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死神の箱庭  作者: 北海犬斗
プロローグ
14/74

友恵

 ーー狭山友恵(さやまともえ)は、昔から私の憧れであり、ヒーローのような存在だった。


 信じられない事に、友恵の実家は家系を遡っていくと、ある有名な武将に熱い信頼を寄せられていた武士がいる。

 要するに、家臣だった人物。

 友恵の家系は、由緒正しい武家の家系である。


 友恵のお父さんは警察官だ。

 正義感が強くて熱い情熱を持った、絵に描いたような筋肉隆々のお父さん。

 街ですれ違ったものなら、目を合わせる事すら阻まれる外見なのに、友恵の前ではとても優しいお父さんになるんだから面白い。


 武家の家系に誇りを持ち、幼少期から剣道に励んでいたとか。剣道の全日本選手権では、準優勝の経験もあるらしい。

 剣道に詳しくはない私でも、それなりにすごい事なんだろうなって思う。

 お酒に酔っ払うと、いつもその事を引き合いに出すもんだから、友恵のお母さんと友恵にいつも怒られ、決まって大きな体を小さくする。


 私は、そんな三人を見ていつも笑っていた。

 これは、私が予想外にもお腹を抱えて笑ってしまった、お父さんのエピソード。まだ、友恵がお母さんのお腹にいる頃のお話。


 お父さんとお母さんとで、友恵につけてあげる名前を考えていた時の事だ。

 お父さんは名前の候補を幾つか挙げたのだが、それらは全て武骨な戦国武将の名前だったとか。

 当然、お母さんにこってり絞られる。

 渋々考え直した結果、平安時代末期に武勇を立てたとされる、女武将"巴御前(ともえごぜん)"の名前を拝借した。

 そして、良い友に恵まれますようにという願いを込めて、友恵と名付ける。


 私は、初めてこの話を友恵から聞いた時、申し訳無いのだがお腹がよじれるくらいに笑ってしまった。

 だってそうだ。

 もし一歩間違ってしまったら、友恵が教科書に載っている、髭の生やした戦国武将と同じ名前になっていたのかと思うと。当時小学生だった私には、それが思いがけないツボになってしまったのだ。

 友恵には、「笑いすぎッ」と怒られてしまったのだけど。


 友恵のお母さんは、綺麗で優しくて、お父さんに負けず劣らずの武闘家。

 二人の出会いは、拳と拳の語り合いで。

 友恵曰く、夫婦喧嘩は自宅が戦場になるのだとか。

 お料理が上手で、特にお母さんのシチューは絶品だと思う。

 そしてかなりの酒豪であり、お酒の量ならお父さんよりも上。


 お父さんと、お母さん。

 二人とも、まるで我が子のように私を可愛がってくれる。

 友恵のお家にお泊りに行くと快く迎えてくれて、夏になれば庭で花火だったり、冬だったらかまくらを作ったり、一緒に遊んでくれて。

 本当に大好きな二人。


 そして、友恵。

 お父さんの影響で、決して強要されたわけではなく、物心がついた時には自ら剣道をやり始めたって。その腕前はやはり凄まじいらしく、十六歳にして剣道の段位階級は三段。

 私にはさっぱりなのだが、周りが言うにはすごい事で、時が来れば四段もすぐに取れるだろうと言っていた。


 やっぱり、友恵はすごいなぁ。

 そんな友恵と初めて出会ったのは、小学三年生の頃。新学期のクラス替えで、今まで仲の良かった子と離れ離れになってしまった。

 もともと友達が少なかった私は、普段交流が無い子達しかいないクラスに組み込まれてしまったのだ。


 何とも言えない心細さを痛感している中、隣の席に座っていた女の子が友恵。

 綺麗な子だな、って胸がときめいたのを今でもはっきりと覚えている。

 彼女はまさに竹を割ったような性格をしていて、自分の意見をきっぱりと言うし、物怖じしない。


 体育の授業では、剣道の賜物なのかそれとも持ち前なのか、運動神経の良さで男の子顔負けの活躍をする事も多々あった。

 私はそんな友恵を陰から眺めて、人知れず憧れていた。

 それは、男の子にとっても同様だったようで。

 友恵の事が気になっている男の子達は、例に漏れずわざと意地悪をした。


 しかしながら、はっきりとした自分を持っていて、尚且つ自分の意見をきっぱりと言う友恵。

 やがて男の子と口喧嘩を始め、やがて殴り合いの喧嘩に発展する。

 やがて、この過程が日常茶飯事となるのだ。

 最初はみんなで止めようとしていたものの、一週間後には止める事を諦めてしまった。


 ある日、いつもより激しい喧嘩を繰り広げた末に、鼻血を垂らしていた友恵を手当てしてあげた。

 思えばこの時に、私達は初めて言葉を交わし、仲良くなったんだったなーー。

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