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湖で会う

作者: 二窓コフ

2017.8.21にぷらいべったーに投稿したものを転載。

http://privatter.net/p/2679106


この文は、序盤わざと情景の説明などを省いています。登場人物は、ふたりの恋人です。読みながら、自分の好みや感性に合わせて見た目などを想像すると良いでしょう。

20時の街にサイレンが鳴り響く。ギラギラ光るパトカーのランプが遠くから見えるだけでも眩しい。

「お願い、早く逃げて、みんなあなたのことを狙っているの。」 

声が震えそうなのを必死に堪えた。

「もう夜だよ。ごらん、月が出ているだろう。君はこんな時間に外にいるべきじゃあない。」

いつも通りな、気楽な声がサイレンの異常さを際立たさせている。

「家でニュースを見て、すぐあなたの元に行かなければいけないと思ったの。お願いだから逃げて、もうあなたに会えなくなるなんて絶対に嫌!」

1番最初のトップニュースでそのことは伝えられていたのだ。淡々と読み上げるアナウンサーに対して、わたしは真っ青になった。そして、すぐにこの場所に来たというわけだ。


「ふーん、君がそんなに言うならしょうがないなぁ、じゃあまた明日、夕方に会おうね。」

必死の私の声が届いたようで安心した。

「…よかった、絶対に見つかっちゃダメよ。絶対に、絶対にだからね!」

「夜に会うのも意外と悪くないかもしれないね。ほら、月が綺麗じゃないか。じゃ、ばいばい。」

また、そんなわざとらしいことを言う。そうしてあなたは、暗闇の中に消えていった。睡蓮の花が揺れる。

絶対に、明日も会えますようにー。


冷たい空気を肌に感じながら家へと歩く。

あまりにも慌ててしまって、ろくにコートも着てこなかったのだ。

まだサイレンは鳴っている。


 家に帰って、テレビをつけるとまたそのことが伝えられていた。

「悪質な生物の乱獲、ついに警察が撲滅に乗り出す。」

なんてひどいんだろう。悪質だなんて失礼極まりないと思う。彼は彼なりに一生懸命生きているというのに。

「ホントにひどいと思わない?」

飼い猫のミーヤに話しかけた。ミーヤは賢いからきっとわかってくれるに違いない。

しかし、白い体をすりすりしてくるだけで何も答えてはくれなかった。



 どうやらミーヤを撫でいるうちに寝てしまったらしい。朝になっていた。

 シャワーを浴びて朝食にトーストとトマトを食べる。髪を結わえて着替えて仕事に行く。駅のキヨスクで好きなお菓子を買ったけれど、そこでも新聞が「悪質な生物乱獲」を伝えていた。


 仕事が終わって電車を降りたら、すぐにあなたの元に向かった。生え放題の草も構わずに駆け足で湖のほとりに近づく。


「やぁ、ちゃんとまた会うことができたね。」

突然あなたは現れてきた。

…よかった、無事だったんだ。捕まらなかったんだ。

その白い肌が愛おしくて、何も言わないまま抱きしめてしまった。

「おーいおい、ちょっと大胆すぎるんじゃないか…?魚たちが僕らに嫉妬するよ。」

「その変な言い回しが大好き」

「へへっなんだよ変って…」


「……でもまだ油断しちゃいけないわ。まだしばらくは続くはずよ。」

そうなのだ、きっと全て残らず捕まえるまで彼らはやめない。

「ふーん、よくわかんないけど、まぁ君が言うならしばらく身を隠そうかなぁ。」

「その方がいい。」

「会えなくなるのは寂しいなぁ、ことが落ち着いたらちゃんとまた来てくれよな?」

不安そうな目がかわいかった。

「もちろんよ。そのためにも、絶対に捕まっちゃダメよ?」





1週間ほど経って。

 ご近所さんから新鮮な果物をたくさんもらった。なんでも、田舎の親戚が家庭菜園をしていて豊作だったらしい。

「彼と一緒に食べれたらなぁ…」

彼は果物が大好物なのだ。普段食べてるものの何百倍もうまいと言う。しかしまだことは収まっていない。まだ会いに行くことはできないのだ。


 ミーヤがテレビのリモコンを踏んだ。ニュース番組が付く。

「ここ最近相次いでいる、悪質な生物の乱獲。今日もまた、犠牲になった生物が出てしまったようですー。」



「今日発見されたのは、白いアザラシのような生き物の死骸。乱獲組織に襲われたような跡がありますが、強く抵抗したものと見られ連れ去られるまでは行かなかったようです。」


「この生き物について、専門家は『このような種類は今までに見たことがない。またこれも、組織が狙う未確認生物の類に入るものだと思われる。』とコメントしています。」



剥きかけのリンゴが手から滑り落ちる。


頭が真っ白になった。


嘘だ。


これは組織がテレビ局までも悪いことを仕掛けて嘘を流しているに違いない。

そうだ、そうに決まっている。


すぐに、家を飛び出した彼のいる湖へと走っていった。


……………………


サイレンの音が今夜も響いている。

…………


胸が苦しい。

この苦しさは、走りすぎたことだけではない。心がものすごくしんどいのだ。


彼が現れない。


現れないのだ。


いつもだったら、「音がしたからすぐわかったさ」なんて言って睡蓮の花を揺らしながら顔を出すのに。

こんな遅い時間に会いに来た私に「ダメじゃないか、夜は危ないんだよ」と言ってほしい。



出てこない。



もしかして、夜の暗闇に飲まれてしまったのかもしれない。 さっきのニュースは嘘だから、いなくなってしまった理由はそうなんだ。 


だとしたら、お願いだから私のことも飲み込んでほしい。




息が苦しい。

空気で喉が詰まるような感覚だ。


私は声を上げて泣いていた。

なんでいないの。 おかしいよ。


今夜も月が綺麗だった。





「おはようございます、朝のニュースです。昨日発見された、白い生物について衝撃の事実が発見されました。」


「専門家たちの解剖により、白い生物は喉に人と同じ作りの声帯を持っていたことが判明しました。また、脳が非常に発達しており、特別なコミュニケーションができていた可能性も考えられます。」


「次のニュースです。今朝4時頃、湖のほとりで倒れている女性が発見されました……

最後まで読んでくれてありがとう。感想送ってもらえたら泣いて喜んじゃうよ。

[https://odaibako.net

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