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死神の箱庭  作者: 北海犬斗
プロローグ
13/74

茉瑠奈2

 すごいね、なんて。


 普段は切れ長で、綺麗な瞳を真ん丸にして、友恵は白い息を吐きながら心底驚いている様子だ。

 まるで、自分が人外の存在になってしまったんじゃないか、と思ってしまうほど。大袈裟なくらいに、見事な驚きっぷりだった。


「えへへ、そりゃあ私だって寒いよ?

でも、友恵ほどじゃないかな」


 そんな友恵がなんだか可愛らしくて、我慢の限界に達し、思わず笑ってしまった私は、友恵の白い手を取って自分の手と擦り合わせる。

 すっかり冷え切った手が、私の体温と友恵の体温とが交わり、次第にぽかぽかと暖まっていくのがわかる。

 初めはきょとんとした様子で、されるがままだった友恵は、目を細めて微笑んだ。


「ありがとう、茉瑠奈。だいぶ暖まった」


 口数はあまり多い方ではなくて、それほど表情を変えない友恵は、一般的に冷たいイメージを持たれる事が多い。

 よく小耳に挟む言葉を簡潔にまとめると、なんだか近寄り難い存在なんだとか。

 でも、彼女の親友である私はよく知っている。

 友恵は、笑うと本当に可愛くて、綺麗な女の子なのだ。

 それを知っている人が少ないという事実に、私はどうしようもなく寂しい感情を抱く。


「将来、茉瑠奈と結婚する男はきっと幸せなんだろうね」


「……へ?どうしたの、急に?」


 思いもよらない友恵の言葉に、私は鳩が豆鉄砲を食ったような表情になる。

 にししと笑う友恵は、歩き出す。

 方角は、私達の学校へ。


「ま、待ってよ、友恵!」


 すたすた歩いて行ってしまう友恵に、私は慌ててついて行く。


「茉瑠奈は、私と違って女の子らしい。

 ふわふわな髪の毛とか、真ん丸い目とか、お人形さんみたいで可愛い。

 それによく気配りもできるし、明るいし、料理も上手だし優しいし。

 将来、男に尽くしてあげる、良いお嫁さんになるだろうなって思ったの、今。ただ、それだけ」


「そうかなぁ……っていうか、お嫁さんって」


 淡々と、頬が熱くなるような言葉を並べていく友恵。

 なんだか、むず痒い感じになる。が、言葉は耳に入っていくものの、頭で合致しない。

私って、そういうイメージなんだ。

 そんな自覚がなかったし、正直友恵の買い被り過ぎなんじゃないだろうか?


「私、知ってるよ。二年生に上がってから、何人かに告白されたでしょ?」


 心臓がきゅっ、と音を立てて絞まる。

 息が止まるかと思った。


「し、知ってたんだ」


「そりゃあ、私は茉瑠奈の親友ですからね」


 ……確かに、告白されたのだ。


 バスケット部やサッカー部の部長さんとか、学年でも上位に食い込む成績優秀な、同じクラスの男の子とか。

 でもなんだか気恥ずかしくて、友恵には言えずじまいでいた。

 まさか、知られていたなんて。


 まぁ、学校というネットワークの狭い環境だ。

 それだけ噂が広まるのは早いだろうし、当然と言えば当然の事なんだろう。

 私は、顔を俯かせた。


「ご、ごめんね。隠そうとしてたわけじゃないんだけど……なんだか言いづらくて」


「ううん、それはいいんだけど。誰とも付き合ってないんだね」


「う、うん」


「私の知ってる限りだと、顔は悪くないやつばっかなのに。あ、もっとカッコいいのが良いんだ?茉瑠奈って、意外と面食い?」


 友恵はそう言うと、いたずらっぽい笑みを浮かべて、白い歯を露わにする。

 私は、慌てて手を振る。もちろん、否定の意味を込めて。


「カッコいい、カッコ悪いとかじゃなくてっ。その、なんて言うのかなぁ……なんか、違うなぁって。

 たぶん、この人じゃないんだろうなって、そう思って断ったの!」


「ふぅん、なんか、違うか。

 要するに、茉瑠奈にとって、この人と付き合いたいって思う人がいなかったわけか」


 うんうん、と頷きながら顎に指を添える友恵。


「まぁ、そんな感じ」


 正直、どうして私なんだろうって思った。

 みんな、確かにカッコいい人達だったと思う。それに、女の子からの人気だってすごいんだって聞かされていた。

 だからこそ、私じゃ釣り合ってないんだろうなって思ったのだ。

 この人達には、もっと相応しい人がいるはずだって。断った本当の理由としては、それに尽きる。


 昔から、自分に自信が持てない。私の悩み。

 引っ込み思案で、上手く自分を主張できなくて。

 よく笑顔が良いって言われるけれど、それは自己主張がないから、笑顔で誤魔化しているに過ぎない。もちろん頭が良い方ではないし、言わずもがな運動は壊滅的。

 唯一得意なものと言えば、料理に裁縫、昔から好きだった絵を描く事ぐらいで。

 つくづく、自分の魅力というものがわからない。

 私を可愛いって友恵は言ってくれるけれど、自分を可愛いなんて思った事は、人生でただの一度もない。


 友恵。

 あなたの方が、私なんかよりもよっぽど素敵だよーー。

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