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死神の箱庭  作者: 北海犬斗
堕胎ノ警鐘2
18/74

死神を殺す者

ーー死神。


 その存在は実におぼろげで、自身の名前さえ持たない、とても曖昧な存在。何にも触れられず、何にも干渉はできない。彼らはただただ世界を彷徨い、ゆらゆらと漂う。

自らの欲する、魂を持った人間に出会うまでは。

 死神には、少なからず個体差がある。

 男か、女か。子どもか、大人か。

もちろん、それぞれの人格や性格も然り。

 そして何より、どの魂を好むのか。


 例えば、巨額の大金が欲しいと、金に目がくらむ愚か者の魂を好む死神もおれば、金や名誉になど興味が無く、ただただ人を殺したいという願望を抱く殺人鬼の魂を好む死神もいる。

その他、目立ちたい者、異性に好かれたい者、名誉を欲する者、復讐を願う者。

 人間の欲望の数だけ、その欲望を好む死神がいる。

 長きに渡る漂流の末に、自らの好む魂持った人間と出会う事によって、死神はようやく曖昧な輪郭から念願の実態を得られるのだ。

 実態を得た後に、人間との交渉が行われる。

 死神は、自らの好む魂を喰らうために。

 人間は、自らの願いを叶えるために。


 交渉が決裂すれば、再度交渉の機会を伺うのか、再度自身の好む魂持った人間と出会う機会を待つ他ない。

 見事交渉が成立すれば、願いを叶える助力をする報酬として、人間の魂と自らの魂に楔を打ち込み、鎖で繋いで人間の魂を喰らう。

 一日に、一食。

 寿命が、一日で一日減る。

 契約の代償としてはあまりに大きいが、願いが叶う近道を得られるのだから、当然の代償とも言えた。


 死神は自らの実態を得た後に、契約者の願いに応じて、それに沿った個々の能力を得る。

その能力は千差万別。

戦闘に特化するのか、護に特化するのか、盗みに特化するのか。

それらは、全て契約者の願い次第。


 かの『死神殺し』の願いは、全ての死神を殺し尽くす事。

死神を怨み、死神を憎み、死神という存在への復讐を誓った彼は、死神のリクと契約を結ぶ。

 彼の願いは意図せずものとして、リクを戦闘に特化した死神へと変化させた。

まさに、副産物であった。

戦闘能力は圧倒的。全ての死神との戦闘において、彼女はその死神よりもひとつ上の能力を得る事ができる。

 絶大な戦闘能力。例え相手がどんな死神だろうと、戦闘において彼女は遅れを取る事はないーー。


 閑散とした深夜の工事現場にて、二人の死神がぶつかり合う。


「……ッ!」


 自らの身の丈よりも巨大な鎌を、リクは軽々と振るう。

空気の裂ける、何とも形容しがたい音を響かせて。

ギラギラと禍々しい輝きを放つ鎌の刀身は、標的に喰らいつくように吸い寄せられていく。

 見事な縦一閃。

 標的の死神は、頭頂部から縦の一文字に肉体を切断されるーーはずだった。


 対する相手は、鈍い光沢を帯びる銀色の鎧を着込んだ、三メートルを越える巨体を誇る死神。

 死神の鎧と、リクの鎌が拮抗する。

ギリギリと、鎧と鎌擦れる音が耳に刺さる。

やがてその音は、獲物を仕留めたくても仕留められない、もどかし気な鎌の叫びへと変わる。


「……硬いッ!」


 思わず、苦悶の吐息を漏らすリク。

さらに連続で斬りこむものの、死神は姿勢を崩すさず、その攻撃を一身に受けきる。

その様はまるで、鉄壁を誇る要塞を連想させた。


「ふむ!そのようなか弱い攻撃で、我が鎧を突破できると思ったか……随分と舐められたものよッ!!」


 髑髏の仮面の覗き穴から、死神の瞳はリクを見据える。

間髪入れずに、右腕を大きく振るった。

実に、シンプルな攻撃。

 しかし、その巨大から繰り出されるシンプルな攻撃は、それでもリクを仕留めるには容易いものであった。

 間一髪。

長い髪の毛を数本持っていかれたものの、リクは空中で即宙をして攻撃をやり過ごす。

が、次に控えるのは左腕。

 リクは、その左腕を鎌の柄で辛うじて防ぐ。

砂埃と共に、大きく吹き飛ぶリク。

着地した地点には、不動を崩さない『死神殺し』が、敵の動きを注意深く観察していた。


「……なるほどな。

ヤツは優れた防御力と、巨大故の破壊力を持っているものの、それに尽きる。

おおよそ、特殊能力は持っていないようだ」


 髑髏の仮面を嵌めた顔故に表情こそ見えないものの、実に冷静なトーンで呟く。


ーー鎧の死神の契約者は、無差別に殺戮を愉しむ人間破綻者。

彼のターゲットは、主に無抵抗な子どもと老人。場合によっては、成人男性も狙ったようだ。

 殺人鬼の魔の手が及び、命を奪われた犠牲者は、既に十を越えている。

 無抵抗な人間を殺して回る殺人鬼と、それに同調した薄汚い死神の討伐命令が、『死神殺し』に下された。

 ギルドの構成員とは違い、相手は欲望のままに動く殺人鬼。

よって、生け捕りの必要は無く、始末してしまえという命令であった。

 死神への復讐、死神を根絶やしにする事を望む『死神殺し』にとって、その命令は自らの意思に沿った最高のモノ。

今回の命令を、彼は嬉々としてその通達を受け取った。


 鎧の死神は、姿勢を低くする。

地響きをさせて地面を足で蹴ると、そのままリク目掛けて、文字通り跳ぶ。

 その間、約一秒。

 瞬きした瞬間にはもう、死神が目前に右腕を大きく引いて控えている。


 それでも『死神殺し』は、余裕の風格を漂わせて口を開く。


「ご苦労だったな、リク。

ヤツの能力はほぼ把握できた。もう"手加減"しなくていいぞ」


「……はい」


 その言葉に、リクは頷く。


「はッ!手加減だと!随分と舐められたものだ。

 腹立たしいほどのその余裕の姿勢、何時まで保っていられるかな?『死神殺し』!!」


 地面よ割れよ、と言わんばかりに左脚を地面に食い込ませる鎧の死神。

 既に大きく引いた右腕が、刹那の速さで振り下ろされる。


ーー他愛無し……『死神殺し』という異名を持ち、畏怖される者。

一体どれほどの力を持ち合わせているかと思えば、所詮この程度か。


 砂煙の中、鎧の死神は一人ほくそ笑んだ。


 そして、


「……む!?」


微かな違和感を感じて、息を呑む。

余裕の姿勢を崩したのは、鎧の死神の方であった。

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