プロローグ
「姫さん、すまないが俺は行く。こうでもしねえと取り返しがつかなくなるかもしれねぇ。 俺にも守るべきものぐらいはあるからな……。 じゃあな。」
朦朧とした意識の中、リントヴルムの声が脳内に響く。その声を追いかけようと手を伸ばすが掴むどころか届きもしない。なんど手を伸ばしても結果は変わらない。意識もせずに口を動かす。
「行か…な、いで……。」
そんな思いも虚しく遠ざかっていく足音。いつも元気なリントヴルムの声は震えていてその鋭い牙でいつ噛まれてもおかしくないほどとげとげしかった。
リントヴルムはステラが知らないことをたくさん教えてくれた。龍の世界の存在。龍と人間との間に戦争があったこと。魔法が世の中から消え去った理由。まだ知らないことはたくさんある。それなのにこのまま会えなくなるなってしまう。それでも身体は動かない。
「ステラ様、リントヴルム様は必ずお戻りになられます。なので、今はゆっくり身体をお休めてください。リントヴルム様がお戻りになられたときに笑顔でお迎えできるように……。」
ステラ側近の従者、ステラの頭を撫でながら優しく声をかける。
「戻って……くる……のよね……リ、ン君…」
熱で声もまともに出なくなっているステラに心を痛めるアダル。また頭を今度はさっきよりも穏やかに撫でながら言う。
「はい。絶対に戻ってこられます。ステラ様を放っておいてどこかへ行かれるなど、私が許しません……。」
そう言い終わると既にステラは眠っていた。また微笑みかけベッドの横の椅子に座った。