友恵2
ーー雨宮茉瑠奈は、可愛い。
ふわふわした、ちょっと癖のかかった髪の毛。
茉瑠奈自身は纏まりが悪くてイヤだって言うけど、私は好きだ。
茉瑠奈らしくて素敵だと思うし、手入れとか纏めるのは大変そうだけど、いろいろアレンジだってできる。やや直毛気味な私にとっては、羨ましい限りなんだよな。
それに、ぱっちりとした二重の目元も好き。くりんとしたまつ毛も。
お人形さんとか、お姫様を彷彿とさせるじゃないか。
反面私は、切れ長で。いつも、これのせいで怖がられる。
表情を変えるのは苦手。
少しくらい愛想よく笑えれば、いくらか冷たい印象も好転するのかもしれないのだが、自分を偽っているようでイヤだ。
だから、よほど面白い事でもない限りは基本表情を変えない。
それが、周囲からは不機嫌そうに見えるんだって。
まぁ、私自身友達がいっぱい欲しいわけでもないし、茉瑠奈がいてくれればそれで充分。
自然体で笑える茉瑠奈は、本当に素敵だな。
誰に対しても分け隔てがないし、邪な感情無く優しさを分けてあげられる。
それに、少しふっくらとした体型も女の子らしくて良いと思う。本人は甘い物がどうとか、ダイエットがなんだって言っているけど。
昔から剣道をやっていて、無駄な肉が削がれてしまった筋肉だけの体なんかよりも、ふっくらとしている方が良い。
茉瑠奈が男に告白された事を言ってくれなかった時、なんだか寂しかった。
まぁ恥ずかしくて言いづらいだろうし、仕方ないとは思う。それでも、寂しかった。
あと、ずっと一緒だった茉瑠奈が、誰かに取られてしまうんじゃないかって。そんな、居ても立っても居られない気持ちになったのだ。
茉瑠奈は人見知りだけど、優しくて気配りができて何事にも一生懸命で、差別をしないから男にモテる。
それは小学生の頃から、今でも変わらない。
いつかは、茉瑠奈にも彼氏ができる日が来てしまうんだろうな。そうなったら、今までのように二人で一緒にいられなくなってしまうのだろうか。
ああ、虚しい。
私は、幼少期から剣道一筋だった。
恋愛経験なんて皆無だ。
告白なんて、された事もない。でも、恋愛に関して興味が無いわけではない。年相応に、男と付き合ってみたいとも思う。
最も、良い人がいればの話だけど。いないのだ、そんな相手は。
ただの一度も、男に胸をときめかせた事など無い。
自分より剣道が強い男がいれば、好きになるものなのだろうか?
来年になれば、三年。その次には、卒業が控えている。
高校を卒業して大学に進学するのか、それとも就職するのか。それはまだわからないけれど。
その時になっても、果たして私達二人は一緒にいられるのだろうかーー。
いつもの事ながら、二人で談笑しつつ登校するとあっという間に着いてしまうな。
茉瑠奈がひどい風邪をひいて学校を休んだ時、一人で登校した時は随分と長く感じたものだが。
真庭高校。
私達の通う、公立高校の名前だ。
桜並木の続く坂道の先にあり、小高い山の山頂に位置するちょっと変わった学校として、そこそこ有名らしい。
私達の住むこの真庭市は、もともと何も無い閑散とした土地だったのだが、最近は近代化の波に飲まれて一気に発展した。
真庭市駅も改装され、駅に併設された大型ショッピングセンターに加え、周辺にはお洒落な飲食店が立ち並び、タワーマンションまで建っている。
おまけに、電車の路線も主要都市へと繋がる便利なラインが増設された事もあり、近頃は真庭市外の人達も遊びに来ているようだ。
そしてこの真庭高校も、近代化の波に乗ったのと、市からの寄付金により生まれ変わる。
私が入学前に校舎の下見をした時とは、見違えるほど綺麗になっていた。
やはり自分が通う学校なので、綺麗なのは嬉しい限りである。
私は、ポケットからスマートフォンをおもむろに取り出すと、時間を確認する。八時二十分。
よし、いける。
「茉瑠奈、私教室に行く前に購買に寄ってく。お弁当だけじゃ、やっぱり部活前になるとお腹が空いちゃうんだよね。
それに、お昼にはカツサンドが売り切れちゃうしっ」
靴箱の前。
私はいつもより素早い動作で、外履きから上履きに履き替えた。
八時四十五分にはホームルームがあるから、急いで買って教室に向かえば余裕で間に合う上に、席に座って一息つきながら授業の準備ができるというもの。
「あ、待ってよ友恵っ。私も、飲み物買いたいから一緒に行く!」
茉瑠奈も慌てて履き替えると、小走りでついて来る。その様子が、なんだか小動物みたいで微笑ましい。
うん、心が和むな。