は不可能。

 ひらひらと身を翻して攻撃を避けつつ、間合いを詰めていくリクは、気がつけば死神の懐に入り込んでいた。

 攻撃を放った直後の今、対処する術はない。

冷や汗を顎から垂らす死神であったが、自分には鎧があるのだと気がついた。

ヤツの鎌は、この鎧に対しては無力。それはこの身をもって実証済み。

なれば、例え懐に入り込んだとてヤツに何ができるのだ、と死神は口の端を吊り上げる。


 しかし、その認識は甘かったのだ。

 懐に入り込んだリクは鎌を振るう事はなく、ただただ拳を握り締め振りかぶると、力任せに拳を放る。

鈍い音が響いた後、三メートルの巨体が見事に吹っ飛ぶ。


「ーーッ!?」


 鎧の死神は、最早自身に何が起きているのか理解できなかった。

頭が混乱で熱暴走寸前になりながら、地響きを立て数メートル先で落下する。

 それを見送るリクの右拳は、痛々しく割れて血液を滴らせていた。


「リク、ここらで一気に畳み掛ける。俺と、"同調"しろ」


 一連の戦闘を観戦していた『死神殺し』は、リクに近寄りつつ、肩を並べると無感情にそう言った。

 リクは、目を開かせて『死神殺し』に振り向く。


「ですが主、"同調"は魂を激しく消耗させるもの。

この戦いは、私だけでもーー」


 リクの言葉を遮るように、『死神殺し』はリクに手を差し出した。


「だが、お前ではあの鎧を突破するのは難しい。

このまま戦闘が長引けば、結局の消費量は"同調"と大して変わらんよ」


 そう言われて、リクは観念したように自らの手を『死神殺し』の手と重ね合わせる。

 瞬間、周囲に風が(なび)いた。


 危うく意識を失いかけた死神は、よろけながら立ち上がると、改めて戦慄した。

 戦闘を始めたばかりのヤツの動きと、今の動きは明らかに違う。無論、力も同様に。

 本当に。

 本当にヤツは、手加減をしていたというのかーー!


 そう歯噛みしながらリクの方に向き直ると、『死神殺し』とリクは、激しい突風に包まれていた。

 突風は次第に威力を増して二人の姿を完全に隠すと、程なくして周囲に霧散する。

 その中に立っていたのは、巨大な鎌を携えた『死神殺し』ただ一人。

リクの姿は無い。


 死神と契約し、死神を戦闘の目的で使役する契約者は数多くいる。

 そのほとんどは、死神単体で戦闘を行う、"単独行動型"と呼ばれるタイプが多いものの、稀に特殊な能力を有しており、その能力を使って戦う"特殊能力型"と呼ばれるタイプもいる。

単独行動型に対して、特殊能力型の数は圧倒的に少ない。

 そして、さらに数少ない戦闘能力を有したタイプの死神もいた。

 それが、俗に言う"同調型"。


 契約者と死神が心を同調させる。

 それが一つになった時、心を重ねさらには身体をも重ね、死神は契約者の魂魄となりて、契約者と一心同体となる。

 契約者は、計り知れない戦闘能力を得る事によって、圧倒的な力で敵をねじ伏せるのだ。


 現段階で確認されている同調型は、三人。


 死神を憎み、死神を殺す、『死神殺し』。

 危険分子として、数多くの契約者から警戒される、『セイジロウ』。

 そして、その姿を見た者は未だにいないと言われている、噂だけの存在、『死神(かえ)し』。


 いずれも、高い戦闘能力を持っている三人だ。


 漆黒のローブを風にはためかせ、鎧の死神を静かに見据える。

 『死神殺し』の戦いのセオリーは、いつも変わらない。

 敢えてリクに手加減をさせ、リクを単独行動型に見せかける事により、相手に油断を与えて自分は冷静に敵の動きを観察する。

先日戦闘を行った死神のように、よほどの格下であればリクに任せるものの、今回のように多少厄介な相手であれば、このようにリクと一心同体となり、自ら戦闘を行うのだ。

相手の能力、相手の隙を把握した末に一瞬で斬り伏せる。


 これが、『死神殺し』の最強と呼ばれる所以(ゆえん)だった。

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