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死神の箱庭  作者: 北海犬斗
堕胎ノ警鐘
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ハイエナ

 『死神殺し』は淡白な口調でそう言うと、圧倒的に身の丈に合っていない巨大な鎌を、軽々と振り上げる。

 ギラギラと刀身を輝かせる鎌は、まるで獲物を前に舌なめずりをする蛇の化け物のようだ。

 そこに、躊躇いなどの感情は一切無い。殺す事に対する、恐れも無い。

 故に次の瞬間には、ヤツは当然の如くその鎌を振り下ろしてしまうだろう。


 死神には、当然それを避ける余力など残っていない。むしろ、早く楽にしてくれと言わんばかりの様子だ。

 『死神ギルド』の教えが、つまらない冗談の類でないのであれば、死神が死ねば俺も死ぬーー。


「あ、まっ……!」


 声にならない声をあげ、俺は必死に手を伸ばす。

 待ってくれ。

 俺は、まだ死ねないんだ。

 俺には、やらねばならない事がある。

 俺の帰りを待っている、大事な者がいる。

 だから、死ねないんだーー。


 が、無慈悲にも『死神殺し』は鎌を振り下ろす。

 鎌は既に死にかけている獲物を喰らい、息の根を止める。

 飛び散る血飛沫。肉体を頭頂部から股まで、両断された死神はそもそもそこに存在しなかったかのように。

 肉体も、血も、ローブも、跡形も無く消えてしまう。同時に、俺の心臓が軋みをあげる。


 「あーあ……どうして、こうなっちまったのかな。

なぁ、まーー」


 心臓の潰れる音を聞きながら、俺の意識はそこで途切れたーー。


 ぱたり、とユウジという男は全身から血液を噴き出して地面に突っ伏した。

 それを見て、『死神殺し』は夜空に浮かぶ月を眺める。


「帰るぞ、リク。

後始末はハイエナに任せる」


 森林地帯から、一人の男が現れる。

 リクと呼ばれた死神、巨大な鎌の主と同様のローブを身に纏い、顔には髑髏の仮面をつけている。

 身長は百六十後半で、男としてはやや細身で小柄な印象。青年というよりは、少年だ。

 彼がリクの主であり、他でもない『死神殺し』である。


「はい」


 リクは静かに頷くと、主である『死神殺し』方へ歩みを進める。


「よぉ、『死神殺し』。

任務お疲れさん。どうやら、随分と余裕だったようだな」


 その歩を、もう一人の男が止めた。


「ハイエナか。

当然だ。こんな雑魚に遅れをとるわけがない」


 『死神殺し』はハイエナの方を見やると、当たり前のようにそう言った。


「……やれやれ、だ。

 『死神ギルド』の幹部は、できる限り生け捕りにしろって言ってるだろ?余裕のある戦闘であれば、尚更だ。

 ギルドの頭、『死神喰らい』の情報を聞き出すためにって、釘を刺しておいたよな?」


 ハイエナはため息混じりにそう言うと、

呆れたように両手をぷらぷらさせる。

 彼もまた『死神殺し』同様のローブを身に纏っている。フードを深く被っているので表情は見えないが、明らかにイラついている様子だ。


「黙れ。目的が似通っているから、一応は協力関係にあるが、貴様らに全面協力すると言った覚えは無い。俺は、死神を殺すだけ。

 それに、このターゲットは下っ端だよ。幹部じゃない。

 情報を聞き出した所で、欠片も出てこないだろうよ……お前はその名の通り、黙ってハイエナらしく死骸の掃除でもしていろ」


 髑髏の仮面越しからでもわかる、明らかな敵対の眼光をハイエナに浴びせ、『死神殺し』は言う。

 ハイエナの肩が、ピクリと震えた。


「はっ、相変わらずのビックマウスっぷりだな。正直、ムカつくんだよなぁ。

 いいんだぜ?お前がそういうつもりなら。俺はお前を何時でも撃ち殺せるぞ」


 腰のホルスターに収納された拳銃に手をかけて、ハイエナは『死神殺し』を睨みつけた。


「そうか、好都合だ。いずれは、貴様らも殺そうと思っていた。それが、遅いか早いかの違いだからな」


 二人の刺さるような殺気が、びりびりと交わる。

 重い沈黙が、周囲を支配する。

 ただでさえ冷たい空気が、さらに冷え込む勢いだ。

 二人に何かのきっかけが訪れたとしたら、当然のように各々が得物を取り出して激突するだろう。

 リクは口を挟む事なく、二人を傍観していた。


 普通の人間であれば身動きすらできないような空気の中を、一切合切ぶち壊すように、ぱたぱたと一人の少女が割って入る。


「二人とも、何をしているですかッ!!仲間割れはルール違反ですよ!言いつけちゃいますよ!」


「おわっ、ワルサー!!」


 ハイエナにワルサーと呼ばれた少女は、ぷくりと頬を膨らませた。

 百三十後半ほどの小さな身長に、ポニーテールという髪型が幼さを前面に際立てる。

 くりくりとした瞳に、柔らかそうな頬。

 そしてやはり、彼女も漆黒のローブを身に纏っている。


「チッ……ピーチクパーチクと、また面倒なのが出てきたな」


 バツが悪そうに舌打ちをする『死神殺し』は、肩をすくめた。


「あぁ?何か言ったですかね?

まったく……リクも何故二人を止めねぇですか!何を、そんなに落ち着いているですか!」


 不機嫌そうに腕を組むワルサーは、リクに向き直るとずかずかその場で足を踏み鳴らし、不満そうに言い放つ。


「私は、ただ主の願うままに」


「はぁ……あっそうすか。もう好きにすればいいのですよ」


 リクの無関心な反応に、ワルサーは怒りを越えて呆れ果てた。

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